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第19筆 桐生霧子様へ
拝啓
神様、この手紙はキレコ宛に書きました。もちろん宛名だけで、投函はしません。
いつものように焚き上げます。
俺は神様の御使いじゃない。ただの出歯亀、出っ歯の亀吉だ。人の想いを勝手に覗き込んで、人生に土足で踏み込むような真似はしちゃいけない。それは神様だけに許される。
風子ちゃんを助けられたことだけは本当に良かったと思うけど、もう終わりにします。
キレコの手紙が神社のポストに届いても、一切、読まずに、封を切らずに、他の無数の手紙と同じように、燃やして、焚き上げてみせます。それが……
届かぬ手紙を浄化することが、本来のありようだから。この手紙も、この想いも、一緒に空へ帰そう。
桐生霧子!
俺は、お前が大好きだ。
お前が引っ越して。転校して行って。ようやく自分の気持ちが分かった。
風子ちゃんに見せる優しさも、俺に寄越す冷たい視線も、毒を吐く唇も、怒った顔も、泣いた顔も、はにかんだ笑顔も。全部、俺は大好きだ。
でも、これで忘れよう。
さよなら、キレコ。俺は、お前が大好きだった。
敬具




