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2-1話 森の外には神秘がいっぱい




「ゆーれゆれゆれゆれ、揺れるのじゃー」

「のじゃー」

「どんどこどんどこ進むのじゃー」

「…のじゃー」

「ちくたくちくたく転がってー、どんどん行く先へー」

「…あの、鳥居様…。この歌にどんな意味が…」

「むむ? 安全祈願の歌に決まっておるじゃろ、何を言ってるのじゃ出雲」

「そ、そうですよね! 安全祈願ですもんね! 必要なことですもんね!」

「うむ! その通りじゃ! この険しい道とも言えないような森を突き進む儂らの安全を可能な限り支援するのじゃ!」

「お、おおおおおお!!? 流石です、鳥居様!!」


「普通にうるさいからね、そろそろビンタするよ」

「「…」」



 晴れやかな青空の下で、巨大な四本足の生き物、ムーに牽引された屋根付きの荷車が音を立てながらゆっくりとした速度で道なき道を進む。

 揺らぐ木々、所々に点在する小さな泉とその周囲を舞うように飛来する光。

 大きく実った桃色の果実を抱えて食べている尻尾の長い生物や、親指程度の大きさの人、小人がこちらを警戒するように物陰から覗いている。

 初めて見る景色の数々におのずとテンションが上がった二人は、ムーを操縦するリカの冷たい言葉により正気に戻され、しょんぼりと肩を落とす。

そんな鳥居様の様子を見ながら、出雲は出発からこれまでの道のりに思いを馳せた。


 当初こそ、厳しく険しい思いを早々から味わうことになるのだろうと覚悟していたものの、蓋を開けてみれば、出雲が想定していたよりも数段居心地が良く、戦闘もない穏やかなものであった。


 ボコボコとした道や出っ張った根など、まともな整備をされていない道を通れば、良くて激しい振動、悪ければ横転すら考えていた出雲であったが、不思議なことに、木々は道を譲るかのようにその身をずらし、小石や落差により凹凸のある地面はムーが一踏みすれば整えられたような平らな大地となるため、ほとんど衝撃や振動の無い、非常に平和な移動が行われていた。


 準備に準備を重ねた末のこの成果。

 実際、出雲が世話になるようになる前から二人は旅の準備を行っていたらしく、エリィによる魔術的な加護、リカによる技術的な補助、食料やあらゆる事態に備えた魔除け等の消耗品、それら全てを完備した今の状態ははっきり言って、死角などあるはず無かった。

 だから、出雲の憂慮など杞憂に過ぎず、不測の事態が起こらない予定調和の範疇な旅路に退屈さを感じてしまうのは仕方がないのだろう。

 その退屈さの中で、家のような荷車から顔を出して外界を覗けば、見たことの無い光景が広がっていて、それに興奮してしまうのも十分理解できる。

 しかし、この移動を支えているムーだって生き物なのだ。

 昨日の休息時間を経て、本日の早朝に出発してから早数時間、休みなく荷車を引いているムーが慣れない旅路の中で負担を感じないわけはない。

 その上、後ろでうるさくされたら、その負担はさらに増えてしまう恐れだってあるのだから、せめて旅に慣れるまでは大人しくしてもらわなければ困る。

 そう思ってのリカの言葉だったのだが。



(…あ、二人に言うのは忘れてたなぁ…、ちょっと言い過ぎたかも…)



 しまったと思っても、もう遅い。

 ちらりと二人へ視線を向ければ、出雲はともかく鳥居様の方は結構なダメージを負っているようである。

 でも、私が謝るのは違うよなぁ、なんて思いながら、どうしたものかと思考を巡らして、中から顔を出した起きたばかりのエリィの姿に気が付いた。



「あ、エリィ良い所に」

「おはよ…、どうしたの…?」

「ここら辺の景色の説明をしてほしいなって思ってね。景色を楽しみながら説明を聞いて気分を紛らわせたくって」

「ふわぁ…、うん、いいわよ…」



 隣で、妙に落ち込んでいる二人を不思議に思いながら、リカの頼みに応えるため、外の様子を一つ一つ指差しながら説明しようと、寝起きでなかなか回らない頭を動かす。

 


「えっと、まずはあれね。点々と存在する小さな泉。あれはセリヌの卵と言って、大精霊セリヌがその子である妖精を生み出すために落とした泉よ。あれは周辺の自然に敏感だから、自然環境が無くなってしまうと消滅してしまうわ。周囲を飛んでいる光は泉から生まれた妖精の子供ね。基本的に害は無くて警戒心が強いから近付くとすぐ泉に逃げ込んじゃうけど、好奇心の強い子は寄ってくるわ。邪険にはしないであげて」

