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問い

「先生、まだ歩くんですカ」

と力ない声を上げて不満を言いながらアリアが語り掛けてくる。

「あと少しですから頑張ってください。もうすぐ見えてくるはずです」

と冬嗣が返事を返す。

冬嗣とアリアは果てしない獣道のような地肌が腐葉土との境目を微かにする山道を歩き進めている。一様服装はシャツとジーパンと動き易く活動的な洋服を着ている。背中には二人ともリュックサックを背負っている。

一般人は今だ和服が主流で洋服は100年前にキリスト教の宣教師によって持ち込まれたものの日本人の肌に合わず全く普及していない。大学寮でも制服の意味のある狩衣(かりぬい)を着ているものが大半だが冬嗣は洋服を着ている。その最たる理由として眼鏡を掛けていることをあげるが基本理解されない。ただ最近はアリアのおかげで異文化を理解するためと言う言い訳が新たに追加された。


今回目指す都下村(とかむら)はここ数十年急激に作物の育たない不毛な土地となり、村人たちからの悲痛な嘆願が国に寄せられたことを受けその原因究明に向けた調査を冬嗣が請け負ったことに始まる。

「やっと見えてきましたよアリアさん」

「これで休めますネ」

「何を言っているんですか。着いてからが本番ですよ」

続けて

「でも、確かに私も歩き疲れました。村に一泊して次の日から本格的な調査を開始しましょう」

「ヤッターです」

と何故か元気ハツラツな返事をアリアはする。


村に入り冬嗣とアリアはあたりを見渡すが木造平屋建ての山村の村そのものであるが誰が見ても活気が感じられない場所だと答えが返ってきそうなぐらいで息苦しさを思わせるには十分な不毛な土地であると二人は感じた。畑に近づいて植物を観察してみる二人だが太陽にしっかりとあたっているのかと疑いたくなるような成長具合で村民が必死で嘆願してくることが当然である状態にあると理解して村の中を歩いて行く。


冬嗣とアリアは村唯一の宿屋頴亭(すぐるてい)に泊まることとなった。頴亭は一階に囲炉裏場があり二階に宿泊の部屋がある典型的な村宿屋である。

「先生、明日何から調査をするんですカ?」

とアリアが冬嗣から見て囲炉裏を挟んで斜め左り横に座って話しかけてくる。

「そうですね。まずこの土地を管理している山のヌシに会うことを考えています」

「ヤマノヌシ?」

「山のヌシとは土地神とも別名で呼ばれ各土地を支配し守っている者のことを言います。一般的にはイノシシやシカ、カメなどの動物が高天原の首座である天照大御神によって任命されおおよそ300年間ヌシの務めを果たすとされています」

「じゃあ、ここのヌシは誰ですカ?」

「大学寮中央図書館に所蔵されている『藩神種自動主祷はんしんしゅじどうしゅず』と呼ばれる日本全国に居る山や川、海のヌシの名と種族の一覧が書かれた書籍があるのですが、それによるとここのヌシは種はイノシシで名を武祁(ぶけ)と言うそうです。」

「そのなんらたしゅずは誰がしらべたんですカ?」

「誰も調べていませんよ。この書籍は安倍晴明の師匠とされる賀茂忠行(かものただゆき)によって作られ、ヌシが代替わりするたびに自動的に更新されるようになっているもので、どういった仕組みなのか今となっては分かりませんが一説ではヌシの力とされる神の啓示を直接受信できる能力が『藩神種自動主祷はんしんしゅじどうしゅず』にもあると考えられていますが、私にはわかりません」


「なんだか難しい話しをしていらっしゃりますね」

と頴亭の女将である老婆が御盆に湯飲みを持って話しかけてきた。

「この村の調査の件で話していただけですよ」

と穏やかに冬嗣は返答した。

「そうでしたか、国の学者さまがやっと来ていただけたことは有り難いことです」

女将は湯飲みを冬嗣とアリアの前に置きながら続けた。

「明日から調査をなされるとのことで知りたいことがある場合は何なりとお申し出ください。私ごときの答えられる範囲でお答えしたいと思います」

「有難うごさいます。ではそうですね、この村で起きた事件で現在の作物が育ちにくい原因に繋がっていそうなことがあれば教えていただきたいです」

「そうですね~」

と少し考えるような素振りを女将は見せ言葉を続けた。

「この村の不思議と言いましょうか、この村では十数年に一度濃い霧が村全体を覆いその霧のあと厄災が起こるのですが、最近ですと20年前の霧の後村で疫病が流行りまして村人のほとんどが患ってしまいましたが大学寮の医学道の医師さまがたまたま隣村においでになられていて村長がすぐに呼んで、来ていただき治療してもらいまして亡くなったものも数人でそれ程大事には至らなかったのですが、村の森にその疫病に罹って死んだと思われる動物の死骸が大量に転がっておりその後始末が大変でしたね。疫病に罹って死んだわけですから食べるわけにもいかず全て土に埋める作業があったわけですから当時は大変でした」

「不思議ですね。数十年に一度濃い霧が村を覆うわけですか、それに疫病の件も初めて聞きましたし、一度大学寮の図書館に確認をとる必要がありそうですね。すみませんがこの近くに神社はありますでしょうか?」


藩神種自動主祷はんしんしゅじどうしゅず』‐日本全国のヌシの名を記した書



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