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300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品《魔導具》が、軒並みチート級の魔導具だった件  作者: 空地 大乃
第一章 フォード領編

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第百三十七話 スロウの行方

 あれから私達は火の魔石を持ち帰り、そして高炉の作成に携わった。魔導高炉も無事完成し、ベンツを親方とした魔導列車造りが本格的に始まった。


 さて、ここまで進んだところで私も魔道具の術式についてアレクトと話し合う必要があるなと考え始めた。それに魔導ギルドのこともある。勿論ちょいちょい戻ってはいたがそろそろ一旦シドの町に戻り、様子を見ておくべきだろう。その上でアレクトやメイとで今後のプランを練る。


「うぅ、ちかれましたぁ」

「全く弱音を吐くのが早すぎだろう」

「早いって、もういい時間ですよぉ」

「ん? そうか?」

「ご主人様。既に時は夜の7時を回っております」


 何とそうだったか。どうやら夢中になりすぎて時間の感覚も忘れてしまっていたようだ。


「いかんな。私のような研究者は集中するとつい時間を忘れてしまう。3徹のつもりが300年徹してしまったように」

「壮大なギャグですねぇ……」


 アレクトが目を細めた。しかし、ギャグだと? 本当のことなのだがな。

 

「仕方がない少し休憩と行くか」

「では紅茶を淹れてまいりますねぇ」

「あうぅ、出来れば甘い物も~」

「贅沢な奴だ」


 全く。とは言え脳がつかれた時には甘いものがいいのもまた事実だが。


 さて、メイの淹れてくれた紅茶と焼いてくれたパンケーキを食べていると、ガチャンとドアが開き、中に猫耳が特徴的な少女そう今は宿の経営者となったキャロルと孤児院の子どもたちが入ってきた。


「何だキャロルに子どもたちじゃないか。どうしたんだこんな時間に?」

「よ、良かったエドソンさんがいてくれて――」


 キャロルや子どもが安堵したような目を私達に向けてきた。どうやら私を頼ってここまで来たらしい。


「何かあったのですか?」


 彼女たちの緊迫した様子にメイも気がついたのだろう。何事かと問いかける。


「スロウお姉ちゃんが戻らないんだ!」

 

 スロウ……冒険者ギルドの受付嬢になったあの少女か。


「心配で子どもたちがギルドに聞きに行ったそうなんだけど、今日は用事があって早めにギルドからは出たらしくて、それなのに全く戻らないから心配になったみたいなの」

「ふむ……しかし、スロウというとあのぼ~っとした娘だろう? 何か道もよく迷うようだし、そのあたりでもふらついているんじゃないのか?」

「エドソンくん、遠慮なさすぎ!」


 アレクトが語気を強めるが、そのことは子どもたちも知っていることだし今更だろう。


「確かにお姉ちゃんはドジで抜けてて方向音痴だけど、でも、食いしん坊なの!」

「く、食いしん坊?」

「うん。だからどんなに迷っててもお食事の時間には戻ってくるんだよ!」

 

 何だあいつは。そういう動物か何かなのか?


「でも、今日はもう食事の時間は過ぎてるのに戻ってないみたいで……」

「ご主人様、これは?」

「ふむ……」

「た、大変だよ! すぐに探しに行かないと、ひ、人攫いかも!」

「え? 人攫い!」

「スロウお姉ちゃんが?」

「ふぇ~んお姉ちゃんがぁ~」

「アレクト、お前は余計なことを……」

「あ、あわわ――」


 全く子どもたちが心配になって一斉に泣き出してしまったではないか。こういうのは苦手なんだがな……


「あ、あの、魔導ギルドはここであってますか?」


 泣きじゃくる子どもたちはメイがあやしてくれていたのだが、そこにまた別の客がギルドの戸をノックした。そして入ってきたのは一人の受付嬢だ。


「その制服、冒険者ギルドのものですね」


 メイはすぐに客人の正体に気がついた。しかし、冒険者ギルドの受付嬢が何のようだ?


「あ、お姉ちゃん確かさっきの!」

「さっきギルドにいたお姉ちゃんだ~」


 受付嬢の登場に子どもたちが騒ぎ出した。スロウを探しにいったというからその時にみたのか。


「君たち……ここにいるってことはやっぱりスロウが戻ってないの?」

「おい、スロウについて何か知っているのか?」

「え? そうなの?」

「お姉ちゃんどこ~」


 子どもたちがやってきた受付嬢に駆け寄り制服の裾を引っ張った。受付嬢は困った顔をしている。


「……キャロル。君は子どもたちとここで待っていてくれ。そして受付嬢の君はこっちに来てもらおうか。そこで話を聞いたほうがいいのだろう?」

「あ、はい。ありがとう……」


 そして受付嬢を連れて私とメイは別室で話を聞くことにした。


「魔導ギルドってもっとみすぼらしいイメージだったのだけど、随分と綺麗になったのね……」

「当然だ。元のままじゃ客もよりつかんからな。改装して中も広くした」

 

 以前は部屋という部屋もなく蜘蛛の巣も張りっぱなしの酷い平屋だったからな。


「それにしても……僕のような子どもが本当に魔導具師だったのね……」

「喧嘩売りに来たのか貴様は」

「ご、ごめんなさい」


 全く。やはり冒険者ギルドの連中は好きになれないな。以前も私が魔導具を持ちこんだら小馬鹿にして門前払いなどにしてきたし。


「それで、ここを訪れたのはもしかしてスロウ様のことがあってですか?」


 私が不機嫌なのを見てか、その後はメイが話をすすめてくれた。受付嬢は、その、とどこか言いにくそうだったが、意を決したように話す。


「実は、スロウは今大変な状況かもしれないんだ。ドイル商会の会長の屋敷に行ったらしくて……あの会長はその、受付嬢に手を出していることでも有名だから」

「何だってどういうことだ?」

「説明してもらえますか?」

「う、うん。ギルドで職員が言っていたのを聞いて、マスターに言われてスロウが屋敷に呼ばれたって。仕事だって話だけど、多分その仕事は、体が目的で、だから心配で」

「……それで私を頼ったのか?」

「ここのことは最近話題になっていたからなんとかしてくれないかなって思って……」

「だったらどうしてもっと早くこなかった! それが本当なら手遅れになっていた可能性が高いだろう!」

「し、仕方ないんだ。仕事を抜け出せる様子じゃなかったし、下手なことしたら目をつけられるかもしれなかった」

「くそ、だとしてもおそすぎだろう。全く、いくぞメイ」

「はい。ご主人さま」

「そ、その、甘いかもしれないけど、スロウは凄い方向音痴で、約束の時間に半日以上遅れてくるなんてのも日常茶飯事だったんだ!」


 それもどうかと思うが……


「だから、ドイルの屋敷にもまだ着いてない可能性はあると思う、というか今度ばかりはそのドジが役に立ってると、そう信じたいんだ……」

「……お前はそんなことを私に話して大丈夫なのか?」

「え? いや、わからない……でもバレたら間違いなく首かな……」

「……ふん。それで行く宛がなくなったら来るがいい。安い給金でせいぜいこき使ってやる。行くぞメイ!」

「はい――」


 そして私達はドイルの屋敷に向かった――

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