「へー…、あれって卵って言うか、家みたいな感じなんだ。確かに光が泉の中に入っていったりしてるね」

「そうよ。大体その認識に間違いは無いわ。あと、厳密に言えば、あれは水じゃないから水浴び感覚で浴びるのは良いけど、飲むと猛烈な吐き気に襲われるわ」

「ええ!? そんな事ってあるの!?」

「し、神秘じゃのう…」

「…ああ、でも安心して体に害はないから」

「そういう…問題なのかなぁ…?」



 説明好きなエリィは、滅多にない相手の熱心な態度に、嬉しそうに顔が綻び始める。

 寝ぼけ眼であったエリィが今やぱっちりと目を開き、次は何を説明しようかと辺りを見回している。

 


「つ、次はあれね、あの生き物達。尻尾の長いのがネネネの一種よ。体毛の違いは周囲の環境に左右され、ここは水気の多い森だから薄緑色の体色をしてるでしょう? あれで、ちょっとした魔法を使うことが出来るけど、逃走用のものばかりだから、そんなに気にしなくていいわ。その隣の小人は、言葉を介さない程度の知能しかないけど、簡単な意思疎通は可能な生き物で、土の中に住処を作って暮らしてるわ。ええと、正式な名称はたしかドワーフだったかしら、あんまり有名ではないわね。人種との交流は無いに等しいわ」

「ネネネって…、なんか可愛い名前じゃのう!! 触ってみたいのじゃぁ…」

「ドワーフ…? それって、なんだろう…馴染みがあるような…」

「ネネネは意外と人懐っこいから、食べ物でも上げれば触れるかもしれないわね。あと出雲、ドワーフに聞き覚えがあるなんて意外と見聞が広いのね。もしかしたら記憶をなくす前は相当博学だったのかしら…? …ええと、あとは――」

「前方右側、個体はゴブリン。数は6体。距離は200歩先、接触の可能性あり、排除をお願いエリィ」

「―――了解、補足した。 -bullet- 」

「――え」



 片手で無造作に打ち出された魔力による弾丸は、色も音も形も無く飛来して、あっという間に木々に隠れて見えなくなる。

 まるで何も起こっていないかのようだった。

 周囲に居た妖精も、生き物たちも何の反応をすることもできなかった。

 だが、確実に、先ほど話に上がった奴らを排除したのであろう、森の中にはただ静けさだけが広がっている。


 興味も無さそうにそちらを一瞥し確認した後、エリィは再び上気した頬を携えて説明を再開しようとする。

 唖然としたのは、出雲と鳥居様だけである。

 慌てて出雲はエリィにの説明を止めて今の事を聞こうと疑問を投げかけた。



「ちょ、ちょっと待って。今何しました?」

「何って、索敵してくれたリカの言う通りの場所を遠見して、魔力を固めた弾丸を打ち出しただけよ?」

「ええと…、1つ1つ聞きますね。なんでリカは索敵できたの?」

「…うーん…、なんだろ…。匂いと音…かなぁ…」

「…じゃあ、エリィさん。遠見と弾丸とそれを正確に遠くの敵に対して当てることが出来た理由は…?」

「だから、別に変なことじゃないわよ。遠見の魔法で言われた方向の場所を確認して、魔力を小さく固めて出来た物質を、的当ての要領で打っただけよ、ゴブリン程度だからこれで済んだだけ。…ああ、この距離で当てれたことが不思議なら、手で投げるのとは違って、魔法の投擲だからズレなんてそう無いのよ。なんてことないわ」

「…ああ、分かりました。とりあえず二人が凄いってことくらいは…」



 げっそりとした雰囲気で投げやりにそう言えば、鳥居様も出雲の言葉に肯定するように何度もコクコクと頷いている。

 おかしなものを見るような目で視線を向けてくるエリィに、こっちがそういう目を向けたいくらいだと思いながら、彼女達の能力の高さを再確認した。

 分かっていた事ではあるが、どうやらエリィとリカは優秀であるらしい。

 それも、ちょっとやそっと程度ではない、ぶっちぎりの有能さ。


 そもそも、魔道書を市販する程度に魔法に精通しているというだけで、稀有な存在なのだ。

 だから、作られた魔道書は高値で売れるし、森の奥に隠れ住んでいるような無名の者が作成したものに買い取り手が出てくる。

 その上、昨日の空いた時間に、出雲は魔物について学んでおこうと図鑑を探して調べた。

 その際に知ることになったのだが、どうやら魔物には危険度のランクが設定されているようで、先日倒したパズズという魔物はレベル八。

 通常種で中間よりも高いランクである上、妙な強化が施されており通常よりも耐久性や攻撃力が異常に高いという話であったから、あの個体に限って言えば相当危険であった筈である。

