プロローグー1ー
プロローグ長くなっちゃったので2つに別れる感じになります。よろしくお願いします。
●アンフィガルド大陸 南方の小国 ピステル
首都 ピスコ
「殺しまくれ!この地を血に染め、魔王様に捧げるのだ!!」
今、大陸南方の小国、ピステルは滅亡の危機に瀕していた。
押し寄せるは異形の集団。大半は獣の姿、ただし普通の獣と比べて明らかに大きい。個体によっては頭や脚などが普通の倍以上存在するものもいる。中には人型のものもいるが一目で人ではないことが判る造形をしている。
獣型のものは魔獣、人型のものは魔人、総称して魔族と呼ばれる存在だった。
「もうすぐ増援が来る!それまで耐えろ!魔族に目にものを見せてやれ!!」
対するは国を守護する騎士の集団。中には農具や調理器具などを武器として戦う、明らかに戦闘職には見えない者たちもいた。
すでに国内の街や村はほぼ全て滅ぼされており、僅かな生き残りがこの首都に集まり自身や家族を守るために戦っているのだ。
防壁の上からは魔族の集団に向けて魔法が飛び、騎士を筆頭に近接戦闘に慣れた者たちが切り込む。
しかし、魔族は人間よりも身体能力が高いものが多く、戦況は魔族側が優勢だった。
このままならばそう時間もかからずピステルという国は大陸から消え去っていただろう。
しかしそうはならない。大陸最大の隆盛を誇る人類には、英雄と呼ばれるに相応しき、一騎当千の強者がいるのだ。
魔族側が勝利を確信し、人々の心に絶望が這い寄ってきた頃、魔族の集団に横槍を入れるように多数の魔法が着弾した。
「トゥリア、後衛部隊の指揮は任せる!前衛部隊!俺に続けぇ!」
魔法を放った集団を引き連れ戦場に現れた男は、側に居た細身の女性に指揮をまかせ、集団の半数と共に魔族の集団へ吶喊して行く。
指揮を任されたトゥリアと呼ばれた女性は、溜息を一つ吐くと弓や魔法などの遠距離攻撃を専門とする後衛部隊を指揮し、前衛部隊の突撃をサポートする。
「キース!指揮は任せるぞ!」
「うっす!団長はいつもの頼むっす!!」
魔族の集団へ突撃したあと、団長と呼ばれた男はキースという双剣士に指揮を預ける。
この団長と呼ばれる男、よく見れば武器を持っていない。その両腕に一つずつ、円形の巨大な盾を持っている。その二つの盾を打ち付けて集団の中で叫ぶ。
「金っ!剛っ!!鉄壁っ!!!
俺の名はワイルレッド!かかって来いや、魔族共っ!!」
叫ぶと同時、ワイルレッドの身体から周囲に魔力が迸る。すると周囲にいた魔族達が目の前の敵を放り出しワイルレッドに殺到する。特に理性よりも本能が強い魔獣は、かなり離れた場所から向かって来る個体もいた。
集団に襲い掛かられるワイルレッド。手数が足りず防げない攻撃は多いが、ワイルレッドの身体には浅い傷しか付いていない。二つの盾を巧みに操りながら経験と勘に頼り、威力の高そうなもの、致命傷になり得そうなものを優先的に防いでいるのだ。さらに後衛部隊から回復魔法が飛んで来て傷を癒してくれる。
そして敵がワイルレッドに集中している隙を付いて、キースが指揮する前衛部隊、トゥリアが指揮する後衛部隊が魔族の生命を刈り取っていく。
これが多数の戦場を渡り歩き、確かな戦果を挙げてきた、ワイルレッド率いる【金剛傭兵団】の基本戦術にして必勝法である。
「金剛傭兵団が間に合ったか…。よしっ!今のうちに負傷者を中に運べ!戦える者は傭兵団が捌き切れない魔族を抑えろ!」
騎士団の中で筆頭と思わしき騎士が周囲に命令を出す。だが、騎士の中には傭兵と共に戦うことに難色を示す者が見受けられた。
