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悪魔『B』による契約活動  作者: 大神祐一
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自己紹介的なもの

 突然ですが、サブリミナル効果ってご存知ですか?

 映像の間に顔などの画像や文字などの情報を一瞬だけ紛れ込ませるものなのですが、見た人は知らない人なのに知っているような気になったり、無意識下に文字の印象が記憶に残ってたりすることを言います。

 私は「これだ」と思いましたね。今の私にピッタリな営業方法です。これなら力の弱い私でもテレビのコマーシャルに簡単に割り込ませることが出来ます。


 私のことをお話をする前にもうひとつ、あなたは王とはどういう存在だと思いますか? 領地を統治している人物でしょうか? 種族や部族の頂点にある者でしょうか? 

 でも、一人きりの者を王と呼ぶ人はいないでしょう? 自分自身で宣言しても虚しく響くだけ、認めてくれる人がいません。

 それは神でも同じなのです。


 私はある部族で信仰されていた天候を司る神でした。ですが、ある一大勢力を誇っていた宗教に邪神認定を受けたのです。

 戦争を仕掛けられ小さな部族は敗北を喫します。私を信仰していた者たちに改宗を強要し、私自身は邪神からさらに落とされ、悪魔の扱いを受けました。邪神でも信じているそれ以外の神の存在を許しておけなかったのでしょう。

 私は蜘蛛の悪魔として名前も変えられました。私そのものが蜘蛛になった訳ではありません。歪められた情報により私を蜘蛛だと思い込まされることで誤認が起こり、それにしか見えなくなるためなのです。

 これは私にとっては一大事でした。なにせ信仰してもらえる人がいなくなったのですから。


 精霊体は名前があることで存在を認識され、信仰を受けることでエネルギーを得ることが出来ます。

 税収のようなものでしょうか。信者が多ければ多いほど神は力を得ることが出来、存在を強く確立出来る。強くなるからこそ奇跡を起こせる。といった流れを作ることが出来るのです。


 信者を失えば新たにエネルギーを得るすべを無くします。悪魔信者の方もいるにはいるのですが、数が少ない上にもっと階級の高い悪魔を信仰する傾向にあるので、元小数派の神の私の階級は低く、信者は完全にいないのです。


 悪魔は神のコントロール下に置かれます。悪さをする悪魔を神が凝らしめる。その図式の中で悪魔は存在を許されるのです。なにせ格付けされてしまっているので、悪魔はこれに逆らえません。


 詰みです。

 ただただ消えるのを待つしかない存在になってしまいました。それでも中々消えることはありませんでした。とてつもなく苦しい時間でした。なんせ2000年消えることすら出来ずにあの世界にいたのですから。


 ですが転機が訪れます。充分に力を得た神が暇潰し目的で異次元にある地球という星の日本という国から適当に見繕った人間を、選ばれた勇者と称し、まだまだたくさん存在する魔族――自分を神と認めない種族を倒して欲しいとお願いするのです。神に強い力を授かった人間は、思惑どおりに神の言葉を鵜呑みにして魔族に襲いかかるキラーマシーンと化しました。


 私が目をつけたのは異世界からやって来ることで発生する道のその欠片です。私にはゲートを開けることは出来ません。ただこの世界から逃げ出す為だけにその微かな欠片を頼りに日本を目指す。それだけが私に残された唯一の光りでした。


 おそらくこれが最後ではない。もう一度勇者召喚を行う。

 私には確信がありました。そしてただその時を待ち続け、チャンスを逃がさずこの世界から飛び出すことが出来たのです。

 その道中もまた苛酷でした。

 光も音もない完全なる闇の世界では、広い砂漠で砂に埋まった指輪を見つけなければならないようなものです。漂い続け、欠片を見失いさまよったことも多くありました。方向感覚が狂うだけではなく、自分自身の存在までもが分からなくなってしまうこともありました。光を見失った場所で、方向も居場所も時間も自分も何もかもが消失するのです。

 もう無意識でした。感覚もないので移動しているのか止まっているのかさえ分かりません。

 それでもなお、こうして日本に辿り着けました。どれくらいの時間漂っていたのかわかりませんし、どんなこと出来事があったのかさえよく分かりません。

 私がこの地に来くために払った犠牲は存在の一部を失うことでした。名前はもう頭文字の『B』しか覚えていません。

 

 ですがそれ以上に嬉しくもあります。やっと「生きる」という実感が湧いてきたのです。ただ消えるのを待つ環境から自分の力で立ち上がって行動が出来るのですから。


 私はこの地で精一杯生きて、そして力を取り戻すために。




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