 それを、色々あったとはいえ討伐しているというのは、正直凄い事なのではないかと思うのだ。

 運が良かったというのはあるだろう。

 とどめを刺すことになったのは自分だ。

 だが、あそこまで戦えたのはリカのおかげに他ならない。

 他の人がどの程度まで強いのかは分からないが、少なくともこの二人以上というのはそうそうないだろうと思うのだ。


 結局、少しもムーの足を止めないまま、障害を排除したリカは目的地目指して走行を続ける。

 途中見えた、ゴブリンの死体はリカの言った通りちょうど6体。

 その全員が、緑色の皺だらけの顔を何が起きたのか分からないと言った風な表情のまま、正確に眉間を打ち抜かれて絶命していた。


 その後も二人はエリィの丁寧な説明を受けながら、荷車の車輪の回転に従って目的地へと向かっていく。

 思い出したような唐突さで、エリィがこれから向かっている場所の話を始めた。



「最初の目的地は、私達がたまに消耗品を買ったり、魔道書を売ったりするために行くこともある場所なんだけど、ケープっていう…まあ、これと言った特徴は無い町ね、そこに行くわ」

「ええと…、エリィさんの家が大陸の最西端だから、そこに一番近いってことは最西端の町って言うことですよね?」

「そう。だから、物流が盛んっていう訳じゃないの。どちらかと言えば物づくりで発展している町かしら。珍しいものも多いらしいのだけど…、まあ、私も遠出したことはあんまりないから、どれが珍しいという感覚は無いのだけれどね」

「物づくりっ!! 良いのう! 独創的なものは好きなのじゃ!」

「へー、それは楽しみです。…ちなみに、治安が悪いとかそういう話って…」

「いいえ、そんなことは聞いたことは無いし、私が見る限り自警団や町のギルドが治安維持の役割を買っているからかなり良い方なのではないかしら」

「よかった。それなら、とりあえずは安心して滞在出来る訳なんですね」



 美味しいものが食べれるかのー、なんて小躍りしている鳥居様とともに目的地への期待が高まっていく。

 早朝から出発したのだから、そろそろ到着してもおかしくは無いのではと逸る気持ちを抑えきれずにリカの後姿越しに外を見れば、木々の葉の隙間から小さく町の外壁が見えた。

 あれですかと声を上げて指を向ければ、その指越しに町を確認したエリィが肯定を返した。

 晴れやかになり始めた三人の表情が、町からかすかに上がる煙とリカの独り言のような言葉で固まった。



「―――ああ、やっぱり。大分破壊されてるね、ケープの町」








 魔物の凶暴化。

 

 エリィとリカの話の中にあったその事象は、特筆して注意しようという話にはならなかった。

 その理由は、自分とリカの二人が揃えば大概はどうにかなるという、エリィの自信からであった。

 確かに、大抵の魔物が凶暴化若しくは多少の強化が行われた程度では、こちらの牙城は少しだって揺らぎはしないし、気にせずともいいかもしれない。

 問題は、そのレベルをこれから行く国や町の防衛面にも求めていたことだ。

 魔物の凶暴化、それは、エリィやリカにとって取るに足らない事象でしかなかったが、現在国家単位で頭を抱えている深刻な問題となっていた。

 

 だから、町の様子を間近で見た時、これを予想していなかったエリィは目に見えて動揺した。

 町の外壁はそのほとんどが崩れ、もはや防衛の役割を果たせない程に破壊されている。

 普段は出入出来る場所は限られており、各門には門番が常勤していたが今はその姿は無い。

崩れた外壁の隙間から見える町並みは多くの住宅が破壊され、焼けた場所もあるのだろう未だに黒煙が立ち上っている個所もある。

被害にあった際の犠牲者の処理もまだ進んでいないのだろう、そこかしこに倒れ伏す、元は人型だと分かるものが放置されている。

壁に残るどす黒い血痕や、砕け散った武器や防具が地面に散らばっていることから、ここで戦闘があったのはまず間違いないだろう。

その上で、この町は壊滅しているように見えた。

そう、壊滅しているのだ。



「うぷっ…。…なんなんだよこれ」



 込み上げてくる吐き気を飲み込んで、悪態を吐くように言い捨てれば、鳥居様が手を繋いで身を寄せてくる。

 鼻孔を刺す様に漂う血と鉄の混じった死臭に眩暈がする。

 気分が落ち込んで、つい先ほどまでこの場所に来るのを楽しみにしていたのが嘘のように、目を逸らしたくなるような現実が、そこにはあった。



「ん、んー? 良かった、町としての機能が完全に死んでる訳ではなさそうだよ」

「…そうなの? それなら…どうすればいいのリカ?」

「とりあえず堂々と壊れている壁を通って街に入るのは無いなぁ…。そうだね、運が良ければ顔見知りが居ると思うし、きちんと門番に顔見せして入るのがいいかな。門としての機能が残ってるところを探して、掻き集めておいた薬草の類を格安で提供して便宜を図ってもらおうか。後は、まあ、当り前だけど、ここにはなるだけ長居しないようにしよう」

