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プロローグー2ー

プロローグその2です。よろしくお願いします。

 ●ピステル王国 首都 ピスコ



 首都を囲むように造られた防壁の上で、慌ただしく騎士や兵士が行き交っている。すでに防壁の上からは肉眼で確認できる距離に魔族の軍勢が迫っていた。


「さぁて、お客さんが大量だ!おまえら!丁重にお出迎えしてやるぞ!!」

「そんでもってさっさと帰ってもらうっすよー!」

 ワイルレッドとキースが自分達の率いる団員達に向けて独特の檄を飛ばす。


「ふぅ。みなさん、見ての通り前衛部隊は興奮しています。なので、私達がフォローしなくてはいけません。…はい、いつも通りですね。多少の傷ではビクともしませんから、肩に力を入れず平常心で行きましょう。」

 トゥリアが後衛部隊に言葉をかける。

 このような戦場はよくあることなのか、金剛傭兵団は落ち着きながらも士気を高めていた。



「諸君!いよいよ決戦の時が来た!敵の数は多く、我等が敗れれば国が滅ぶという危機的状況だ!」

 筆頭騎士のガーイルが叫ぶ。彼の言葉を聴くのは彼が率いる騎士、生き残った兵士達、故郷を追われそれでも大切なものを守るために集った人々だ。


「しかし、絶望することは無い!前を見ろ!我等の前にいるのは金剛傭兵団!数多の戦場で味方に勝利を運んで来た歴戦の勇者達だ!」

 その言葉に傭兵団の者達が武器を掲げ雄叫びを挙げる。


「隣を見ろ!ここに集まったのは同じ想いを抱く同朋だ!故郷を、友人を、愛する者を喪いながらも蹲ることなく立ち上がった戦士達だ!」

 先祖伝来の土地を追われた農民が、父母を殺された青年が、友の死を看取った兵士が、涙を流しながらも強く武器を握り締める。


「背後を見ろ!我等の背には決して侵されてはならない場所がある!護らねばならない人がいる!奪われてはならないものがある!我等が斃れれば全て失う!無くなってしまう!そんなことは許されぬ!受け入れられぬ!そうだろう?!」

 王に忠誠を誓う者、愛する家族を残す者、この国を愛する者達があらん限りの声を挙げる。


「故にだ諸君!我等は決して斃れてはならぬ!心折れてはならぬ!足を失ったなら腕で這え!武器を失ったなら拳で戦え!腕を失ったなら噛み千切れ!魔族の連中に教えてやれ!我等の心が折れぬ限り、我等に負けはないのだと!!」

 ガーイルの言葉に応え、集った人々が雄叫びを挙げる。人間側の士気は高いーー。



 すでに魔族の軍勢は防壁前に集まった戦士達の目にもはっきり確認できる距離にまで来た。


「……??!」

「あれは……?!」

「デカいぞ…?!」

 傭兵団の団員や騎士、戦士達から戸惑いの声があがる。原因は侵攻してくる魔族軍の先頭。そこにいる明らかに他の魔人より巨大な魔人に対してのものだ。


「あれは…牛魔人(ミノタウルス)か…?」

「そうっすねぇ?大きさ以外は牛魔人(ミノタウルス)に見えるっす。」

「巨体の牛魔人(ミノタウルス)…?……!!まさか!」

 さすがのワイルレッドも見たこともない巨体の魔人に対して困惑が隠せない。すると、トゥリアが何かに気付いたように声をあげる。


「何か気付いたのか、トゥリア?」

「団長!あの魔人はすでに滅んだ国からの報告にあった、魔族軍の幹部格である可能性があります!」

「幹部格……?…!!噂の七天魔ってやつか!!」


 七天魔ーー

 大陸各地で戦線を広げている魔族軍の中に、他の魔人とは一線を画す強さを持った、異形の魔人が現れたという報告がある。彼らは圧倒的な強さを持ち、自らを【七天魔】と名乗りあげるという。他の魔人、魔獣に対して命令を出す姿や、魔人達が跪く姿が確認されているため、彼らは魔族軍の中で上位の位階にいるものと考えられている。

 

