第17筆 風子とクローバー
拝啓
神様、夕方、境内の掃き掃除をしていたら、突然、キレコがやってきました。
制服のままで掃除をしていたので、やばい、ばれた! と思ったけど、キレコの奴、賽銭箱脇のポストに大急ぎで手紙を放り込むと、すぐに走って行ってしまったんです。
キレコの手紙を読むのはもう止めようと思っていたけれど、どうにも気になって、これを最後と思って見てみたら、紙切れに殴り書きで、「神様、風子を守ってください!」とだけ書いてありました。
何かあったのかと気になって。
そう言えば風子ちゃんは麓の幼稚園に通ってたっけ、と思って麓まで降りていってみると。
風子ちゃんが幼稚園から居なくなってしまったらしく、大勢の人が探していたのです。だんだん暗くなってきていた。
麓の幼稚園は俺も通っていたところで、もしかして、と裏手の森へ探しに行ってみた。
ほとんど手入れされてないから、木の根にひっかかってこけたり、藪に覆われた斜面を滑り落ちたり、制服は破れるわ、泥まみれになるわ。散々だったけど、子供の頃、森で遊び回っていたのが役に立った。
当時、自分だけの秘密基地だと思っていた小さな洞窟に、居たよ、風子ちゃん。
声をかけたら、「眠たい。お兄ちゃん、だれ?」って聞くから、お姉ちゃんの友達だって言っておいた。
安心したのか、もう一度、眠ってしまって。その手には、四つ葉のクローバーが握られていた。眠ったまま、がっしり掴んで離さない。クローバーを探しに来たのかな。風子ちゃんも泥だらけだった。
負んぶして森を出て、風子ちゃんを探していた保育士さんに森の中で見つけたと伝えて託してきた。そのとき、
風子!
って、遠くからキレコの声が聞こえたので、思わず、走って逃げてしまいました。
たぶん、暗くて俺だとはわからなかったと思うけど、幼児連れ去りの不審者として捕まらないか、それだけが心配です。
神様、そんなことのないようにお願いします。
敬具