「…ここで資金を確保する予定だったのよね? この状況じゃ…」

「大丈夫だよエリィ。その件に関しては、…まあ、なんとでも」



 顔を青くしているエリィの姿から、こういった惨状は滅多にあるものではないというのが分かる。

 自分の感情を処理するので手が一杯と言う風体のエリィとは異なり、余裕があるリカは、自身以外の三人の様子を気遣いながら、次の行動を説明していく。


 まず、予定していた別行動は危険である。

 中に魔物が残っている等は考え辛いが、物資を持った者が来たと、食や暮らしに困った者達が襲いかかってくる可能性があるため、一人で行動しない事、気になったことは声に出すこと、危険になった際はしっかり暴れる事、どうしても外出する際は二人以上で行動することの四つを徹底するようにと指示をして、リカは外壁に沿うようにムーを進ませる。

 次に、滞在は1日のみにしようという提案。

 資金調達と必要な休息を取ったら、素早くここを離れる事。

 というのも、襲ってきたであろう魔物を倒しきれたのか、それとも撃退しただけなのかが分からないという事と、これだけの被害があれば血に釣られた別の魔物の襲撃が考えられるため、または可能性としては低いがもし魔物が戦略的にここを攻めたのであれば、他からの救援が無い限りもう一度ここを襲撃するのは確実だからだ。


 それらのリカからの提案に頷きつつも、出雲には納得しきれない点があった。

 それは、彼女が一度もこの町を救う提案をしなかったばかりか、見捨てる事前提で話を進めていることだ。

 そして、リカは少しだってそのことに気後れしていない。

 自分達では力が足りないから、ではない。

 方策が見つからないから、でもない。

 する必要が無いから、度外視しているのだ。



「あの、リカ…。こんなこと聞くのは馬鹿らしいかもしれないんだけど…」

「ん、どうしたの? 何でも聞いてよ」

「そのさ、…辛くない?」

「…えっと、何を指してるのか分からないんだけど。とりあえず、この光景には心が痛むね。後は、私の体調を気遣ってくれているのかな? そっちは、問題ないから気にしないでね。ありがとー」

「…そっか。それなら良かった」



 その場に似つかわしくない笑顔をコロコロと振りまいて、リカは出雲の問いに返答する。

 少しして、ほら、あったでしょう、と言って指を差した先を見れば、確かに門として残っている個所があった。

 どうやら被害が多いのは私達の家の方向とその反対側の二つなんだね、なんて言っているリカの言葉は、もう頭に入ってこなかった。






「申し訳ない、正直助かりました」

「いえいえ、大変な時に訪れることが出来、ちょうど足りなかったものをこちらが持っていた。ただちょっとした幸運があっただけですよ。…本来なら、御代も貰うことなく提供できたら良かったのですが、こちらもそこまで裕福という訳でなくて…」

「いえいえいえ! 負傷者はまだまだ多くいるのです! 本来なら足元を見られてもおかしくないようような状況で、これだけの薬草を、それも格安で売って頂けたことはなんとお礼を言ったら良いか…」

「そうですか…、それなら、僅かでもお力になれたなら幸いです。…こちらには少しだけ滞在ののちに、物資の補給のために早めに出立するつもりです。少しでも有用な物資をここに供給することが出来ればと思います。私方も、精一杯力を御貸しします。どうか諦めないで下さい」

