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1-5話 森の中で出会うのは


 ずるりと、水の中から引き揚げられたような感覚とともに周囲の風景が一変する。


 視界に光が戻る。

 色の無い世界から、多彩な風景の世界へと、変貌を遂げる。

 普段見ていた景色が、これほどまでにいろんな色があるのだと少しだけ驚いた。

 

 先の見えなかった暗黒とは異なる光に照らされた一室。

 空虚ばかりが存在した空間とは異なる整然と積まれた物が存在する部屋。

 そして、絶望的な表情を浮かべていた女性とは異なる、こちらを慮るような表情の少女二人が目の前にいる。

 


「良かった、意識が戻ったね…」

「…まあ、リカの魔法なのだから、無事なのは当然でしょうけど」



 魔法を解除してからいくらか時間がたっていたのか、先ほどまでの異様な雰囲気の部屋は、元の何の装飾もない木製の部屋に戻っている。

 どこを見渡しても視界に入ってきた赤い術式は、もともと何もなかったかのように跡形もなく消え落ちており、空間を支配していた生ぬるい異質な空気は森の中に居るような清涼なものへとなっていた。


 

「あ――、ご、ごめんなさい、長い時間寝てましたか!?」



 青年は慌てて横になっていた体を起こした。

 

 奇妙な感覚であった。

 夢であったような、現実であったような、地に足は着いている感覚はあったのに触れるもの全てに感覚があったはずなのに、それらは全て魔法、まやかしでしかないと言うのが俄かに信じがたい。

 


「ううん、ほんの数分だったから何の問題もないよ。…でも、貴方への妙な干渉があって、慌てて解析したんだけど詳しい事も分からなかったから魔法を打ち切ったんだ」



 リカは眉尻を下げて困ったような顔をする。

 想定外な事象に困惑しているようであり、青年の全身をくまなく観察して異常がないかを確かめ始めるのを見ると、強力な干渉だったのかもしれない。

 

 干渉、と言われて思い出すのは、あの人に質問できないよう口を封じられたこと。

 確かにあれは、初めにリカが言っていた内容ではありえない現象であったように思う。



「干渉は、たぶん問題ないです。あれは、僕が話していた人によって質問できないようにと口を封じられたことだと思うので」

「…口を封じられた? …ふうん、じゃあ、悪影響は無いのかな」

「記憶の中枢だったかしら、そういうところに引きずり込む魔法よね?そんなところに意志を持つ者がいるって、どういう状態なのかしらね」

「ううん…、正確に言うならその人の構成要素に突き落とす、なんだけど、まあ、意味としては変わらないし、ありえないって意味でも違いないんだけどね」

「と、というかなんで事前に説明してくれなかったんですか!?最初、めちゃくちゃ怖かったんですけど!?」



 魔法の談義を始めた二人に、青年は涙目で食って掛かる。

 いきなり妙な魔法に掛けられて、気が付けば暗闇の中で一人きり。

 不安を覚えるのも仕方ないだろう。

 せめて一言、どういう場所に行くのかくらいは教えてほしかったと必死に訴えるが、その件に関して二人はどこ吹く風といった様子を崩さない。



「あー、その件はねぇ、出来れば最初に伝えたかったんだけど…」

「あの魔法は、対象がその魔法を知らない、ということが条件なの。便利な日常系の魔法じゃなくて、トラウマへ叩き落とす呪詛系統。安心安全が両立されてるなんて、使われ心地がいい魔法なんて、存在しないんだから」

「あ、あはは、そういうことなんだよ」

「そ、そんなぁ…」



 言い淀んだリカとは異なり、青年の申し出をバッサリと切り捨てたエリィの、にやりと笑う表情に容赦はない。

 項垂れていた青年は、先ほどの会話で聞き逃せない要素が入っていたのに気が付くと、慌ててリカへ顔を向けた。

 


