第百五十八話 エドソン子どもを泣かせる
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私達は商業ギルドを出た後、その足で孤児院に向かった。
「あ! エドくんだ~!」
「きれいなメイドさんも~」
孤児院に着くと子どもたちが駆け寄ってきた。私達のことを覚えていてくれたようだな。メイもすっかりなつかれているし。
相変わらず私は子ども扱いのようだけどね! もういい加減なれたが。
「ほう。ここが孤児院か」
「え――」
そして私達から少し遅れてハザンが入ってきたが、子どもたちがギョッとした顔を見せた。
そういえばハザンがここに来るのは初めてだったか……私達はすっかり慣れてしまっていたがハザンはガタイが大きく強面の顔をしている。
子どもたちが怖がるのも致し方ないというものか。
「きょ、巨人だ!」
「え? 巨人?」
「巨人なの?」
「ん?」
すると孤児院の男の子がハザンを巨人と呼称して騒ぎ出した。それにしても巨人か……懐かしくも思える響きだが、たしかに子どもたちから見たらハザンは立派な巨人なのだろう。問題はハザンの反応だが。
「フッ、バレちまったか。そうだ、俺が巨人だぜ。だからこんなに逞しい」
ムンっ、と腕を曲げてポーズを決め肉体をアピールしだした。すると子どもたちの表情が一変し、笑顔になってハザンの周りに集まりだした。
「巨人さんだー!」
「すっご~い」
「怪力なの~?」
「おう! 掴んでみるか?」
「キャ~! すごいすごい~!」
ハザンの腕に子どもたちがぶら下がり背中にも乗りおんぶにだっこにと大騒ぎだ。
「ふむ。ハザンの奴、意外と面倒見がいいんだな」
「はい。子ども達もすぐに打ち解けましたね」
あぁ、大したもんだ。
「エドソン様。子どもたちの遊び相手になって頂きありがとうございます」
「マザー・ダリア。いやいや、私というよりハザンがよくやってくれてますので」
ダリアもやってきて頭を下げてきた。しかし今は子どもたちにとってハザンが主役のようなもんだしな。
「あの方はハザン様というのですね」
「えぇ。彼はB級の冒険者なのですよ」
「まぁB級の。そのような方に時間を取らせてしまって申し訳ありません」
「いやいや。俺の方から勝手についてきてることだ。気にしないでください」
子どもたちの相手をしながらハザンがダリアに答える。このあたりハザンはやはり気持ちのいい性格をしている。
「さてマザー・ダリア。今日伺ったのはドラムスの件も含めて話をしておこうと思いまして」
「そういえば――もうすぐでしたね……」
ダリアの表情が曇る。やはり借金の件は彼女にとっても頭の痛い問題なのだろう。
ハザンに子どもの面倒は見てもらい私とメイは近くの席でダリアと話すことにした。
これまでの情報も簡潔にまとめてダリアに聞かせる。
「以上のことからドラムスに裏がありそうなのは確かですね。その上で確認したいのだがコエンザム氏から孤児院の今後についても含めて何か聞いていませんか?」
「コエンザム様からですか……確かに今後のことも心配しないでいいと生前言われてはいましたがそれぐらいしか……」
念の為確認してみたがダリアの話から特に新しい情報は引き出せなかった。
「あの――借金の件は難しいですよね? こちらも無理を言っていることですのでどうかお気になさらず」
「いやいや。安心してください。いざという時の為に奥の手は用意してありますし、それに商業ギルドも手助けしてくれると言ってくれていますから」
「え? 商業ギルドがですか?」
ダリヤが随分と驚いていた。恐らく商業ギルドのイメージ的に孤児院に関与すると思ってなかったのかもしれない。
そして奥の手――この孤児院を魔導具で守る手なら幾らでもある。ただ、かなり強引なやり方になるから出来ればドラムスを完全に論破して退けるやり方が望ましいのだがな。
「エドくん元気だして!」
「え?」
声がしたので見ると以前も見た可愛らしい少女がくまのぬいぐるみをもって横に立っていた。
「はい。エドくんにこれ貸してあげる。だから元気だしてね」
「あはは。ありがとう」
そして少女がくまのぬいぐるみを私に差し出してきた。ぬいぐるみを受け取りちょっとモフってみる。
「このくまさんはね。幸運のくまさんだっておじちゃんが言ってくれてたの! 私の宝物なんだ!」
「そうなのですね。ならきっと幸運が舞い込んで来ますよご主人さま」
メイが笑みを浮かべて言った。少女も笑っている。ダリアの表情から固さが取れたか。
きっと私も含めて難しい顔をしていたのだろう。子どもはそういうのに敏感だからな。少女なりに気を使ってくれたのだと思う。
それにしても幸運のくまさんか。きっとこれがフレンズの言っていたぬいぐるみだろう。前に来たときにもコエンザムからプレゼントされたと言っていた。
そう幸運の。実はこれも気になっていた。コエンザムは随分とあっちこっちでぬいぐるみについて語って回っていたようだが、幾ら嬉しいにしてもそこまでするだろうか、とね。
しかしぬいぐるみか――そういえばこのサイズ……うん?
そうだ。メイクが言っていたじゃないか。コエンザムに頼まれて金属の小さな箱を作ったと。
だが何のために使うかはわからないと。だけど、もしかして!
「ご主人さま?」
私は腕輪から鑑定眼鏡を取り出しレンズ越しにぬいぐるみを見た。
「――ッ! やっぱりか!」
「エドくん?」
「お、おいおい兄弟――」
くまのぬいぐるみをひっくり返しリングから取り出したナイフを背中に刺した。背中の部分をこじ開け中に手を突っ込む。そして――
「やっぱりあった! これだ! この箱はこの中だったんだ! 見ろメイ! きっとこの箱の中に――」
箱を手に思わずメイに向けて叫んだ。テンションが上がる。だが、メイの様子が、いや何か周囲の空気が、あれ?
「ご主人様――」
メイが人差し指を私に向けてきた? いや違うそのさきは私ではなくて、あ――ぬいぐる、み。
この微妙な空気の意味に気が付き持ち主を見ると、目に涙を一杯にためた少女の姿があり――
「う、うわぁああんエドくんがくまさんを~~うぇぇええええん!」
「わ、わわ、これは!」
「兄弟。さすがの俺も今のは引いたぞ」
「いや、だから!」
「はぁ。御主人様は時折周りが見えなくなり突き進んでしまうのが欠点ですね」
あ、あうぅ。確かに思わず魔導具作成にかまけて300年引きこもったりしたけど~~~~!
「御主人様。くまさんをお貸しください」
「あ、あぁ――」
破けたぬいぐるみをメイに差し出す。するとメイが裁縫道具を取り出しあっという間にぬいぐるみを直してくれた。
「お嬢様。これでどうか御主人様のおいたを許してはいただけませんか?」
「え? わ、わぁあぁああ! くまさんが治った~~! わ~いわ~い! お姉ちゃんありがとう! 大好きーーーー!」
「あらあら」
すっかり元通りのくまさんに少女は機嫌を取り戻してくれたようだ。しかし流石メイドロイドのメイだな。裁縫も完璧だ。
さてと、後はこの箱の中身だが――