「傭兵という職業に思うところのある者もいるだろう!だがっ!これは祖国の、延いては人類の存亡を賭けた戦いである!彼らもまた、供に人々を守る同朋である!騎士団よ!愛するものを守る戦士達よ!…戦えぇっ!!」
筆頭騎士が檄を飛ばし、剣を掲げ自ら先頭に立ち突撃する。騎士が、戦士達が、雄叫びを挙げ再度魔族との戦いに身を投じる。
傭兵団の中にも騎士という人種を苦手とする者達がいたが、今だけはこの高揚に身を任せるとばかりにさらに発奮していく。
「いやー、楽しくなってきたっすね!」
「お前はもう少し緊張感を持て。」
キースが手にした双剣を振るい縦横無尽に暴れながら興奮したように笑う。ワイルレッドはそんなキースに呆れながらも的確に攻撃を弾き、逸らし、いなしていく。
戦況は徐々に、しかし確実に人間側が優勢になっていた。
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金剛傭兵団が戦場に現れてからしばらく、魔族側は大きく数を減らし、攻めかかってきていた集団は壊滅し敗走していた。このまま逃げる敵を追撃するべきという意見もあったが、筆頭騎士とワイルレッドが協議の結果、追撃案を取り下げていた。遠方にはまだ無傷の魔族軍がおり、高い知性を持つ魔人が多く確認されているため、逆撃を受ける可能性を懸念したのだ。
遠方の魔族軍が進軍してくるまでの間、騎士団と金剛傭兵団とで今後の事に対する話し合いの場が設けられていた。
「先ずは救援に感謝を。私はピステル王国騎士団、筆頭騎士のガーイルという。平民出身なのでな、一応家名はあるがそのままガーイルと呼んでくれ。」
「よろしくガーイル。知っていると思うが、俺は金剛傭兵団の団長をやっているワイルレッドだ。こっちは副団長のトゥリア、こいつが前衛指揮官のキースだ。」
「副団長兼後方指揮官のトゥリアと申します。」
「キースっす!よろしくっす〜!…いてっ?!」
キースの砕けた挨拶にガーイルの背後にいる騎士達が僅かに眉をしかめ、トゥリアがキースの後頭部を叩く。ガーイルはその様子に苦笑を浮かべながら話を進める。
「今は瀬戸際の状況だ。特に形式などを気にする必要はないから楽にしてくれ。私も堅苦しいのは苦手なのでな。」
今度は背後の騎士達が苦笑とも呆れともつかぬ表情を浮かべる。
「感謝する。キースだけでなく俺も含めてうちの連中はそういったものが苦手でな。で、だ。敵さんの主力っぽい連中が向かって来ているがどうする?ここで迎え撃つのか?」
「無論だ。我らは国を護る盾にして剣。なにより今から場所を移そうにも民の避難が終わらんし、我らを信じて下さっている陛下の期待を裏切ることになる。」
「王族が残っているのか?」
「すでに王太子殿下と王女殿下は国を脱出している。国王陛下と王妃様は民を置いて逃げる訳にはいかぬと仰られている。」
「それはまた…。この国は良き王を持てていたのだな。」
「そうっすね〜。正直驚きっす。とっくに逃げてると思ってたっすよ。高貴なる者の義務がなんちゃら〜とか言って…っいてぇ?!」
またまたキースの頭をトゥリアが叩く。
「まぁ、貴族連中は大半が逃げ出している。残っているのは真に陛下に忠誠を誓っていた一部の貴族達だけだ。逃げた貴族達の財貨を押収して君達への報酬に当てているのさ。」
「なるほどな。国王陛下が残っているんじゃ連中を首都に踏み入らせる訳にはいかないか。」
「すまんな。君達には無理を頼むことになる。」