「え、ちょっ、あの、リカさん!魔法を知らないことが条件ってことは、今後はあの魔法を僕に対して使えないってことなんですか!?」

「え? うん、そうだけど。何かやり残したことでもあった?」

「やり残したというか、…ううん、何でもないです」

「ふうん…、なら良いけどね」



 言いよどむ青年の姿に不思議そうな視線を向けるエリィ。

 あの空間での出来事を断片的ではあるものの把握しているリカは、これといった追及もせずに話を切り上げる。



「でも、結局貴方の名前は分からずじまいかぁ」



 小さなあくびを片手で隠しながら、少しだけ残念そうにリカがぼやいた。

 含み笑いを零したエリィは、天井を見上げて成果の確認を行う。

 


「多くは期待してなかったけれど、成果はかなり少ないし、想定していた中でも最悪かもしれないわね」

「…ああ!もちろん貴方に責任は無いからね!」

「す、すいません…」

「ふふ、責任は無いって言ってるのに謝るとか、嫌味を言ったみたいになっちゃうじゃんー、…そろそろ、もっと気楽に話してくれればいいのに」



 リカは、ふにゃりと、幾重にも巻きついた包帯の上からも分かる程顔を綻ばせると、ふらふらとした足取りで部屋から退出していった。

 なんだか、今まで見たこともないくらい疲れているようだった。

 あの魔法は、そんなに負担がかかったのだろうかと考えていると、その考えを読み取ったのか、エリィがリカの後姿を目で追いながら心配そうに呟く。



「…あの子の怪我、なかなか厄介なものだから、魔法一つ使うのも一苦労なのよ。そろそろ包帯も新調してあげないと不味いかもしれないわね」

「厄介な、怪我なんですか?」

「そうよ。―――あの子の肌を直に見たことはある?」



 重度のやけどのような、溶けた蝋に似た黒い腫物。

 それだけでも、燃えるような痛みを感じている筈なのに、それが全身を隈なく覆い、裂けた体が治るのを阻害している。

 裂けた傷の上からその腫物が発生したのか、まるで彼女を殺すための機能を十全に果たして負傷個所の悪化を招いている。

 

 いわく、あれは呪いだ。

 人の呪いが形となり、身を蝕む猛毒へ転じたもの。

 だから、いくら治療魔法を掛けても、薬を投与しても無駄なのだと、彼女は笑った。

 

 心底、忌々しそうにそれらを語ったエリィは、腹立たしげに鼻を鳴らす。



「それって、…無理させるのは不味いんじゃ?」

「ええ、そうね。でも、最初よりもずっとあの子は良くなったわ。呪いに対して効果のある秘薬を少しづつ体に浸透させて、腫瘍と傷を一緒に治療しているの。その上からあの包帯、あの包帯は私とリカが共同で開発した特殊な医療品で、簡単に言うと傷の治りを促進させると同時に皮膚と肉の役割も果たしているの。それを常につけてもらうようにしてなんとかちょっとずつ治してるのだけど…」

「そう、なんですか」



 申し訳なさが先立つ。

 そんなことを自分は理解していなかったと、頼りきりになっていた。

 そう思っていると、エリィはそれまでの会話とはまったく違う話をするかのようにあっけらかんと言い放つ。



「だからいいのよ。多少のリハビリは必要だし、あれだけの治療をするのも大変なんだから。少しくらい働いてもらわないと、いけないから。だから、いいの」

「ええ…、リカさんに対して厳しいんですね」

「………そうね、厳しいわよ、私は」



 一つトーンが落ちた声色に、しまったと思うも時すでに遅い



「じゃあ、優しい貴方は、きっとこれからお願いする私のお使いをリカに任せないでこなすのよね?」

「…え」








「馬鹿だなぁ、わざわざ竜の尾を踏みつけるなんて」

「いや、だって…、…そんなつもりなかったんです」

「いやいや、その話を聞く限り明らかに気にして落ち込んでるじゃん、エリィ」

「うぐう…」



 普段の屋敷の一室からは掛け離れた、新緑に包まれた道を進みながら、隣に居る頭二つ分は小さいリカの笑いを含んだ声に、気を落ち込ませる。

 事の経緯を根掘り葉掘り聞きだされげっそりとしたのもあったし、何より疲れていた彼女を連れて行くことは不本意であった。

それでも着いて来てもらうことになったのは、彼女の強い申し出があったからだった。

 