「確かに巨躯の魔人や牛魔人(ミノタウルス)の報告があった気がするが、あれは別々の魔人じゃなかったか?」

「そのように聞いていますが、情報は錯綜していますから。一体の魔人が別々の存在であるかのように伝わっている可能性があります。」

「もしくは他にもあのデカさの魔人がいるかもっすね〜。」

「あのデカさが何体もいるってのは嬉しくない話だな…。まぁ、ああして一体いるんだから他にいてもおかしくはないが…。」

「でも七天魔ってのは上位の魔人なんすよね?そんなのが前線のそれも一番前に出てくるんすか?」

「うちの団のことを考えなさい。長というトップが率先して敵に向かっていくでしょう?」

「あ〜、確かに!」

「まぁ、俺の魔法は前線の、それも敵の集団の中が一番効果的だからな。」

「とにかく、アレが七天魔であろうとなかろと、脅威度が高い事に変わりはありません。」

「そうっすね。先ずはアレを優先的に処理するっすよ!」



 ➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 ●ピステル王国 魔族軍内


「ウーティラ様、見えてまいりましたね。まだあれだけ残っていたとは驚きです。」

「ソウダナ。ドコマデモ、イラツカセル存在ダ、人間トイウ奴ハ!!」

 副官が呆れと共に発言し、ウーティラが声を荒げる。


「いかがなさいますかな?数はこちらの方が倍は多いですから、軍を2つに別け挟むように包囲するという手もありますが?」

「必要ナイッ!全軍ッ!蹂躙セヨッ!!突撃ダ!!」

 ウーティラはそう声を挙げ、先頭に立ち進もうとする。


「お、お待ち下さい!敵の前方に展開している集団は後方の人間達とは実力が違うように感じます!ここから確認できるだけでも高い魔力を持つ者達もいるようです!危険でございます!」

「ソレダケカ?」

「は、は…?」

「デハ、死ネ!」

 哀れ、忠言した魔人はウーティラによって一足先に死を迎える。古参の魔人は勿論、ここまでくれば新参の魔人たちも理解する。ウーティラは肯定以外認めないのだと。

 副官は恐怖に震える新参の魔人を、前方に見える人間達を見て嘲笑を浮かべる。まだまだ理解が浅いのだと。危険?そんなものはウーティラの前に存在しない。愚かな人間共も、考えの浅い魔人たちもこの戦で少しは理解するだろう。ウーティラの前では全ての者が等しく塵になるだけなのだと。

 暴君そのものといえるウーティラに仕える副官が、忠誠を誓っているのは誰よりもその力を知っているからだった。


「蹂躙セヨ!人間共ヲ殺シ尽クセ!突撃ダ!ブモラァァァァァ!!!」

 ウーティラが咆哮を挙げ、軍を引き連れ突撃して行く。


 いよいよ戦端が開かれるーー!


 ➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


 ●首都 ピスコ 防壁前 戦場



『ブモラァァァァァ!!!』

 巨大な咆哮が響き渡る。押し寄せて来る魔族軍に防壁の上から魔法や矢が降り注ぐ。


「おいおい、あのデカブツ、矢も魔法も効いてねぇみたいだぞ。」

「見たところ防具の類いを身に付けているようには見えないですが…。」

「いやぁ〜、すげぇ硬そうっすねぇ。捌くのに苦労しそうっす。」

「さて、先ずはあのデカブツを仕留める!行くぞ!」

 ワイルレッドが盾を打ち鳴らしウーティラへ向かって行く。その後をキース、前衛部隊が追う。



「そこのデカブツ!止まりやがれ!」

「人間ガァ!誰ノ前ニ立ッテイルッ!!」

「はっ!お前が誰かなんて知らねぇな!行くぜ!

 金っ!剛っ!!鉄壁っ!!!」

 ワイルレッドから魔力が迸る。先の戦闘と違い、今回は周囲の敵対心を煽る効果を弱めている。その代わり自身の防御に魔力を多く回している。


「ほう。かなりの魔力だ。ウーティラ様、どうやらこの人間は愚かにもウーティラ様の一撃を受け止めるつもりのようですね。」

「ヴァハハハ!人間ッ!ナラバ望ミ通リ潰シテヤロウ!グラァッ!!」

 ウーティラが石造りの棍棒をワイルレッドへ振り下ろす。


「ぐぅぅぅっ!!!」

 盾で受け止めたワイルレッドだが、その衝撃は今まで受けた事のないほどに強いものだった。一撃、たったの一撃を受け止めただけで腕が痺れ足が震える。もう一撃は耐えられる。だがそれだけだ。それ以上は耐えられない。ワイルレッドの生存本能がかつてないほどに警報を鳴らしていた。


「ホウ?俺ノ一撃ヲ耐エタカ。生意気ナ。人間、名ヲ名乗レ。」

「…ワイルレッド……。金剛傭兵団団長ワイルレッドだっ!!」

「ソウカ…ワイルレッド!貴様ハ俺ノ一撃ヲ耐エタ!褒美ニ俺ノ名ヲ覚エテ逝クガイイ!!

