英雄召喚
かなり会話文が多くなってしまいました。読みにくかったらごめんなさい。よろしくお願いします。
●シュバイツフリード王国 地下 儀式の間
神官服を着た数名の男女とローブを着た数人の人間が、慌ただしく何かの準備を進めている。
この場所の中央には魔法陣のようなものが敷かれており、その上には鎖で繋がれ気を失ったように倒れている数名の子供達。彼らは皆若く、それぞれ10歳前後に見受けられた。
「教皇様、準備が整いましてございます。」
「いやぁ、ようやくですねぇ!今日という日をどれだけ待ち望んだことか!この私が!アルテア教教皇たるこのアルフレッド・エイジスが!神々より授かりし、荘厳にして大いなる儀式を行える日を!神々の秘術を成功させた者として歴史に名を刻む日を!あぁぁ!今日はなんて良き日だっ!!今日という日を迎えられたこと、神々に感謝をっ!!!」
儀式を主導するアルテア教教皇、アルフレッド・エイジスがまるで舞台役者のような大袈裟な手振りで天を仰ぐ。
それを神官服の者達は熱い眼差しで、ローブ姿の者達は冷めた目で見ている。
「ところで、魔力の量はコレだけで足りるのですかねぇ?」
天を仰いだまま動きを止めていた教皇が、何事も無かったかのように、ローブ姿の男に訊ねる。その視線は魔法陣の上で倒れている子供達に向けられていた。
「はい。最近の情勢では捕らえるのも難しくなってきていますので、今使えるのはコレだけです。」
「おやおやおやぁ?足りなかったらどうするのですかねぇ?失敗は許されないのですよぉ?…神の!偉大な神々の!秘中の儀を!この私の偉業を!!阻むおつもりですかぁぁぁぁ?」
教皇がローブ姿の男へ顔を近づけ、男の額に自分の額を押し付けて叫ぶ。
男は冷や汗をかきながら距離をとり、続きを口にする。
「ご、ご安心下さい。この魔法陣は限界を超えて魔力を絞り取れる様になっております!魔力が足りないという事態は万が一にも発生いたしません!」
「それなら問題はないですねぇ。」
教皇が先ほどまでの形相を引っ込め和かな笑顔を浮かべる。男はホッと息を吐き、周りの同僚はそんな男に同情の視線を送る。
「ただ一つ注意点がございまして、限界を超えて絞り取るので、コレらの再利用は不可能となります。」
「その程度は問題になりませんねぇ。どうせ特に役に立たない一生を送るのですからぁ。ならば、神々の!この私の!偉業の礎となることを!!誇りに思うでしょうねぇ。」
教皇の言葉を聞き、神官達はその通りとばかりに頷き、ローブの者達は心の中で罵倒する。
神々のために死ぬのは、進んでやりたくはないが受け入れられる。だが、この教皇の礎になるのはタダで死ぬより嫌だった。というか、いちいち叫ばないと喋れないのか。あれを目の前でやられるのは悪夢だなぁ。
と、この場にいる者達の心中は色々だが、一つ共通している点は、誰一人、贄とされる子供達に対して罪悪感など欠片も抱いていないということだった。
「では、儀式を始めます。」
神官の一人がそう言い、神より齎されたという神言を唱え始める。残りの神官も後を追うように唱え始め、さながら輪唱のように神官達の声が響き渡る。
ローブの者達が空間に魔力を放ち始めると、魔法陣が輝き出す。
「ぐ、ぐぁぁぁぁっ!?」
「あ、あぁぁぁぁっ!?」
魔法陣が輝きを放ち始めると痛みによって覚醒した子供達が叫び声をあげる。輝きが強くなる毎に叫び声も強くなり、やがて声が聞こえなくなったと同時に儀式の間が光に包まれたーー。
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●日本 首都 東京
「はぁ…。」
都内の高校に通う高校3年生、日向 白翔は溜息を吐きながら自宅に向けて歩いていた。
髪の色は薄く赤みがかった茶色、瞳は薄いブラウンで目鼻立ちは整っている。生まれも育ちも日本で、両親も日本人だが、申し訳程度に外国の血が流れているらしい。
身長は平均的な170前半、特にスポーツをやっている訳ではないが、趣味の事もあってソコソコ鍛えられた身体つきをしている。
散歩が趣味という、どこにでもいる普通の18歳だ。
「はぁ…、進学かぁ…。」
彼の名誉のために言っておくと、彼は頭が悪い訳ではない。むしろ良いほうで、だいたいのテストで学年10位以内に入っている。ただ彼にはやりたい事があり、進学してしまうとそれが難しくなる為に悩んでいた。
