第百五十七話 情報をまとめる
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「そのドラムスですがどうやらかなり危険な相手から金を借りていたようです」
フレンズの後を引き継ぐ形でジャニスが情報を追加した。
「危険なというと?」
「裏の金貸しです。金利が高いことで有名な上、取り立てるためなら何でもやるような連中です。まして相手は資産家の息子。例え息子に支払い能力が無くても親から幾らでも取れると踏んだのでしょう」
「ふむ……それで実際はどうだったのかな?」
「そこです。案の定ドラムスは何度か父親のコエンザム氏に泣きついて立て替えてもらおうとしたようですが父親は断固として首を縦には振らなかったそうです」
「なるほど随分と厳しい父親だったんだな」
「それは違うな。俺も噂で知った話だが過去にもあのドラムスって野郎は相当好き勝手やっていてその度にコエンザム氏が面倒を見ていたそうだ」
これはロートの発言だ。
「ですが、それも限界に来ていたということなのでしょうね。特に孤児院に関わってから息子に厳しくなったと聞いております」
そしてガード……しかし随分とボロボロと話が出てくるものだな。
「しかし父親が面倒を見なかったとして――その借金はどうなったのかな?」
「そこです。実は裏の筋から聞いたのですがある日ドラムスが一括で借金を返済したそうです。その時得意げに言っていたそうです。まもなく莫大な遺産が入ると、ね」
ジャニスが語る。
「遺産……その時に父親は?」
「時期的にまだ存命だったとそこまでは調べがついてます」
「おいおい、話だけ聞いてると随分と真っ黒じゃねぇか」
ハザンが肩を竦めた。確かに本人が亡くなる前に遺産が入る前提で話を進めているのもおかしい話だ。
「コエンザム氏には特に大病に侵されたという話もありませんでしたしね……」
「そもそもで言えばコエンザム氏は遺産を息子に遺すつもりなどさらさらありませんでしたから」
フレンズが怪訝そうに口にすると、フレームが眼鏡を直しつつ話に加わった。
「何か聞いていたのですか?」
メイが確認を取るとフレームが顎を引く。眼鏡のレンズがキラリと光った。
「うちも商業ギルドですから。コエンザム氏には今後の資産運用についてなどで相談を受けていたこともあるのですが、話の流れで本人が亡くなった後の話になったことがありましてね。息子のドラムスに遺すかどうかという話を振った時に厳しい表情で『死んでもあの馬鹿に遺産はくれてやらん』と言っていたのです。そしてそれなら孤児院の為に使うともね」
なるほど……やはりコエンザムは随分と孤児院を大切にしていたようだ。
「孤児院の子どもたちもまるで自分の子どものようだと話していたそうですしね。プレゼントしたぬいぐるみを随分と気に入ってくれたと嬉しそうに周りに言いふらしていたそうですよ」
「それなら私も聞きました。行きつけの酒場でも幸運のぬいぐるみなんだっていろいろな人に話していたそうです」
フレンズとガードが教えてくれた。ぬいぐるみ、もしかしてあの少女の持っていたくまぬいぐるみかな?
「それはまた。プレゼントして喜んでくれたのがそんなに嬉しかったのか?」
ハザンが顎に手をやり誰にともなく聞いた。
「かもしれませんね。いざとなった時に幸運のぬいぐるみが助けになってくれれば、といった話もしていたそうですから」
「はは。確かにそれだけ言うなら今回も何か幸運を呼び込んでくれるかもね」
私もついついフレンズに話をあわせた。とは言え私は魔導具師だ。運否天賦に任せるような真似で済ませるわけにはいかない。
「ふむ。そういえば今思い出したぞ」
ここでふと鍛冶師のメイクが割って入った。
「コエンザム氏から一度だけ鍛冶仕事を依頼されたことがあるんだ」
「ほう。何だ武器でも頼まれたのか?」
「寧ろ身を守る防具とかじゃないのか?」
ハザンが興味深そうに食いつく。ロートも話に加わるがハザンとは真逆の考えだ。
「いや、それが武器防具とかじゃなくてな。頼まれたのは小さな金属の箱なんだ」
「――箱?」
メイクが答えるが、箱というのが少し気になるな。
「あぁ。しかもただの鉄の箱でいいというわけでもなく、柔らかい物で包んでも違和感のないような軽い物がいいっていうんだ。その場合耐久性は損なわれるが、と伝えたんだが耐久性はある程度保っていればいいって話でな」
「何だそりゃ? そんな箱どうするってんだ?」
目線を天井に向けつつ不思議そうにハザンが言った。確かに小さな箱だと用途は限られるが……
「ふむ。俺もそこまで踏み込んで聞いたりしないしな。まぁ頼まれた物はきちっと作って渡したよ。随分と喜んでくれたからいい仕事が出来たとその時は思ったんだがな」
「……柔らかい物に包んでも違和感のない小さな金属の箱か――」
ふむ。なんだろうな。一つ一つの情報は点だが、上手く結びつければ何か結びつきそうな――
「集めてきた情報は現在ではこのぐらいでしょうか」
「しかし、これでなんとかなりそうかよ兄弟?」
「う~ん……そうだな。一度孤児院に行ってみようと思う。何となくだけどやはりそこに鍵がある気がしてならないんだ」
そして私は商業ギルドを一旦出た。デモに関してももう少しだけ待って欲しいと念を押しておいた。
ちなみに孤児院について、フレームがいざとなったら商業ギルドでなんとか出来る方法はないか考えてくれるとも言ってくれた。
意外だったけどね。商業ギルドは自分たちにとって利益に繋がることしかしないというイメージだった。
だからあまり関わりのない孤児院についてここまで肩入れしてくれるなんてね。もっとも何かしら利益に繋がると考えているのかもしれないけど。
「さて、とにかく孤児院に急ごうか」
「おうよ兄弟」
「はいご主人さま」
そして私達はその足で孤児院に向かった。
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