 俺ノ名ハ、ウーティラ!七天魔、憤怒のウーティラダ!!」

 そう名乗りをあげ棍棒を振り下ろすウーティラ。しかし、それは阻まれる。トゥリアと後衛部隊がウーティラへ魔法の集中砲火を浴びせ、キースが背後から首を断ち切ろうと斬撃を与える。僅かによろめいた隙をつきワイルレッドは距離を取った。


「団長無事っすか?!」

「すまない、助かった。だが、状況は最悪の部類だな!七天魔……まさかこれほどとは思ってなかったぜ……!!」

「あいつヤバイっす。完全に隙を突いたはずっすのにほとんど刃が通らなかったっす!」

「キース!散った前衛部隊を集めろ!こいつを仕留めなきゃ負ける!金剛傭兵団の総力をこいつに注ぐ!」

「他が薄くなるっすよ?」

「背に腹はかえられん!ガーイルに伝令を出せ!」

 ワイルレッドとキースが態勢を立て直す間も後衛部隊から魔法や矢が飛んでいる。ほとんどダメージは与えられていないようだが、魔法と矢の弾幕が擬似的な煙幕となり前衛部隊が集結する時間を稼げていた。



「バカな…!何故耐えられる…!何故逃げ出さない…!!」

 ウーティラの後方、少し離れた位置でウーティラの副官は驚愕していた。今までウーティラの一撃を耐えられた存在を副官は知らない。さらには、ウーティラの力を目の当たりにしたにも拘らず、反撃のための態勢を整え始めている。

 耐えられるハズがない。万が一にも耐えられたのならば、逃げ出すハズだ。命乞いをするハズだ。明らかな死の恐怖に魂まで震えるハズだ。何故ーー?

 ウーティラという力の権化に絶対的なものを感じている副官にとって、ワイルレッドという人間は理解の外にあった。

 驚愕からくる動揺によって、周囲の警戒が疎かになっていた副官は気付かない。

 ウーティラという最大の脅威に向けて傭兵団の団員が集結を始めている。向かう途中で、呆然と立っている魔人を見つけた団員がどう動くか。

 副官は自身の背後に死神が忍び寄っていた事に気付く事なくその意識を永遠に失うーー。



 ➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


 ●首都 ピスコ 防壁前 簡易本部



「伝令!金剛傭兵団が七天魔、憤怒のウーティラと名乗る魔人と交戦!対象の脅威度は特大!金剛傭兵団は総力を持ってこれに当たるとのことです!!」

 伝令の兵士がガーイルの元へ駆け込んで来る。


「…!まさかこの戦場に七天魔が現れるとは…!!」

 ガーイルが苦み走った表情で言葉を吐き、周囲の騎士が息を呑む。国に仕えるガーイルや騎士も七天魔の情報は知っていた。だからこそ現状が最悪の状況になりつつあることを理解した。


「金剛傭兵団は大丈夫でしょうか…?」

「判らん。ワイルレッド殿は英雄クラスには届かぬかもしれぬが、傭兵団全体で見れば十分に英雄クラスと言っていい実力がある。」

「では勝てるのでは……?」

 騎士の一人が希望も込めてそう呟く。しかし、彼の言葉には周囲の騎士も同意するところだった。それだけ英雄クラスの人間というのは桁違いの実力を持っており、人類の希望足り得る存在なのだ。

