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第21筆 その宛名は……


 その手紙は、神様宛のポストじゃなく、神社の脇にある我が家のポストに入っていた。朝早く、境内の掃除と合わせて新聞を取りに行ったら、ぽろっと落ちてきた。


 封筒の宛名は俺、差出人はキレコだ。


 何の手紙か気になって。何より「俺宛」なのだから、遠慮なく封筒を破いて手紙を取り出した。そこには、「勝手に人の手紙を読んで。許しません!」と書いてあった。


 盗み読みがばれたのか?


 そう思って、手紙が入っていた封筒を調べてみて気がついた。


「あれ? 切手も消印もない」


「だって、いま入れたんだもの」

 と言いながら、境内の神木の陰から、ひょこっとキレコが顔を出した。「やっと会えたね、先輩」


 突然の登場で、動揺しかない俺に向かって、右手を銃の形にして、バン、と撃つ真似をする。さらにキレコの後ろから、ひょこっと風子ちゃんが顔を出す。


「あ、あの時のお兄ちゃんだ」


 何が何だか分からず、俺は両手を挙げて見せた。それを見て、キレコが嬉しそうに言う。


「降参?」


「ああ、降参だ。俺が手紙を読んでいたことが分かったんだな」


「まあね」


「なんで分かった? 風子ちゃんを探していた時か?」


「ううん。あの時は暗かったし、遠くてよく分からなかった。なんとなく先輩っぽくは見えたけど」


「じゃあ、なんで?」


 問いかける俺に向かって、キレコは、もったいぶりながら何かを取り出した。


「じゃーん、これなーんだ?」


「そ、それは……」


 それは、先月、俺が自分の手で燃やした、焚き上げたはずの手紙だった。確かに、この手で灰にしたはずなのに。


 なぜ?


 疑問に答えるかのように、キレコが楽しげに言う。


「この手紙さ。空から降って来たんだ。

 新しい学校で窓の外を眺めていたら、ずっと高いところから、ひらひらって。すーっと滑るように、窓の外から私の机の上に。いったいどこから来たのかって不思議に思って。風に吹かれて飛んでくるなんてことがあるのかなって。そしたら私宛ての手紙で、びっくりした。読んで、またびっくり」


「……読んだのね?」


「読んだ読んだ、ちょー読んだ」

 と声を上げて恥ずかしそうに続ける。「嬉しかったよ。忘れなくっていいじゃん。ずっと好きでいてよ」


「お、俺は、その……」


 驚くやら恥ずかしいやら申し訳ないやら、言葉に詰まる俺に向かって、意地の悪い笑顔でキレコが言う。


「先輩、これは焚き上げませんよ。

 ずっと大事にします。にひひ。あれ、先輩どうしたんですか。照れちゃって。可愛いとこあるじゃないですか」


「うう、燃やしてくれ……」


「やだ! 手紙、出しますね。返事を楽しみにしてますから。だから」


 だから、燃やすなよ。


 と言って、キレコは、はにかんだような、怒ったような、泣いたような、そして、ちょっと意地が悪そうな顔で、にひひ、と笑った。



 これで完結です。


 キレコさんは、もともと「四角い空の優しさを」という没作品の主役でした。


 手紙ネタを思いついた時にその存在を思い出し、パソコンのゴミ箱から拾い上げました。よく残っていたものです。短く荒い話ですが、お付き合いいただき、ありがとうございましたmm


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