「はぁ…。…あ、おーい!蓮夜ぁー!」
「んあ?」
白翔は前方を歩いていた背の高い青年に声をかける。
彼の名前は黒城 蓮夜。
背は180後半の高身長。髪は黒く、白翔に負けず劣らずのイケメンである。最大の特徴はその瞳で、かなり珍しい紫色をしていた。
「白翔じゃないか。なんだ、今帰りか?」
「うん。蓮夜は?バイト帰り?」
「あぁ。」
白翔と蓮夜。二人は同じ中学の同級生だった。お互いに目立つ容姿をしていた事もあり、なんとなく近づき、そのまま友人となった。柔和な印象の白翔とらどことなく威圧感を感じる蓮夜の組み合わせに、よからぬ妄想を繰り広げる輩がいたとかいないとか。
「蓮夜はさぁ、もう学校とか行かないの?」
「その話は何度目だ…?俺はダメだな。」
「そっかぁ。」
威圧感こそあるものの、寡黙で落ち着きある印象の蓮夜だが、その実かなり喧嘩っ早い。
剣道のスポーツ推薦で高校に進学したが、そこで横行していた年功序列を笠に着たイジメにブチ切れ、上級生を軒並み病院送りにした事で退学となっていた。
「…何か悩んでんのか?」
「あー…、判る?実は進路の事で悩んでてさぁ。」
「お前は頭がいいんだから好きなところに行けんだろ。」
「いやー、ほら、俺って散歩が趣味じゃない?」
「…あれを散歩というのは抵抗があるな。どこの世界に散歩に行くと言ってキャンプセットを持って行く奴がいるんだ。」
「別に毎回キャンプセットを持って行ってる訳じゃないよ?」
「そうだったな。ほとんど手ぶらで出掛けて2、3日帰ってこないとかもざらだったな。それで?」
「うん、俺さ、高校卒業したらちょっと世界中を自分の足で廻ってみたくてさ。色んなものが見たいんだ。」
「……壮大な散歩だな。」
「そうそう、壮大な散歩。色んな国に行くなら最低でも10年はかかるだろうしさ。もちろん、たまには日本に帰ってくるつもりだよ?」
「お前の親はそれを知ってるのか?」
「うーん、冗談混じりで言ってみた事はあるんだけど、その時は親の葬式には帰って来いよって言われた。」
「軽いな…。本気とは思ってないのか…?」
「わかんないなぁ。うちの親は俺が高校入ってからはほぼ放任だからねぇ。」
「反対されると思っているから悩んでるんだろ?」
「まぁね。普通に考えたら息子が10何年も一人で海外に行くとか反対するだろうし…。」
「まぁ、お前の心は決まってるみたいだからな。俺からは気合い入れて説得しろ、としか言えん。じゃあ、俺はこっちの道だから。」
「あ、うん。ありがとう、蓮夜。……?!!」
「?、どうし、…?!!」
話を終え、蓮夜が道を曲がろうとした時、二人の足下に何かの紋様が浮かび上がる。
「これって、魔法陣…??!」
「知らん!、体が動かないぞ!!?」
魔法陣は輝きを増し、光が二人を包むように広がる。
光ぎ収まったあと、そこには魔法陣も二人の姿も無くなっていたーー。
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●シュバイツフリード王国 地下 儀式の間
儀式の間の光が収まると、そこには二人の青年が立っていた。
「おおお!おぉぉぉ…?」
「二人…?」
「神託では呼び出される英雄は一人では…?」
儀式が成功を収めたことによる歓声は徐々に疑問の声に変わる。神官もローブの者達も神託の内容との齟齬に動揺していた。
そして、喚び出された渦中の二人も絶賛混乱の最中にあった。
「ここ何処?あの人達は誰??そして俺は誰???」
「ここが何処かは知らん、あいつらが誰かも知らん、そして、お前が誰かも知らん。」
「蓮夜ぁぁ?!」
「うるさい!今考え事をしてるんだ!」
「あ、うん。」
突然の事にパニック&ちょっぴりテンションが上がっていた白翔だったが、蓮夜の機嫌が急降下しているのを察して黙る。
キョロキョロと周囲を見渡す白翔。
(薄暗いと思ったら窓が一つも無いんだ。ってことは地下なのかなぁ。)
(何か凄い装飾品が沢山付いてる偉そうな人に、神官っぽい人達、そしてローブを着た怪しげな人達かぁ…。こういうのってお姫様とかが待ってるんじゃないんだね…。)
蓮夜は自身の機嫌が悪くなっているのを自覚しながら考え込む。
(ちっ、身体に不調はねぇ。気絶させられて何処かに運ばれたって線はなさそうだ。まさかマジで異世界か……?)