 だが、英雄が人類の希望足り得る存在であるならば、人類の絶望足る存在が、魔族であり、七天魔だった。


「…東方の大国リーズベルトの戦場で英雄クラスの騎士、リーン卿が討ち死にしたことは知っているだろう。その際、リーン卿を殺した魔人が七天魔の一角だったらしい…。」

「………っ!!?」

「で、では援軍を…!」


「伝令!敵、攻勢を強め始めています!戦線維持に支障有り!」

「くっ……!」

「おのれ…!」

「傭兵団員が抜けたことで相対的に圧力が増えたのだろう。我等も前線に出るぞ!我々には我々の立つべき戦場がある!」

 簡易本部にいた騎士達も剣を手に取り戦場へと駆けて行く。ガーイルもまた直接指揮を採るために向かう。


「……頼んだぞ………!!」

 金剛傭兵団が死闘を繰り広げているであろう戦場へ向けそう呟くと、剣を抜き駆け出して行った。



 ➖➖➖➖➖➖➖➖➖


 ●首都 ピスコ 防壁前戦場

 金剛傭兵団vsウーティラ



「ガアァァァッ!!人間ガァ!鬱陶シイッ!サッサト潰レロォ!!」

 ウーティラが棍棒を振り回し周囲の団員を叩き潰そうとするが、前衛部隊は決して同じ所に留まらないよう、絶えず動き回り攻撃を躱していく。


 後衛部隊を率いるトゥリアは、魔法や矢の効き目が薄い事を見てとると、ウーティラの頭部に攻撃を集中するよう指示を出す。

 頭部への集中砲火によって視界を制限され、苛立ちが際限なく募ったウーティラはとにかく周りの人間を潰そうと、大振りの攻撃を繰り返していく。


「うらぁっ!」

 ワイルレッドはその大振りの隙を突き、決して正面から受け止めないよう、盾で逸らし、ウーティラの体勢を崩しにかかる。

 ウーティラが攻撃を流され体勢を崩した隙に、キースを筆頭とする前衛部隊が斬りつける。ウーティラの攻撃力を奪うために狙いは脚部。唯一防具を着けている部位だが、巨体であることを幸いに、防具の隙間、関節部に攻撃を集中させていく。

 そしてとうとう、膝が落ち、ウーティラが仰向けに倒れ込んだ。


「よし!前衛部隊は今のうちに態勢を整えろ!負傷したやつは回復してもらえ!」

「いやー、一時はどうなるかと思ったっすが、なんとかなりそうっすね!」

「あぁ、七天魔…。確かに難敵だが、勝てない相手じゃないっ!」

 ワイルレッド達は気を抜かないよう集中しながらも、心を落ち着かせながらウーティラの動きに注視する。


「ウーティラ様っ!?」

 遠巻きにウーティラと金剛傭兵団の戦いを見ていた魔人たちだが、ウーティラが倒れ込むのを見て駆け寄ってくる。魔人たちに攻撃を仕掛けようとした団員達だが、ウーティラが立ち上がったために、その場に留まり警戒する。


「……………………。」

 立ち上がったウーティラは何も喋らない。集まった魔人たちは各々武器を構え傭兵団と相対する。

 徐ろに棍棒を振り上げたウーティラは、そのまま近くにいた魔人の1人を叩き潰し吼える。


「ガアァァァッッ!!」


「ウ、ウーティラ様!何を、お、おやめ下さいっ!…!?」

「や、やめ…!?」

「う、うわぁぁぁっ!!?」

 ウーティラは手当たり次第に周囲の魔人たちを叩き潰し、自身の周りに動く者が居なくなると、血走った眼で傭兵団を睨む。


「人間…!人間ッ!!人間ガアァァッ!!!」

 唸り、叫び、吼えるウーティラ。すると、ウーティラの全身の筋肉が盛り上がり、一回り以上大きくなった。腕輪は千切れ、脚の防具は弾けて落ちる。


「さらにデカくなるとか勘弁して欲しいっす!」

「あぁ…。だがあそこまで肥大化したんじゃ機動力は無いだろう。さっきまでと変わらん!慎重に削っていくぞ!」

 ワイルレッドがそう言い、後衛部隊から再び攻撃が着弾する。

 肥大化を終えたウーティラは己に攻撃してくる人間達を睨み、膝を曲げる。


「………?」

 先ほどまでとは違う行動に疑問の声が出る。


 ドンッッーー!!!


 何か巨大なものがぶつかるような音が戦場に響き、ウーティラの姿が消える。何処に行ったのかと疑問に思うと同時、後方より悲鳴が上がる。



「うそ……。」

 後衛部隊を指揮していたトゥリアは、自分の目で見たものが信じられなかった。部隊を指揮し、魔法を浴びせ、片時も目を離さなかった。なにせあの巨体だ。見失うほうが難しい。だが、気付いたらその巨体の化け物は後衛部隊の目の前に居た。


「ブモォォァァァッ!!」

 ウーティラは咆哮を挙げ、蹂躙を開始する。団員達の悲鳴を聞き、トゥリアは覚悟を決め腰の細剣を引き抜く。勝てるとは思っていない。だが団長達が駆けつけるまでの時間ぐらいは稼いでみせるーー!


「ハァァァッ!!【突き刺す風(ウィンステッド)】!!!」

 トゥリアの持つ細剣が風を纏い、渦を巻く。そしてウーティラへと突き刺す。トゥリアが扱える魔法の中で、最も範囲が狭く、最も威力の高い魔法。例え鋼鉄製の盾であろうと容易く貫く彼女の魔法は、ウーティラの腕を貫いた。


 が、それだけだった。


 ウーティラは痛みを感じる素ぶりも見せず、自身に歯向った人間に棍棒を振り下ろすーー。




「あ、あぁっ!!?」

「そんな…?!」

「バカな……!!」

 後衛部隊が蹂躙されていくのを見ていることしか出来ない前衛部隊。

 ウーティラの暴れぶりは凄まじく、自分達が駆けつけるまでに一体何人が生き残れるのか。そもそも自分達が向かったところでアレを止めることが出来るのか…?