「なぁに、劣勢の状況なんざよくあることさ。要は押し寄せる敵を片っ端から片付けていけばいい話だ。その代わり報酬は弾んでもらうぜ?」
「微力ながら力を尽くさせていただきます。」
「ひゃっはー!俺の双剣は血に飢えてるっすよー!」
ワイルレッド、トゥリア、キースが戦う意思を示せばあちこちで傭兵団の団員が雄叫びを挙げる。
「すまない、ありがとう。」
ガーイルがそう言い、背後の騎士達共々頭を下げる。
「気にすんな。こっちは報酬目当てでやってることだからよ!」
「あ、団長照れてるっすね〜。男の照れ隠しは気持ち悪いっすよ〜…あいたっ?!」
三度頭を叩かれるキース。
「さて、バカは放っておいて…どうする?こっちは騎士団と連携なんざしたことねぇから自由に動いて構わないか?」
「構わない。先の戦闘のようにワイルレッド殿が敵を引きつけ他のもの達が切り込んでいくのだろう?」
「おう、それがうちの戦闘方針だからな!」
「ならば君達に攻勢を任せ、我らは援護と戦線の維持に力を当てよう。我々ピステル騎士団は攻勢よりも守勢が得意分野であることだしな。」
「了解だ。連中が近づく前に始めるか?」
「ふむ。敵を近づけるのは危険だが防壁の上の遠距離部隊が一方的に攻撃できるのは大きい。せめて射程内に引き込んでからにしたい。そちらの後衛部隊も防壁に上げるか?」
「いや、うちの後衛連中はトゥリアの指揮の下、結構動き回るからな。敵陣に入り込んでいく俺たちを援護するためにも、自由に動けるほうがいい。」
「そうか。ならあとはーーー」
そうして騎士団と傭兵団は話し合いを続けていく。時間が余りないことから細かい部分までは手が回らないが、可能な限り詰めていく。
全ては護るべきものを護るためにーー
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●ピステル王国 首都近郊
魔族軍内部
「次ノ報告ヲセヨ。」
「は、はいっ…!」
ここは、現在ピステル王国に侵攻している魔族軍内部。基本的に魔人も魔獣も野晒しで身体を休めているが、一定以上の実力者は天幕を使うことが許されている。その魔族軍内で、最も巨大で最も華美な装飾が施された天幕。その内部では幾人かの魔人が己の上位者たる存在に報告を行なっていた。
「ぜ、前線に送り出していた軍勢が、ほ、ほぼ全滅したそうです…!!」
「なんだと?!」
その報告を聞いていた周囲の魔人達は驚きを隠せない。
確かに、時折世界には絶対強者とも呼ぶべき存在が現れる。しかし、その数は全体と比べるとあまりに少ない。このような小国にそのような存在がいるとは思えなかった。ピステル王国に侵攻を始めてから苦戦は一切なく、各地の戦力を潰し回ったために、もはやこの国にはこちらに対抗できるだけの力はないと思っていたのだ。
「ソレデ…?」
「は、はい。どうやら人間側に援軍があったようでして、僅かな生き残りも殆ど散り散りになってしまったようでございます…!」
「援軍…?まさか英雄クラスの人間が…?!」
「むぅ、よろしくありませんな。英雄クラスと正面からぶつかれば被害が大きくなる。」
「いかがなさいますか、ウーティラ様?」
ウーティラと呼ばれた魔人。上半身は黒い肌に覆われた筋肉の塊といった印象。腕輪などの装飾品は着けているが、鎧や服の類いは身につけていない。下半身は服と簡素な防具を身につけている。腕と脚は一般男性の横幅と同程度には太い。なによりその身長は椅子に座った状態でも他の魔人の倍近くある。立ち上がれば倍を超え、三倍近い。