「っ…ありがとう、ございます…」



 感極まったように目元を抑える壮年の男性。

 自警団のそれなりに地位があると思われる男性に悲しげな微笑みを向けてから、こちらに戻ってきたリカの笑顔は邪悪であった。

 リカの豹変ぶりに唖然とする出雲と鳥居様を連れて町の中に入っていく一行を、被害者の男性は見えなくなるまで見送ってくれる。

 その様子を見て、さらに罪悪感に押しつぶされたのだろう、エリィが俯きがちになりながら、少し責めるような目でリカを見ている。

 見送ってくれている男性に向かって、何度も頭を下げていたリカが、晴れやかな顔で三人に向き直る。



「いやあ、人助けした後って気分が良いよね」

「糞下種じゃぁああ!? 出雲ぉぉっ、こいつはヤバいのじゃ、ドゲスじゃぁ!!」

「ちょっ、色々反論したいことはあるけど町中でそんな事口走ってっ、馬鹿なの!?」

「リカ…私もあれは無いと思う」

「え、えええええ!? 出雲!? 出雲は私の味方だよね!? だってお互い損してないじゃん! 私の事を救世主か何かの様に感謝してたよねあの人!?」

「あ、あー…、まあ、一方的ではないけど、色々良いように騙した感はあるよね」

「えぇぇぇぇ…、だって…だって私の話していた通りに事を運んだだけじゃん…。皆止めなかったじゃん…」



 およよと、泣き崩れるリカを胡散臭げに見つめる三人。

 この包帯娘は、こんなことでへこたれる様な素直な精神性はしていないのだ。

 少しでも同情を引こうとしているのか、ふざけて話を有耶無耶にしようとしているのか、恐らく後者なのだろうが、如才なく被害者面する芸当まで身に付けていた。

 しかし、徐々に彼女の人間性を理解し始めている三人にはまるでそれは通じない。

 目の前の彼女は、童子の姿をした狸だと、みんなが理解しているためだ。

 実際、三人の様子が変わることが無いと分かると、なんてねといってすぐにその泣き真似を止める。



「まあ、事情を全て知っている人からしたら、私を非道と思うかもしれないけどね。でも、こういう被害が継続するようなところ。争いがあるところっていうのは、商売するものにとっては絶好の狩場なんだよ。不足していたのは武器や治療手段だけじゃない、人手だって時間だって希望だって足りないんだから。何か一つ、ただ喰われるだけの彼らを救われている、応援されていると思わせるのは良い手段なんだよ。もちろん双方が得をしたと思う手段としてね」

「うん、理論は分かるよ、納得もするさけどさ。でも、リカがあの森の中に茂っていた薬草を適当に摘んで、売り切れるかわからない量をまとめて捌いたって言うのは変わらないじゃん」

「…いや、おっしゃる通りなんですけれどね…」



 ぐぬぬ、と悔しそうな顔をしながら薬草と引き換えに手に入れた通貨の入った袋を手元で転がす。


 もちろん、こんな風にリカに対して色々言ったが、三人が本気でリカの行動を諌めようと思っている訳ではない。

 リカのやっていることは姑息ではあるが、何の後ろ盾もない自分たちがまともな生活をするためにはどうしても必要なことではある。

 だから、本気で彼女を責める資格が無いのは、三人とも理解はしているのだ。

 本当に彼女の行動を止めさせたいのであれば、リカのやっている資金確保を代わりにやらなければならないだろう。

 少なくとも、出雲はそれをこなすだけの自信は無かった。

 いずれは、いろはを覚えて代わたいとは思うが、今の自分には何もできないだろうことは分かっているから。

 窘める様な発言はしても、感謝しない何てことは無いのだ。



「ごめん、ありがとねリカ」

「…ふふふ、仕方ないからね。私に任せておきなさい」



 そう言って笑うリカには、どことなく嬉しさが滲んでいる。

 紆余曲折、想定外はあったものの、何とか町に辿り着くことは出来た。

 次に目指すのは、自分たちに適した宿泊施設だ。








「とりあえず、拠点の確保は達成ね。次は、情報収集をしたいのだけれど…、あんまりばらけるのは怖いわよね…」



 行商人や旅人が良く使うであろう、荷台を引く獣用の小屋がある宿を見つけ、被害が酷くて営業していないという店の主人にリカが一言二言交渉すると、食事は出せないという条件付ではあるものの、一室部屋を借りることが出来た。

