第10筆 8月の手紙
拝啓
天国のお母さんへ。
写真部の活動は意外と楽しいです。と言っても、普段は、部室でそれぞれ好きなようにダラダラ過ごしているだけ。
漫画を読んだり、ゲームをしたり。時々、カメラを触ったり、浅田みたいに写真雑誌を眺めたり。たいして会話もなく、だらんだらんの時間を過ごして、銘々が帰る時刻を待つ。
大切な時間をドブへ流すような光景は、生き急いでいる人から見れば、泣きたくなるようなものに違いありません。
ただ私にとっては、心地よいことこの上ない場所です。その日も昼休みに屋上へ向かい、午後1の体育をサボりました。ごめんなさい。
私は不良じゃない。と思うけど、世間的には不良なのかもしれないね。
鞄の底には、細くて小さな、お洒落な感じの煙草が入ってます。お母さんが吸っていた煙草だよ。
未成年者の喫煙は御法度。
でも、煙草の煙を見ることは禁止されていないよね。懐かしくて、時々、火をつけてみるんだ。
小さな炎が、煙草を灰へと変えながら、白い煙となって空へ溶けていって。
立ち上る煙に見惚れていると、屋上のドアが開く音が聞こえて、愛ちゃんが入ってきました。慌てて火を消したけど、たぶん見られてたな。
愛ちゃんは、体育担当で30歳くらい。可愛らしい名前と気だるそうな雰囲気がミスマッチで、印象に残っている先生です。
説教していても、やる気のなさそうな感じが、私にとっては居心地のいい、嫌いじゃない先生の1人。案の定、面倒くさそうに声をかけてきました。
まさに、さぼっていた体育の担当教師で、その上、写真部顧問だったらしいです。ああ、こりゃ駄目だ。ど叱られて、鍵も返納だなと思ってたら、「他の教師にばれないように気をつけろよ」だって。
そのあと、じーっと私の太ももを見ながら、「今度は体育に出ろよ。お前は運動不足だ」って。意味深な目で見るなっての。
その時、風に煽られて煙草の吸い殻が転げ出た。何を言われるかと身構えた私に愛ちゃんは、ほどほどにな、それだけ言って屋上を出て行こうとした。
言い訳なんてしても意味ないのに、私は、校舎へ向かう愛ちゃんの背中に向かって、「煙草、吸ってません。煙を見てただけです」って叫んでた。
愛ちゃんはひらひらと手を振って、「ふーん。そうか。煙を見ているのは楽しいよな。とにかく、火は出すなよ」って。
立ち止まって振り向くと、「おまえ、ちょっと雰囲気が変わったよな。写真部の連中、あれで良い奴ばかりだ。大事にしろよ」って言うと、そのまま屋上を出て行きました。
青い空の向こうへ消えて行く愛ちゃんの後姿を見送って、カメラを持ってくれば良かったって思ってた。
敬具