魔獣は種族・個体毎に大きさは千差万別だが、魔人は人間とそう変わらない。つまり、このウーティラという魔人は、一般男性の三倍近い巨躯を誇るのだ。
そして、最大の特徴がその頭部。人のものとは大きく違い、獰猛な牛のものとなっている。牛魔人、そう呼ばれる存在だった。
「生キ残リガイルノカ?」
「は…?」
「逃ゲ帰ッタ者タチがイルノカ?」
「は、はい。何分殆どが討たれ生き残った者たちもバラバラに逃げ出したようでして…。ここまで帰還出来た者は僅かになります。」
「ソウカ…。…グラァッ!!」
ウーティラは側に立てかけてあった巨大な石造りの棍棒を持つと、報告していた魔人の頭上に振り上げそのまま叩き潰す。
呆けた顔をしていたその魔人は、自身の生の結末を理解する間も無く肉塊となる。事態を理解していなかった周囲の魔人たちも、飛び散った血や破片が身体に付着することでようやく何が起きたかを理解する。
「………?!!」
「ウ、ウーティラ様、何を…?!」
「…………。」
周囲で慌て、呆然とする魔人たちと、慌てる事なくウーティラの言葉を待つ魔人たち。
前者はウーティラの軍に入ってから日が浅い者たちで、後者は昔からウーティラの下に居た者たちだ。つまり、ウーティラの軍ではよくある事ということだ。
「俺ノ軍ニ弱者ハイランッ!!人間如キカラ逃ゲ出ス輩ハ裏切リ者ダ!!」
「………っ!!!!」
「さ、先程の者は、に、逃げてきた者ではないようですが…?」
「逃げ出してきた者たちを報告に来る前に片付けておくのは当然のことです。その程度の事も出来ていないのですからウーティラ様に潰されるの仕方がない事かと。」
「…!!」
ウーティラの横に控えていた副官と思わしき魔人がそう言い、周囲の魔人たちが息を呑む。
「では、俺が裏切り者共を片付けて来ます。すでに逃げた者たちに関しては、見つけ次第殺すよう通達しましょう。」
そう言って古参の魔人の一人が天幕を出て行く。少しすると先程出て行った魔人が呼んだのか、数人の魔人が天幕に入り、散らばった肉片を片付けていく。
「そ、そういえば、私の報告がまだでした!!大陸北方に侵攻を進めているラスギア様の軍勢がまた1つ小国を落としたそうで…「ガァァッ!!」…っ??!!」
空気を変えようとしたのか、急ぐように報告を始めた魔人が全てを言い終える前に肉塊に変わる。
「………。」
古参の魔族たちはその様子を呆れたように見つめる。
魔族軍はいくつかの軍勢に分かれて大陸を侵攻しているが、各軍勢のトップ同士は決して良好な関係ではない。特にウーティラはその短慮で過激な性格から疎まれる事が多く、ウーティラ自身も同格の者たちの中で己こそがトップであるという自負があるため、仲が非常に悪い。
その同格に位置するラスギアという魔人が功績を立てた、などという報告は火に油を注ぐようなもの。肉塊に転職するのも仕方無しと言えるだろう。
「イラツク…ッ!人間共ガァ!ラスギア程度ニ敗レル
存在ノクセニ、俺ノ道ヲ阻ムナド…!!」
「では、全軍を持って侵攻を再開しましょう。何者もウーティラ様を阻むことなど出来ないことを知らしめるために。」
ウーティラが吼え、副官が発言する。
「し、しかし、人間側の援軍とやらは危険では………ひぃっ?!」
否定的な発言をしようとした魔人をウーティラが睨むと悲鳴を挙げて口を噤む。
「全軍ニ告ゲル!俺ノ道ヲ阻ム愚カナ人間共ヲ根絶ヤシニシロ!!」
こうしてウーティラ軍は侵攻を再開する。ピステル王国の存亡を賭けた戦いはこれから佳境を迎えるーー
お読みいただきありがとうございました。
プロローグ2はなるべく早く投稿します。




