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武祁の悪鬼

小一時間は歩いただろうか。鬱蒼(うっそう)とした植物の葉を払いながら歩き続けていたその時、突如開けた場所にでた。そしてそこには通常の3倍はあろうとする巨大なイノシシが座ってこちらに目を向けた。瞳は深淵を覗くかのごとく赤く背中には苔が生えそこからさらにシダ類に似た植物が生えている。

「あなたがここら辺一帯の山のヌシの武祁(ぶけ)ですか」

〔お前は何者だ〕

と口を全く開けることなく低い男の声に似た声で返答した。

「私は大学寮陰陽道博士土御門冬嗣です。こちらは学生のアリアさん」

〔大学寮だと〕

といきなり山のヌシたるイノシシが立ち上がり

〔直ちにこの場から立ち去れ、さもなくば殺す〕

怒声の効いた声を上げ警告をした。

「我々は村で起きている不毛となった土地の原因究明のために来たのです。何か知っていることがあれば教えてほしいのですが」

と質問したところでアリアが叫んだ。

「先生、周囲を囲まれていマス!」

周辺を取り囲んでいるのは悪鬼である。黒く人の(かたち)をなした影のような鬼である。

「アリアさん躰固神法の用意をしてくだい」

と冬嗣はアリアに戦いのために躰固神法(たいごしんぽう)を使うことを命じた。アリアが今のところ唯一憑依させることのできるのは、武神たる武甕槌神(タケミカヅチ)だけである。アリアは冬嗣の命に応じて直ちに呼霊符(よびれいふ)を体に貼り呪法を唱え始めた。


【急急如律令 我アリアが命ずる。これ成るは天上天下に座して無双の力を持ち恕の心で治めし武神 武甕槌神 我と一体となりて戦え】


アリアの体の周りを半透明の赤い膜の様なものが覆い五芒星が空中に表示された。そしてその五芒星から神殺しの剣である神度剣(かむどのつるぎ)が召喚された。

冬嗣もアリアに同調するように落ちていた枝木に呪法を唱え付喪神を降臨させ呪符を貼った。枝木は元の姿からは想像することが出来ないような変容を始めた。五芒星が表示され枝木の先端から冬嗣が持つ手に移動し始め五芒星の真ん中を通ったところは不動明王が持つ降魔剣である倶利伽羅剣(くりからのつるぎ)へと変容した。

悪鬼は六体いるが今のアリアの武甕槌神の力と冬嗣の倶利伽羅剣を持って戦えば二人ではあるが勝てる見込みがある数であると思われる。


アリアがまず動いた素早く駆けるように走り出し姿勢を低くして悪鬼に神度剣を振り上げた。悪鬼は不意を突かれ真っ二つになり直ちに影は霧のように霧散して消滅した。アリアはその勢いで左の方に走り抜けもう一体も仕留めにかかるが悪鬼の持つ体と同じような影の剣でアリアの斬撃を受け止め対峙した。一方の冬嗣は躰固神法を使えないが幼少の頃から古武道から忍道、剣道など剣術に関することならあらゆる分野を問わず稽古に勤しみその腕前は師範として十分に足りるほどでありその上さらに倶利伽羅剣を駆使することでその力は倍以上に跳ね上がる。そしてアリアに続くとばかりに冬嗣もアリアとは反対にいる悪鬼に戦いを挑み駆けだした。冬嗣は忍道で鍛えた足さばきを駆使し3体の悪鬼を一挙に相手して翻弄させる。悪鬼の一体が冬嗣の揺動に翻弄され動きが鈍った瞬間、後ろから倶利伽羅剣を振り下ろした。悪鬼はアリアの倒した悪鬼同様に霧のように霧散していく。冬嗣は残った二体を相手に正面からの斬り合いの形で挑み方を変えた。倶利伽羅剣を悪鬼の剣と重なり合わせ、隙をついて蹴りを入れよろめいた悪鬼を切り捨てた。残り一体となり冬嗣はアリアの方に視線を向けた。アリアは二体目の斬撃を防いだ悪鬼と未だ対峙した状態にある。もう一体の悪鬼が距離をとりながら隙を突いてアリアの背中に斬撃を与えるが武甕槌神の赤い衣を纏っているおかげで直接的なダメージはないが精神的にはかなり削られていることは一目瞭然である。冬嗣は一刻も早く目の前の悪鬼を倒さねばと思い、動いた。冬嗣は捨て身で悪鬼の剣を左手で掴み右手で悪鬼の横腹から切り捨てた。左手からは鮮血が滴り落ちているが今はまだ痛みを感じるには早いと思い直ぐにアリアの方に駆けだした。冬嗣はアリアの背中に斬撃を入れている悪鬼に向かって全力で駆けその勢いのまま横殴りに真っ二つにした。残るはアリアの一体となった。冬嗣とアリアは目で確認しあって冬嗣の忍道の足さばきで敵の背後をとり一気に切り捨てた。

アリアは戦いが終わりあたりを見渡すが、

「山のヌシ武祁がいないデス」

「さすがに時間を取られましたからしかたないですね。ただ大学寮と言う言葉になにか憤るものがある点は謎ですが、ここは一端都下村(とかむら)頴亭(すぐるてい)に戻って休むこととしましょう」


冬嗣とアリアは悪鬼との戦いで傷ついた体を治癒用の霊符で癒しながら透真の作ったおにぎりを食べながら下山し頴亭に帰路した。


悪鬼‐浮浪な悪霊と違い術者の操り人形で形態は一様でない

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