(…異世界だと仮定して、だ。喚んだ理由は何だ?事故…は違うな。ちっ、出入り口は連中の後ろか…。一先ずは静観するしかないか…?)
喚び出した者達も喚び出された二人も混乱していた中、一人混乱とは無縁の存在がいた。
「…………………素ぅ晴らしいぃぃぃっ!!」
ビクッと震える一同。
「神の!神々の!偉大な奇跡によって!この地に喚ばれし英雄!それがなんと二人も!これぞまさに神の奇跡!これはまさしく私を!神々の敬虔なる僕たる私を!神々がお認めになられた証!この私の!アルテア教教皇であるこのアルフレッド・エイジスの!偉業を支えてくださっている!まさに!あぁ、まさにっ!神の寵愛!私は神に愛されている!!今日はなんて良き日だ!私は今!神々の愛を感じているっ!!神々に感謝をぉぉぉ!!!」
教皇アルフレッドが興奮したように捲し立て、恍惚の表情で天を仰ぐ。
(うわぁぁ……。)
(なんだアレ……。)
突然の凶行に絶句する日本人二人。
神官達は跪いて祈りを捧げる。
ローブの者達は慣れて来たのか、教皇の姿を見て逆に冷静さを取り戻す。
喚び出された数に齟齬はあったものの、教皇が認めているようなので、予定通りに進めることにした。
「異界より来られし御二方。先ずはこちらの呼び掛けにお応え頂きありがとうございます。」
「え?いや、応えたっていうか…。」
「…あぁ、こちらとしては突然此処に連れてこられたという認識なんだが…?」
「なんと…??」
「全てはぁ、神の御心なのですっ!」
「うわっ!?」
いつの間にやら近くまで来ていた教皇が声を上げる。
思わず距離をとる白翔。
(連夜ぁ、俺あの人苦手なんだけど…。)
(安心しろ、俺もだ。)
「えー、御二方には一先ず、この国を治められております国王陛下にお会いして頂きたいのですが。」
このままでは話が進まないと判断したローブの男は、一旦疑問と教皇を脇に置き、予定を進める。
(うわぁ、あの教皇って人、めっちゃこっち見てる…。)
(国王…。ということは此処は王国か…。)
「その前に聞きたい事がある。」
「蓮夜?」
「何でしょうか?」
「俺たちは元の世界に帰れるのか?」
「あ…!」
その事を全然考えてなかったとばかりに声を上げる白翔。
蓮夜は、そんな事だろうと思っていたとばかりに一瞬呆れた目を向けるが、強く異世界の者達を睨む。
「それについては私がお答えしましょう!」
蓮夜の問いに教皇が答える。
「この秘術は、我等の神が!絶望に喘ぐ我々人類を憐れみ、授けて下さった奇跡!全ては神々の御心によるもの!神に愛されしこの私でも!神の御心を全て理解することなど!出来はしないのです!あぁ、神よ!偉大なる我等が神よ!あなた様の御心を解す事の出来ない愚かな私を、お許し下さいぃぃぃ!!」
言うやいなや、涙を流しながら天を仰ぐ教皇。
(それって結局判らないってことじゃ…。ていうか、神様とかいるんだ…、この人の妄想じゃなければ。)
(神が実際に存在する世界か…?ちっ、拉致同然の技術を教えておいて返し方を教えないとは…。どうやらその神とやらはロクでもない存在のようだな。)
そんな教皇が知れば烈火の如く怒り出しそうなことを考える二人。
「とりあえず、此処にいてもしょうがないし国王様に会いに行こうか?」
「……そうだな。」
「では、ご案内致します。」
ようやく国王の下に連れて行けると、ホッと息を吐くローブの男。
「ん…?」
「どうした?」
「ううん、何でもない。」
(鎖…?どうして魔法陣の上にあんなものが…?)
白翔は疑問を抱くが、頭から追い出し、蓮夜と共に儀式の間から出て行く。
ちなみに教皇は未だ涙を流していたーー。
お読みいただきありがとうございました!