第百五十四話 商人たちの決意
私はメイやハザンと一緒に商業ギルドに向かった。商業ギルドにつくとフレームは勿論だがガードにフレンズ、ロートにジャニス、鍛冶師のメイクと勢揃いだ。
「これは皆さんお揃いで……どうもただ事じゃない様子だね」
「皆様厳しい顔をしております。リラックス効果のあるお紅茶でも淹れましょうか?」
「いや、それならうちが――」
「お気になさらず」
フレームが立ち上がるが、メイは商会の受付嬢に話を聞きお茶を用意しに向かった。
メイの目は確かだからな。茶葉もこの場に合った物を用意することだろう。
「さて、色々と積もる話もありそうだが、私からいいかな?」
「勿論です。むしろこちらこそ急にお呼び立てして申し訳ありません」
フレンズが頭を下げた。それについては何とも思ってないし丁度良かったと返しておいたが。
「さて、私の件だが実は鉱石の目処がついてね。とりあえず急ぎだろうから必要そうな分を運んできた。これは商業ギルドに卸す形でいいかな?」
「え! それはもう願ったり叶ったりですよ!」
フレームが嬉々とした様子で声を張り上げる。やはり鉄不足は深刻だったか。
「ならとりあえずそれを見てもらおうか」
「ならこちらへ」
「それなら俺もいいかい? こっちもずっと不足していてな」
メイクも品質を確かめたいようだ。フレンズとガードも一緒に来て私が用意した鉄と魔法銀に随分と驚いていた。
「鉱山を一緒に見に行ったのでわかってましたが、これだけの量を一度で運べるとは……」
「まぁ本来はアレクトの力だけでこれぐらいやってほしい所だが今回は緊急事態だからな。必要なら更に運んでくることも可能だから言ってくれ」
無限収納リングならこの程度いくらでも運ぶことが出来る。もっとも肝心の商業ギルドに保管出来る量には限界があるだろうから必要な分を聞いて持ってきた方がいいだろう。
「品質も問題ないどころかこれまで入ってきていた鉱石より遥かにいいですね。これなら十分勝負になります」
「あぁ。俺も腕がなるぜ」
フレームが眼鏡を直しながら感心し、メイクも鼻息を荒くしている。
「これは……やはり頃合いかも知れませんね」
そしてフレンズがそう口にしたが、頃合い? 妙な言い回しだな。
「ご主人様。お茶とお菓子の準備が整いました」
「あぁこっちも見てもらったしな。一度戻っても?」
「はい。これでこちらも話を進められます」
ふむ……どうやら私の持ち帰る鉱石を待っていたようだな。しかし、ただ鉱石が入ってきてよかったよかったという話ではなさそうだ。
一旦席に戻りメイの用意してくれたお茶と茶菓子を味わいながら話を聞くことにした。
「実は我々もずっと考えていたことがあるのです」
先に切り出したのはフレンズだった。そしてロートやメイクもうんうんと頷いている。
ジャニスは静かにお茶を啜っているが目は真剣そのものだ。
「さっきから何か妙にピリピリした空気も感じやがるな。せっかくのお茶も落ち着かないぜ」
ハザンが肩をすくめる。確かにな。それでもメイの淹れてくれた紅茶のリラックス効果は高い。多少は気分も落ち着いているようだが、しかし何か決意めいた感情は残っていた。
「もうしわけありません。ただこれから我々がやろうとしていることはかなり大掛かりでして……エドソンさん。実は我々は抗議デモに乗り出そうと思っているのです」
「抗議、デモ?」
フレンズの発言に多少なりとも驚いた。まさかそう出るとはな。
「抗議というとどちらにでしょうか?」
聞いていたメイが確認する。そこは勿論大事なところだろうな。
「そりゃ勿論領主にだよ」
ムスッとした顔でメイクが答える。領主、あの男か……
「正直今回は納得の行かないことも多い。鉱石は勿論だが冒険者ギルドが関わる案件には全て冒険者やドイル商会が独占状態で彼らが気に入らない相手には条件を厳しくしたり単価を上げたりとあからさまな嫌がらせを行っている。私はエドソンに依頼して採取して貰っている分があるからまだいいが多くの薬師が不満を抱えている。以前冒険者ギルドには我々薬師を怒らせたらただでは済まないと忠告したがいよいよ行動に移すときがきた」
ロートも怒りを顕にしていた。よほど腹に据えかねていたようだな……
「私達も気持ちは一緒です。ドイル商会のやり方に不満を持つ商人は少なくない」
ガードも苦虫を噛み潰したような顔で語る。ドイルのやり方は元々強引で当然良く思ってない商人も多いだろう。
「実は今回の件は奴隷取引にも影響してます。私の商会は他にはない育成方法で奴隷の質を高め更に不当に奴隷を扱われないよう目を光らせて来ましたがにもかかわらずこの領地で奴隷を扱う許可を停止すると通達が来たのです。もっともエドソン様のおかげで別なやり方も段々と周知されてきていたのですが……」
ジャニスがそこまで言って言葉を濁した。逆に言えばそのやり方で目をつけられたとも言えるわけか。もっとも大きな要因は私達に協力していたことも大きいのだろう。
そういう意味では私にも責任はあるか……しかし彼らの決意を見るに事実上反乱に近いことをやりだしそうな勢いでもある。さてどうしたものか――
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