第百六十話 ドラムスの思惑
sideドラムス
「準備はできたか?」
「あぁ。しかしあんたも来るんだな」
「ふん。私だって今回の件には関わっているわけだからな」
俺の屋敷にドイルの奴がやってきた。どうやら一緒についてくるつもりなようだ。全くがめついやつだ。どうせこれから俺が手に入れる遺産が狙いなんだろう。
まぁ俺が借金で苦しんでいるときに貸してくれたのはこの男だ。無視も出来ない。その分利息も高いがな。
「しかしあんたもなかなかの悪だな」
「……何の事だ?」
「とぼけんなよ。最初からこうなることはわかっていたんだろう? あのクソ親父が死んで俺の手元に遺産が転がってくるってな」
「…………さて、どうだかな」
ムスッとした顔で笑いもしない。全くしらばっくれやがって。あの親父がもうすぐ死ぬって情報もこいつが寄越したんだろう。
ま、どっちでもいいけどな。あの馬鹿何かって言うと人に迷惑を掛けるなだ、もっと人の気持ちを考えろだのうるさくて仕方なかったからな。
それでも最初は俺が困った顔して反省してますと神妙な顔でも見せてれば金の工面をしてくれたが、それも渋るようになりしまいには俺には財産を一切残さない今後金も出さないなんていいだしやがった。
全くフザけた奴だ。親なら最後まで子どもの面倒を見るもんだろうが。
それなのに無責任なことばかり言いやがって。だから俺はあいつが死ぬのを待ち望んでいた。そうすればあいつの遺産が俺の手元に転がってくる。
だからあいつが情報通り死んだ時は飛び上がって喜んだもんだ。そして俺は屋敷に戻り奴の遺した財産を探した。
だが見つからなかった。どこにもそんなものはなかった。屋敷にあったのは大して金にもならない調度品とわずかばかりの金だけだ。屋敷中探してもせいぜい金貨100枚程度しか手に入れることが出来なかったのさ。
だがこんなもんじゃ俺の借金には程遠い。その時またドイルがやってきて孤児院を狙えと言ってきた。
俺もその時初めて知ったが、あの孤児院はあのクソ親父が所持していたものだった。それをどういうわけか無償で使わせていたわけだ。
ムカつく話だった。許せないと思ったね。俺には何も遺さずあんな貧乏ったらしいガキしかいない孤児院の面倒見てるなんてな。
しかもあいつは死ぬ前に財産を孤児院の為に使うと言っていたらしい。だが、だからこそあの孤児院になにかあると踏んだ。ドイルが狙えと言ったのもきっとそういう狙いがあったからだろう。
だから俺はこの話に乗った。孤児院に行ってわかったが院長の女はあまりにお人好しが過ぎるこいつなら楽勝だと思った。
俺はドイルに上手いこと契約書で騙してやろうと伝えた。だがそれをあいつは渋った。その手は下手したらバレると。それならばと教えてくれたのが借用書の入れ替えだった。
確かにその手なら借用書そのものに嘘はなくなる。後は俺が怪しまれないように上手くやるだけだが、これでも散々悪さしたからな。人を信用させるのは得意だったのさ。
だから簡単に成功した。後から真実を知ったときの院長のあの絶望した顔たまらなかったぜ。
何も知らない馬鹿を騙す瞬間はたまらねぇ。しかもあの院長美人な上いい体してるからな。ますますゾクゾクしてくる。
借金の形にあの女も奴隷堕ちさせるが、その前にしっかり味見してやんねぇとな。
さて――時間だ。
「ではそろそろいくとするか」
「あぁ。だがドラムス。孤児院にはあのエドソンがいるのだろう。ならば決して油断はするなよ」
「油断? はは、油断も何もこんな短い間で借金を返せるわけないだろう?」
「……そういうことを言ってるわけではない」
は? 何を言ってるんだこいつは。あいつとの約束で三日後に全額返すと聞いてる。だがあの金額を三日でなんて無理な話だ。
ま、おかげで俺は金貨500枚を手に入れることも出来た。とっくに使ったがな。
こいつはそれについても、まだ返してもらってないというのに、とグチグチ文句を言われたが、後で纏めて返せば問題ないだろうって話だ。
「とにかく気を抜くなよ」
「わかったわかった」
本当に心配性な奴だ。こいつこれで本当にやり手の商人なのか?
こんな奴ならいずれ俺が上手いことやって商会ごと乗っ取ることも可能かもな。
まぁいい。俺は屋敷を出て孤児院に向かった。
「さぁ約束の期限が来たぞ。耳を揃えて借金を返してもらおうか!」