 

 機嫌を損ねて、採取の必要のある薬草を取ってくるようにと青年に言い渡し、必要なものを書かれた紙を押し付け不貞腐れたように自室へと引きこもってしまったエリィの後姿を、彼は唖然と見つめるしかなく。

 どこにあるかもわからないそれらのリストを、しばらく眺めていたが、言い渡されたそれをどうするべきか直ぐに頭を抱えることになった。


 とりあえず、もう夜だ。

 採取は明日行うにしても、どこにあるかも分からないそれらを、渡された紙の絵を頼りに探すのは気が遠くなる作業になりそうである。

 仕方なく、遠出の準備だけして、次の日に場所だけ教えてもらえれば自分一人で言ってくる旨をリカに伝えたのだが、言い渡されたのは酷く無情な言葉だった。



『うん、それ無理』



 停止状態に入った青年を横目に、手に持っているリストを覗き込みながら、リカは眉尻を下げて品目も一つ一つの説明を始める。



『たとえばこれはボルボワの実でここから南西方向の崖の近くにあって、ラーゼの根は北西方向の川辺、フィレ草は北東方向、…これ、嫌がらせみたいな注文なんだけどさ、貴方一人じゃ絶対一日じゃ終わらないよね…、生半可な労力じゃないよ』



 いっそ憐れみを込めたリカの視線に耐えきれず、視線を彼女から逸らして頬を掻く。

 深い溜息を吐かれ、居た堪れない気持ちになっていると、リカはしょうがないといった様子で提案する。



『…まあ、集めに行かなくちゃとは思ってたからね、私もついていくよ』

『えっ、けど、疲れてるんじゃ…』

『もちろん! とっても疲れてますとも!』



 若干食い気味に言葉を被せ、身を乗り出してきたリカの圧力に押され、思わず身を引いてしまう。

 そのあまりにきっぱりとした態度に、何とか自分にまかせてもらおうと考えていた青年の威勢が崩れ、狼狽しているところにからかうような笑顔を作ったリカが追い打ちの言葉を掛けてくる。



『私を心配するなんて、まだまだ早いよ。―――そうだなぁ、せめてその変に畏まった話し方を変えてから言うんだね』



 そう言って、二の句が告げない青年を置いて、さっさと準備に取り掛かってしまう。

 それから、リカに先導される形で家から飛び出したのだが、すぐに青年は着いて来てくれた彼女に感謝することになった。


 森の中はあまりに広かった。

 いくら歩いても、始めに取りに行こうと言われたボルボワの実の場所にすら辿り着かない。

 おまけに、そこに向かうまでの行程も悪い。

 

 ぬかるんだ土に、乱雑に根を這わせた木々、手入れのされていない道なき道を草木を掻き分けながら進めば、自分が今どの位置に居てどこへ向かえばいいのか分からなくなってしまう。

 当初は温いくらいの気温だと感じていたのに、気が付けば滴る汗が地を濡らし、リカを先導に進んでいるため速度はそれほどでも無い筈なのに、息も絶え絶えになっている。


 認識が甘かった。

 嫌でもそう感じさせられた。

 リカが居なければ、方向はおろか帰り道すら分からず、あらかじめ準備していた水分や食料すら半日持たずに行き倒れていたことは想像に難しくなかった。


 以前説明されたことの中に、家を中心に一定距離を覆う結界についての話があった。

 家を中心にして、球状に張られた結界は、生物の侵入を許さない。

 それは、家の安全を守るためや育てている作物を荒らされないための処置であり、想定していたのかどうかは分からないが今回はその結界の存在が幸いした。

 これで、こんな状態の強行軍で、魔物と呼ばれる凶暴な生物が辺りに闊歩しているとしたらと思うと背筋が凍る。


 重なる偶然に感謝するばかりだな、なんて自虐に走っていると、先導していたリカの喜色を含んだ声が聞こえてきた。

 