 半日という、これからの旅路を思えば楽な部類の移動ではあったものの、休息を取れる場所に腰を落ち着けた瞬間、旅慣れしていない四人は疲れを滲ませる。

 鳥居様とリカは特にその様子が顕著であり、部屋の隅に荷物を置くと二人そろってぐったりと布団に横になっている。

 梃子でも動かないという強い意志を感じる彼女たちの様子に、困ったようにエリィは視線を彷徨わせてから、唯一自分以外に余裕がありそうな出雲へと向けた。

 目があってしまい、不味いと思ってももう遅い。

 口を開くエリィには、断るなんてありえないという重圧が身に纏われている。



「出雲、私と一緒にこの町を見て回るわよ。どんな状況なのか、確認しないといけないでしょう?」

「も、もちろんです! お供しますとも!」

「いてらーなのじゃー。儂はここで待っておる…いや、ここの守りは任せるのじゃぁー」

「私も待ってるから、いってらっしゃい。こっちの役割は明日にでもやっておくから、確認はとりあえずお願いね」

「動く気配が、微塵もないっ…!」

「…仕方ない…わよね? リカは操縦をずっとやってくれた訳だし、鳥居は見た目通り非力だものね。うん、仕方ないわ。ほら行くわよ出雲、たらたらしない」

「なんかっ、僕に対してだけ厳しい気がするのですがっ…」

「気のせいよ」



 気のせいなのである。


 そんな経緯を経て、出雲とエリィという、滅多にない組み合わせで周辺の散策をすることとなる。

 途中で、何か買ったり取引していいよとのことで、ある程度の資金を小さな皮袋に入れてリカに渡されたが、ずしりと重いそれを手に取り、そういえばと思い当たった。



「そういえば僕、通貨の単位…価値か、それが分からないんだけど…教えて貰っていい?」

「ああ、そういえばそうだね。説明してなかったや。んん…エリィお願い~」

「はいはい、行く途中で説明しておくから」

「ありがとー。無駄遣いは、まあ、あんまりしないようにね」



 そう言って送り出されれば、エリィは自身の懐を探りながら、出雲の先を歩いていく。

 宿の損壊部分の立て直しを行っていた主人に出かける旨を伝えて、外に出れば先ほどまで目に入っていた凄惨な光景が、変わらずに目の前に現れる。

 まったりとしていた自分達とは対極にあるようなその光景は、思わず身を固くさせ、口の中を乾かせてくる。

 少し足を止めてその光景を見ていたエリィの、動き出した背中を追って、慌てて足並みを揃えれば彼女の俯き気味の表情が目に入る。

 それは顔を強張らせて、何かに押し潰されてしまいそうな表情で。

 そんな、始めて見る彼女の表情に、何か話題を振ろうと出雲は頭を巡らせる。



「い、いやぁ、この町がこんなことになっているなんて想定もしていなかったですよね」

「…そうね」

「いや、でも、分からないですって! あの森の中に住んでたら、気が付かないっていうか気が付く訳ないっていうか」

「…リカは気が付いていたみたいだけどね」

「じゃ、じゃあ、リカがエリィさんに伝えなかったんじゃないですか! エリィさんだけが罪悪感を背負い込む必要はないですって!」

「リカは悪くないわ。…悪いのは私よ、なにも成長できていない。我儘ばかり…子供じゃないんだから」

「…」



 雰囲気に耐えきれず口を閉ざす。

 やっぱり、あの二人は普段は騒がしいくらいだが、雰囲気の払拭には頼りきりであったのだと実感させられる。

 鬱々と暗い感情を覗かせるエリィの様子に、どうしたものかと頭を悩ませていると、視界の隅に大きな建物が入ってきた。



「エリィさん! あの建物は何ですか!?」

「…あれはギルドよ」

「ギルドって…あれがそうなんですか? なんだか、酒場みたいな雰囲気ですけど」

「酒場…あながち間違いではないわね。あそこはギルドの中でも、素行の悪いものが集まる冒険者ギルドよ。依頼を取廻しているだけじゃなくて、酒や食事を出したりもしているから、酒場って言うのは間違った認識ではないわね」

「ああ、ということはあそこで情報を集めるんですね?」

「そうね。あそこでも、まあいいわね」



 少々投げやりではあったものの、エリィの肯定を貰うことが出来たため、出雲は我先にと先頭を切って大きな扉に手を掛ける。

 自身の背丈よりも大きいその扉は見た目以上に重量があって、思い切り体重を入れて開ければ扉は勢いよく開かれてしまう。

 予想をはるかに超えた騒がしさが中から飛び出してきて、大きな音を立てて開いた筈の扉の方を誰も見ようともしない。


 視界に入ってきた光景は忙しない。

 何らかの文字が書かれた、一枚ものの用紙が飛び交い、怒号に近い指示や武器や防具といった金属の鳴る音が部屋を埋め尽くしている。

 筋骨隆々といった大柄な男や、必要最低限の個所しか守らない軽装な鎧を身に付けた中年の男、弦を引く事さえ難しそうな大型の弓を背負う背の高い女、そしてそれらの冒険者と思わしき人たちに対して一枚ものの紙を渡しながら指示をする眼鏡を掛けた女性等が視界を埋め尽くした。

 思わずその光景に圧倒されその場で身を固めれば、指示を受けたであろう五人組が邪魔だと言わんばかりに肩で出雲を突き飛ばしてギルドから出ていく。


 大丈夫?とエリィに助け起こされて、ようやくこの光景に理解が追いついた。

 こんな壊滅状態となった町の住人は、それを復興するにしても、次に備えるとしても忙しないのは当たり前だ。

 指示を出している女性がこちらを一瞥するが、すぐに他の人を呼び、絶えず口を開き続けている。

 情報収集するにしても、今何処に行こうとも歓迎されないことは明らかである。


 どうしたものかと、思いながらエリィとともに壁の端に寄れば、エリィはおもむろに髪を耳に掛けて、そのままの手で耳を覆う。

 動作にすればそれだけだ。

 だが、エリィが普段しない行動を今この場でしているという事は、魔道の深淵を往くエリィが耳を露出させるということは、たとえそれが自分に理解が及ばなくとも何かしらの網を張り巡らせているのだろう。

