第百五十二話 益々増す疑念
「ガイアク……あの男か」
「え? ご存知なのですか?」
悪魔化したあの男の顔を思い出し呟くとウルナが反応を示した。ずっとデニーロの領にいたのならガイアクの末路を知らなくても仕方ないか。
「ウルナ様。ガイアクは既にこの世にはおりません」
「え! な、亡くなられたのですか?」
メイが伝えウルナがめを丸くさせる。かなり驚いているな。
「うむ。欲望に飲まれ悪魔化してな。その結果様々な悪事も白日のもとに晒されることとなった」
「あ、悪魔に? そんなことが……」
「私も驚きだ。悪魔などおとぎ話の中だけの話と思っていた」
「それが実際いたのさ。俺もその時に戦ってこの目で見たからな」
悪魔という響きにウルナはどこか恐れおののく様子を、デニーロも信じられないと言った様子を見せていた。
ハザンは私の話が間違いないと証明してくれている。
「さて悪魔化したガイアクだが、ドイル商会ともつながりがあったわけだが、それは知っていたかな?」
ウルナに確認の意味で聞いてみる。もっとも答えはある程度予想がついた。
「そ、そんな……私も夫もそんなこと知りませんでした。でも、それなら――」
ウルナが何かを思い出すように目を伏せ指を口元に持っていく。
「なぁ兄弟。今の話だけ聞いてると――」
ハザンが神妙な顔で私の耳に顔を近づけてくる。
「もしかしてウルナの夫を襲った盗賊というのはよう……」
「あぁ。私も同じ考えだ。十中八九ドイルの差し金だろう」
ハザンなりに気を遣ったつもりなのだろう。ウルナに聞こえないようにこそっと耳打ちしてきた。私の答えはもちろん肯定だ。
「ウルナさん。少々話が脱線しましたが続きを聞かせて貰っても?」
とにかく話はまだ途中だったからな。先を促した。
「……はい。今ので確信しました。やはり話した方が良いのでしょう。既に御存知の通り夫が亡くなってからガイアクに対する損害賠償が発生し私達は多額の負債を抱えることになりました……」
悲しそうにウルナが口にするが馬鹿な話だ。以前ジャニスから聞いたときも思ったことだが盗賊に襲われたのが原因なのにその負債をしかも残された遺族に求めるとはな。
「私は絶望し……ウレルと一緒に死のうかとも考えました。ですがその時――私の元に手紙が届いたのです。差出人は不明でしたがドイル商会について不穏な動きがあり調べていると。情報を知りたいということでしたので指定された場所で話をしました。顔も隠していて正体は明かして貰えませんでしたが領主様が色々と動いてくれていると――私はその話に縋るしかありませんでした」
領主様――私の脳裏にあの男の顔が浮かんだが、しかし今の話のイメージとは一致しない。
「話の腰を折ってしまいもうしわけないが、領主様というのは今シドの町周辺を治めているハリソン伯爵家のことかな?」
どうしても気になってしまったので聞いてみる。
「……いえ。ハリソン伯爵家なのは確かですが、私が話を持ちかけられたときと今では違うのです。そしてそれこそが私がプジョー男爵領に逃げることになった原因なのです」
「おお、何か話が大きくなってきたぜ」
ハザンが真剣な顔で言う。確かに。しかも色々と話がつながって来た気もする。
「一体君に何があったというのだね?」
「――情報交換をして少し経った後の事です――領主様が盗賊に襲われ、亡くなられたという話が飛び込んできました。その直後なのです私に逃げた方がいいと手紙が届いたのは。しかし、逃げるにしてもウレルも一緒では共倒れになるかもしれない――せめてウレルは安全な場所に、そう思っていた時でした主人と交流のあったフレンズ様にジャニス様の話を聞き、藁にもすがる思いで紹介してもらいウレルのことをお願いしたのです……」
なるほど……どうやら元の領主がいなくなったことにもあの連中が色々関係している可能性が出てきたな。勿論今領主面しているあの男が無関係とも思えない……
「そんなことがあったのか……私も詳しくは聞かなかったが」
「申し訳ありません。下手に話しては流れ着いた私にも良くしてくれたデニーロ様に迷惑がかかるかもしれないと思ってしまい……」
逃げるよう指示があったということは命も狙われていた可能性があるのかもしれない。そんな連中が相手なら迷惑を掛けたくないと思うのもわかる。
「話はわかりました。今貴女が戻れないというのもそのことがあるからなのだな。今の状態でウレルと再会してもかえって迷惑を掛けるかもしれないと」
「……はい。まして今宿の経営に関わり頑張っているのなら殊更そう思えてしまうのです」
「その気持ちはわかりますよ。だからこそできるだけ早く解決しないとな――」
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