「あったよ!あれあれ、あそこにある黄色の実が話してたボルボワの実だよ」

「…お、おおおお!?着いたんですか!?」

「うんうん、とりあえず、あそこの周りは急勾配が多いから、ちょっと待ってて……ううん、やっぱり一緒に行こうか、何事も経験が大事だからね」

「そ、そうですよね。よし、僕はいつでも行けます!」

「ふふ、肩に力入りすぎだって」



 ほら、といってリカは青年に向かって手を差し出した。

 青年は不思議そうな顔をしてその手を見つめる。



「ほら、早く掴まって」

「は、はい」



 差し出された小さな手を慌てて掴み、何が嬉しいのかにこにことしながら迷わず進んでいくリカの背を追う。

 


 リカの言っていた急勾配は、確かに慣れていないとバランスを崩してしまうようなものが目に入りにくい形で所々に出来上がっていたものの。

ソレに近付くたびに、何度か手を引かれたため危うい場面はなかった。


 初めて採取した薬草の一種あるボルボワの実は、小指程度の小さいものであった。

 地面から生える植物の先端に、五つから七つ程度まとめて実をつけており、噛んで見るとむせてしまうほど強烈な酸味を感じる。

 毒はなく、幻覚や精神錯乱方面への強い効力を持っているそうで、他の薬草と異なり、これ単体でも意外と重宝されることも多いんだとか。

 崖の近くにはなるべく近寄らないようにして、手持ちであった手作りの籠の底が見えなくなる程度採取して、ボルボワの実の採取は終わった。

 

 次に向かったのはラーゼの根の採取だ。

 出発した家から反対方向へ進まなければ辿り着かないその場所は、距離にすると先ほどの倍程度はあったのだろうが、だんだんと森での歩き方に慣れてきた青年は先ほどよりも疲労を感じることなくラーゼが群生する川辺へと到着した。

 

 とりあえず採取の前に休憩しようと言ったリカに誘われて、川辺の傍に腰を下ろす。

 持参した山菜と保存食の肉を挟んだサンドイッチに似た弁当を二人で分け合って、どちらからともなく雑談が始まる。

 森の中を歩いてどうだったとか、採取してみてコツとかは掴めたかとか、エリィに黙って来ちゃったとか、そんな他愛ない話を少しだけして、食べ終わったそれらを小さな袋にまとめて詰めた。

 エリィは今頃私がいない事に気が付いて、机の上に置かれた昼食を一人でもそもそ食べてるんだろうと笑うリカに、青年は苦笑いを零す。

 なんだか、どちらも相手の扱いが雑な二人である。


 ラーゼは休憩していた場所のすぐ脇に大量に群生していた。

 ギザギザした葉が特徴で、色は緑。

 掴んでも怪我するほど固いわけではないけれど、知らずに近くを通ると足を怪我することも良くあるんだそうで、掴んで引っこ抜くのではなく、周りの土を掘り起こして持ち上げるように採取するのが鉄板なのだとか。

 川で根についた土を丁寧に流し落として、必要な分の採取が終わったら、掘り起こした土を平らになるよう整えた。

 ボルボワの実の採取は実だけを取るのではなく、茎の部分から取るだけの単純な採取だっただけに、ラーゼの根の採取は結構な時間が掛かってしまう。


 少しだけ明るさが落ちてきた空を見上げて、光星が落ち始めたね帰るころには暗くなっちゃうなぁ、なんてリカが呟くのをそんなものなのかと考えながら、彼女にならって空を見上げる。