 そう思って、固唾を飲んで雑音を出さないように注意する。


 そんな手持ち無沙汰な状況で、何もしないというのに出雲は耐えきれず、音をたてないようにしながらも、きょろきょろと周囲を見渡した。

 ざわざわと騒がしい人がごった返しているこの場の様子は見た事の無い光景だ。

 カウンターに大きな掲示板、意外にも壁の端には大きな本棚が設けられており、多くの丸机が乱立する中で中央には長机が設置されている。

 今はカウンターと掲示板に人が集中しており、自由に摘まんで英気を養わせるためか、多くの料理が机の上に並べられている。

 それを片手で豪快に掴みながら、扉から飛び出していく冒険者達に頼もしさを感じるものの、同時に粗暴さも感じさせて不安も覚える。

 また、意外に思った本棚に目を向ければ、魔物図鑑や武器、防具全集と言ったものや戦術理論や地形の活用、野宿の心得、伝記と言ったものまで完備されている。

 色々役に立ちそうなものがあり、読んでみたい衝動に囚われたが、ちらりと隣に居る真剣な表情のエリィに視線をやって諦める。

 ふらふらと、本棚に飾られている横表紙で視線を滑らされれば、それらの有用そうな蔵書の数々の中で、ひっそりと、そして異様な題名に視線が釘付けにされた。


『カラカササマ』


 固有名詞であろうそれの横表紙は、真っ黒な色合いの中、輝くような白色の文字で書き出されている。

 あれは何だろうと、じっと遠目に見詰めても、それが何なのか分かる訳は無い。


 しばらくそのまま観察していたが、好奇心に負けて少しだけ見てみようと動こうとしたところで、タイミング悪くエリィが髪を戻した。

 疲れたような溜息を吐いた彼女を、窺うように覗き込んだ出雲は、帰るわよと声を掛けられ慌てて彼女に付き従う。

 何を聞いたのだろうと思ったが、ここで何か情報があったと説明するなんて愚行だろうと思い直す。

 ただ情報を盗み聞きしたと告白しているようなものなのだ、反感を買うことはあっても、喜ばれることは無いだろうから、どちらにせよ一旦ここを離れるのは悪い判断ではないだろう。

 

 そう思って。

 入ってきた扉から出て行こうとしたところで、声を掛けられる。



「待ってくださいね。そう、そこの二人組です。先ほどから隅でこそこそと何をされていたのですか?」

「――別に、取るに足らない事よ。忙しそうだから、また時間をおいて出直そうと思っただけ。…私達の動向をつぶさに観察するなんてずいぶん余裕ね。もっと手元に集中したらどうかしら、受付の方」



 眼鏡を掛けた、先ほどまで冒険者達に指示を出していた女性が、目ざとく出雲達を見つけて引き留めてきたのを、それこそ氷でも相手に投げつける様な態度を隠そうともせずエリィは睨みかえす。

 部屋中の視線が一斉に出雲達に集まり、首筋に嫌な汗をかくのを感じる。

 それらの視線は、決して好意的なものではない。

 疑うようなもの、探るようなもの、無関心なものもあれば、一足飛び越えて攻撃的なものすらあった。

 歴戦の、それこそ死線を多く潜り抜けているであろう彼らの、敵意にも似た威圧感に気圧されそうになる出雲とは打って変わって、エリィは初対面の時のような攻撃的な雰囲気をまとわせて彼らに相対する。


 嫌に攻撃的なエリィの態度に、始めこそ、揺らぐ事の無い彼女の姿に安心感を覚えたが。

 既視感に導かれるままに、以前リカがエリィを人見知りと評していたことを思い出して、まさかと思い至る。

 初対面の人に対して攻撃的になってしまうのがエリィの人見知りなのだとしたら、今の状況のような少なからず疑いを持たれている状況では、最悪の部類だった。

 暗雲の立ち込めている先行きの可能性に、慌てて声を掛けてきた受付の方へと視線を向ければ、エリィの敵対的な態度にさらに疑心を膨らませた様子がはっきりと分かり、頭を抱えたくなる。

 

 冷戦は続く。

 一触即発の状態のまま、どちらも引くつもりは無いように思えた。



「その、取るに足らないことを聞きたいのですが? 溜まった仕事の処理も大切ですが、鼠取りも立派な私の仕事なので」

「そう、それは御立派なことで。でも、ここでは登録していない者からの物資の買い取りをやっているのか確認したかっただけ、それが私達の取るに足らない要件よ。どうかしら、貴方のお眼鏡に叶うような内容で在れたかしらね」

「…確かに正当で、矛盾も無い理由ね。ただし、そういう建前を持った者としても最適な理由でもあるわ」

「―――つまりそれは、口頭での争いで済ませるつもりは無いと、そう取って良いのね?」

 

 

 だから、こうなるのは必然だ。


 空気が変わる。

 黄色から赤色へ。

 警告色から危険色へ。

 エリィの言葉を契機に、ここで血を流すことも厭わないとばかりに、建物内に居る歴戦の冒険者たちからの殺気が溢れ返り。

 それが次の瞬間には、エリィから発せられた重圧によって押し潰された。



「―――っっ!??」

「最終確認よ。ここで私と、事を構えるのであれば向かって来なさい。そして最終警告。――命の保証はしないわ」



 エリィの周囲の空間が歪む。

 透明な空気の中に、透明で鋭利な何かが紛れ込んだように、彼女の周囲を回転する揺らぎが発生する。



「下らない疑心に付き合うつもりは無い。中途半端な折衷案で折れるつもりもない。これ以上私の邪魔をするというのなら、覚悟しなさい」



 齢にして20に満たないだろうか。

 大人びた雰囲気を持ち、どこか冷たさを感じさせる、そんな普通の少女。

 それが、いくつも死線を潜り抜けたであろう冒険者を圧倒する。


 あってはならない光景だ。

 そんな異常がまかり通ってならないだろう。

 だが、ここにいる誰もが、少なくとも自身の仕事に誇りと自信を持っている筈の者達が、死と隣り合わせの経験を得ているがゆえに、ここまで虚仮にされてもなお動くことが出来ない。