 ワイルレッドの心にもまた、絶望の文字が浮かんでいた。それでも彼は団長である。団員が戦っているのに自信が立ち止まる訳にいかないと、心を奮い立たせ駆けて行く。

 だが、自身の右腕足る女性、傭兵団の立ち上げから、ずっと支え続けてきてくれた女性が死ぬ瞬間を目撃し、彼の足は止まってしまう。


「トゥリアァァァー!!」

 涙を流し、怒りの咆哮を挙げながらも彼の足は動かない。この戦いで最もウーティラの攻撃に晒されてきたのはワイルレッドだ。激しい戦場故に回復魔法は追いついていなかった。戦いの高揚と集中力によって、痛みを忘れて戦っていた。

 しかし、心が折れかけた事によって、身体が痛みを思い出してしまった。彼はもうボロボロだった。



「団長、俺は行ってくるっす。」

「キース………。」

「アレは倒せないっすけど、みんなが逃げる時間ぐらい稼いでみせるっす。」

 キースの言葉に周りの団員達も頷く。


「バカな…。死ぬぞ……?」

 ワイルレッドが呆然と呟き止めようとするが、キースはそれを笑いながら遮る。ワイルレッドにはその笑顔が泣きそうな顔に見えた。


「団長。俺は団長が好きっす。尊敬してるっす。誰よりも前に立ち、誰よりも傷だらけになりながら、みんなを守るその背中に憧れたっす。団長が立ち上がるまでの時間は俺たちが稼ぐんで、少し休んだらまた何時もの団長に戻って下さい。」


 キースはそう言い、頭を下げると振り返らずに駆け出して行く。団員達もその後に続く。


 ワイルレッドはその背中を見送り、涙を拭い立ち上がる。


「はっ、キースのやろう…。生意気言いやがって…。俺が立ち上がるまでの時間を稼ぐ…?……必要ねぇ!俺はワイルレッド!金剛傭兵団団長ワイルレッドだっ!!俺の団員達は俺が守るっ!!!」


 彼もまた己の最期の戦場へと駆けて行くーー



 ➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖



「で、伝令っ!!金剛傭兵団壊滅!!団長ワイルレッド殿戦死!!」


「!!!!……そうか、ワイルレッド殿が逝ったか…。生き残りはっ?!」

「ワイルレッド殿がしんがりを務め撤退を行なったようです!しかし、離脱できた人間が居たかどうかは不明であります!」

 報告を聞いたガーイルは、僅かに目を瞑り黙祷を捧げる。


「わかった。七天魔はこちらに向かってくるか?」

「は、……?!!」

 伝令の兵士が答えようとした時、戦線の横合いに巨体の魔人が現れ暴れ始める。


「なるほど、アレか…。開戦前に見た時よりも筋肉が肥大しているように見えるな。そういう魔法を持っているということか…。」

 現実逃避気味に思考を飛ばすガーイル。戦い慣れしていない戦士達はもとより、騎士の中にも恐慌状態に陥り錯乱する者が出る始末。人間側の敗北は覆せない状況になってしまった。


 ガーイルは目前に迫る巨躯の魔人を見上げる。


「さて、この先には貴様なんぞが触れてはならない方々がいらっしゃる。我が忠義という盾っ!そう簡単に破れると思うなよっ!!!」

「ブモォォァァァァァァ!!!」





 ーーこの日、ピステルという国家が大陸から消え去った。


 ➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


 ●西方の大国 シュバイツフリード

 玉座の間



 ここは五大大国の1つシュバイツフリード王国。

 その国を治める国王と宰相が話し合いをしていた。


「陛下、ガルム共和国に続き、ピステル王国も落とされたそうです。」

「そうか…。」

「それと…、アルテア教の教皇から再びの催促が…。」

「うむ……。致し方無い、準備を始めよ。」

「よろしいのですか?ヴァイス帝国が怒りそうですが…?」

「【大国会議(リツィーネクサス)】を待つ余裕はもうない。どの国にもな。」

「かしこまりました。では、儀式の準備を始めます。」



 かくして物語の幕が上がるーーー

なんか長くなってしまったのでかなり駆け足になりました。お読み頂きありがとうございました。

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