 幾つもの光源が空に散らばっているが、確かに先ほど見た時より輝きが少ないような気がする。

 明るさに明確な違いは感じないが、それはいままで家でしか活動していなかった自分の感想でしかないのだろうと納得して、リストにあった最後の注文であるフィレ草の採取に向かう。

 

 川辺から北東方向に、土の質が途中から変わり始め、歩くのを阻害していたぬかるみがなくなってきたことに嬉しさを感じつつ、疲労をまるで感じさせないリカの後姿に若干の尊敬を覚える。

 家を出発してからかなりの時が経ったように思うのに、彼女の足取りは軽く淀みない。

 それどころか先頭を歩いて通行の邪魔になる枝などを切り落とす作業もこなしていてこれなのだから、本当に頭が下がる思いだ。

 

 これまでに比べると、随分とすんなり目的の場所に着いたように思った。

 木々が生えていない、小さめの広場くらいの場所の真ん中で堂々と光を浴びるその植物、フィレ草があった。

 フィレ草は背の低い小さな草で、遠目に見ると地面にびっちりとこびり付いているのではないかと錯覚してしまうような生え方をしている。

 形は茎に小さな葉が二つと珍しくもないものだが、良く見ると光を受けていない場所にあるものは葉を丸めて眠るような体勢に入っていた。

 見分け方の特徴は難しそうだが、採取は酷く簡単だった。

 根を残して、上の茎と葉だけを採取するのだが、リカから手渡された小さいナイフを使えば、大した力を使わなくても簡単に切断できた。

 採取自体は簡単なのだが、いかんせん葉が小さいため量を取らなければならず、二人で手分けしてせっせとフィレ草を集める。

 しばらくそんな時間が続いていたのだが、思い出したようにリカが見下ろしていた顔を上げた。



「そういえば、すぐそこが結界の境界なんだよ、ほら、分かりにくいかもしれないけど透明に近い青色の壁があるでしょ」

「え?そうなんですか、…えっと、ちょっと見分け着かなくて…すいません」

「あー、まあ、そろそろ暗くなってきちゃったしねー、見えなくても仕方ないかも」



 リカは何度か頷いた後に、青年に顔を向ける。



「運が良ければ、魔物が結界越しに見れたりするかも―――?」



 ふと、リカは言葉を止めた。

 別に、何かを感じ取った訳ではない。

 結界に近い位置にいる自分が、青年へ顔を向けて可笑しなものを見たから思わず言葉を止めてしまったのだ。


 様子が可笑しかった。

 青年が今まで見た事の無い表情をしながら、身動き一つ取らなかった。

 白い肌をさらに青白くして何かを見詰めている。

 息がだんだんと荒くなっているのが分かる、額から汗が滴り始めるのが見える、小刻みに歯を打ち鳴らしている音が聞こえてくる。


 何かに恐怖していた。

 見てはいけないモノを見ているような、あってはいけないモノを見ているような。

 その存在を認めたら、精神が崩れてしまうものが居るような―――



 ゆっくりと、リカは青年の視線を追う。

 その視線は、結界の外のある方向へ向かっている。

 いつの間にか、音一つしない世界の中で、暗がりの木々に立つ一つの人影。


 二つの赤い光が、空中に浮かんでこちらを見ている。

 何をするでもなく、何か音を出すわけでもなく、唯そこに居る。

 結界の境界のすぐそばに佇みずっとそいつはこちらを見ている。

 覗き込むように佇むその赤は、少しずつその並行を傾けていく。

 ゆっくりとゆっくりと、まるで品定めするかのようなそのゆったりとした動きは垂直になってようやく動きを止めて。


 閉ざされていたその口が笑みを作るように裂け始め、弧を描いた時リカはようやく悪寒に襲われた。

 どこかで、鳥が飛び立った。

 そんな音が、無音であった空間にやけに重く響くのだ。

 

 

 

 


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