 肌を突き刺すような目に見えない重さに、不可解で正体不明の力の奔流に気圧されて、何より数多の戦場を潜り抜けたからこそ分かる死の危険に、不用意な行動を抑圧される。


 だから、何の反応も示すことの出来ない彼らに対し、エリィは素早く周囲を一瞥して動くものが居ない事を確認すると、すぐに彼らに背を向けこの場を後にする。



「エ、エリィさん! 良いんですか!? あんなに思いっきりケンカ売っちゃって!?」

「…」

「ちょっ、待って下さいって!」



 慌てて出入口から出て行ってしまったエリィを追い掛け、隣に並ぶ。

 出雲の呼びかけにもまるで反応もせず、スタスタと歩調を少しだって緩めようとしない彼女は苛立ちのままに眉間に皺を寄せている。

 言わずもがな、自分自身に対しての怒り。

 自己嫌悪だ。



「…無い、ほんとに無い」

「えっと?」

「やっちゃった…、ほんと馬鹿…」

「…あー、うん、そういう時もありますよ、いやきっと…」



 隣から聞こえる鼻を啜る音に、なんだか居た堪れなくなって出雲は言いよどむ。

 あの場で自分もやるべきことがあった筈だろう。

 雰囲気に圧倒されていないで、むしろ自分が盾になるつもりで動かなければならなかった筈だ。

 そうすれば少なくとも、あれほど反射的に彼女が敵対行動に移ることは無い筈だった。

 だから、これは彼女の失敗ではない。

 これから見据えなければならない、自分の課題だ。

 そう思った。

 けれど、意固地な彼女はきっとそんなことを言っても納得はしやしないだろうと思い、また先ほどと同じように会話の種を探すように、壊れた街並みに目を向けて。


 ようやく違和感に気が付いた。



「…エリィさん、質問して良いですか?」

「…なによ。別にそんな前置きいらないから、早く口にしなさいよ」

「こうして目の前に人通りが多くあって、先ほどのギルドでは対策に駆けずり回っていた人が一杯いましたよね。つまり魔物に襲われたものの生存者は多くいるっていうことで。それで、今は夕刻。建物の中で籠るには早すぎますよね」

「そうね。だからどうしたのよ」



 考え込みながら遅くなってくる出雲の足に合わせるように、エリィは速度を落し、深刻そうな顔をした彼を見て、落ち込んでいた様子を消して訝しげに続きを促した。



「なら、…なんでいままで子供を一人だって見掛けないんですかね?」

「…それは……」



 ぽつりと、心底単純な疑問を口にしたように出雲の口からそれは漏れる。

 言葉を返すことの出来なかったエリィは、ふと周囲に目をやった。


 倒壊した建物ばかりの光景の中で動くのは、それらを修繕する者達、けが人を治療する者達、飲食物を分け与える人達、武装して何かを話し合う人達ばかり。

 小さな子供の姿はおろか、声すらどこにも響くことは無い。

 もともとそんな存在など居なかったように、誰もそのことを気にすらしていないのだ。



「エリィさん…、前回ここに来たのっていつですか?」



 以前から、この町に彼女たちは買い物に訪れていたと言っていた。

 それならば、きっとこの町の状況を知っている筈で。



「前回は…3か月前ね…」

「その時に、子供って」



 今無いもの、過去にあったもの。

 不気味な相違に、知識としてではなく、感覚として実感を始めたエリィの顔色はあっという間に青褪めていく。

 気味の悪い、原因の分からない惨状だけを見せられているがごとく、二人の背筋を嫌な予感が撫でるのだ。



「…普通に居たに決まってるじゃない。そこら中で遊んでいたわ」

「…宿に帰りましょう。二人が心配です」

「…そんな、うそでしょ、リカっ…!」



 先ほどとは打って変わり、進んでいた方向を反転させると、二人は全力で駆け出す。

 いきなり走り出した二人を驚いたように通行人は眺めたが、それもしばらくすると興味がなくなったかのように視線を戻し、自分のやるべき事に没頭する。

 光星は、まだ輝いている。


 こうして、出雲はあの不思議な本の事を、頭から追いやってしまっていた。




魔物の凶暴化

数百年に一度の頻度で起こる魔王発生に付随する形で出てくる現象。

魔物が組織化して人里などの生物の集落を襲い、命や物を奪う活動を激化する。

またこの場合、変異種などの発生も考えられることから基本的にそれぞれの魔物は設定されている危険度から一ランク上昇する事となる。

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