さすらう7
テンプレ
短めに切りそろえた金髪に他者を見下すような酷薄さを称えた青い瞳。肩当てのある白銀の鎧に背中に背負った華美な大剣は見るからに高価だ。そんな十五、六ぐらいの少年を抜けつつある男の子がパーティーを率いていた。
豪華なのは装備だけではなく、率いているパーティーメンバーも華やかだった。
背中に流した黒い髪に青い瞳の黒いローブ姿の少女。物憂げな様子で周りを探るように見回している。
尖った耳に震える程の美貌を持つ少女は、左胸だけをカバーするような胸当てに矢筒を背負い無表情に瞳を閉じている。
長身で褐色の肌を持つ引き締まった体つきの美女は、くすんだ茶色い髪をショートカットに同じく茶色い瞳に戦意を宿らせている。装備は露出の多い鎧とショートソード。
長い髪で片目を隠している肉感的な美女は、肌を露出しない僧侶服っぽいのを着ているが、後付けされたとわかる脇と腰の部分のスリットで台無しである。言い訳のように首から下げるネックレスにタリスマンを掲げているが胸の谷間に消えている。
人波が割れる。
といっても一斉に引いたわけではなく。道を譲る気がないのか、入ってきたパーティーが横柄に歩くので近づかれた冒険者が引いていってるだけだ。
ここの冒険者はほんとに行儀がいい。
仕事の内容に接客が含まれる依頼が多いので、他者への配慮が行き届いている。
喧嘩もしない。揉め事も起こさない。用もないのに依頼板の前でグダついたりしない。
すげえよ。日本なら引く手数多だよ。規律の高いアルバイター集団だよ。
しかし入ってきた連中は毛色が違って見える。第一ここの冒険者であんな豪勢な装備をしている奴は見たことない。
ピンときた。あれが上級、もしくはその上の冒険者だな?
ガタッと立ち上がる俺に嫌そうな顔でハンスキンが止めてくる。
「おい離せ」
「いや、確実に碌でもないことになりそうだったんでな……」
「おい離せ三行半」
「ちっ!? ちっっげえええしぃ!? むしろ幸せの絶頂だわ! ……そう、試練…………これは試練だ! この試練を乗り越えたらきっとアイツも帰ってくる、帰ってくる……はず」
出ていかれたの?
どんよりと暗くなってしまった三行ハンスキンを置いて、俺はパーティーに近寄ることにした。
揉み手で。
そう社会に踏み出した俺は何よりコネが重要な事を知っている。コネって言い方が悪いのだ。コネクションって言えば知恵者っぽい響き。
ここで上級冒険者パーティーに覚えめでたくなれば俺も甘い汁を吸えるかもしれない。その為ならリアルハーレム咬ましている坊ちゃんにもゴマを擦れる。靴は舐めれない。そこまで捨てられない。
俺の事など瞳に入っていない先頭の坊主は、依頼板でなく受付の方に歩いていく。
そこに揉み手ですり寄ろうとするホームレス。
どういう出だしでいくかな。参考文献によれば『へっへっへ、ダンナダンナ?』がスタンダードだ。気のせいかエルフっぽい美少女がうっすらと目蓋を持ち上げて警戒している気がする。瞳の色が金色。
きっと気のせいだな。
構わず近寄る俺に、エルフっ娘の手が微妙に矢筒に寄ってるように見える。
きっと気のせいだな。
しかし先に受付にたどり着いてしまったのでゴマすりは受付の後にしよう。決してビビったわけではない。
今日も笑顔が可愛い受付嬢が金髪坊主に話し掛ける。
「冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「冒険者登録がしたい」
「新人かい!」
がっかり、がっかりだよ! 返せよ俺の将来設計!
形から入るタイプなのだろう。とりあえず装備は最高にしました的な?
俺のツッコミにようやく近づかれていた事を悟った金髪坊主が不快そうに顔を歪める。他のパーティーメンバーも坊主の敵は私達の敵だとばかりに敵意を持って睨んでくる。
…………はっ。この状況は…………。
……う……そ、だろ……?
愕然としつつも事態が止まることはなく、むしろ予定調和へと向けて進んでいく。
ふぅ、と息を吐いた金髪坊主は目立ちたくないんだがとばかりに首を振って、さも絡まれてますと面倒臭そうに答えてきた。
「新人だったら、なにか問題でもあるのか?」
「ああ、すまん。とても向いてるようには見えなかったんで」
売り子は丁寧な接客が重要なんだよ? 子守は忍耐が必要なんだよ?
懇々と愚痴りたいが、この流れに身を任せていたら危険だ。俺は分かってる。皆分かってる。大気に満ちるこの粒子の流れ…………ヤバい。
じゃあの、と手を上げて撤退しようとしたタイミングで、ハッと鼻を鳴らした金髪坊主が俺の格好を上から下まで眺めて嘲笑う。
「少なくとも、あんたよりは適性があると思うが?」
んな馬鹿な。
「んな馬鹿な」
……はっ、つい口をついてしまった!? これがお約束への運命力とでも言うのか! 抗えない、まさに神のごとき力だ……!
しかしこいつに赤ん坊の糞の処理が出来るとは思えなかった、思えなかったんだよお!
迫りくる運命に俺がゴクリと喉を鳴らしているのに、金髪坊主はどこか得意気に言ってくる。
「試してみるか?」
「いえ結構」
右手を上げて拒否の姿勢。ここはハッキリ言っておかねば。あわや大惨事だよ。
展開を見守って静かにしていた周りの冒険者連中は安堵の息を漏らす。どこまでも行儀のいい連中め。
「……おい。侮辱するだけしておいて、その態度はなんだ?」
しかしそんな空気もなんのその、金髪坊主は顔をしかめて近づいてくる。おい止めろ近づくな落ち着け大声出すぞ。
その態度はなんだ……って言われても。侮辱……した? 全然記憶にないよ。
互いに手が届く範囲までくると、金髪坊主は足を止めて告げる。
「今度からは、相手をよく見て物を言うんだな」
「全くだ」
次からは歴戦の戦士風なパーティーにゴマするわ。
「っ、おい!」
ハンスキンの声が後ろから掛かる。ガタンと椅子を蹴たてて立ち上がった音も同時に届いた。
しかし俺が振り返る前に、金髪坊主の右手に嵌めた小手が白い閃光を放った。
「≪プロシェット≫」
そう金髪坊主が呟いた言葉が終わるか終わらないかという内に、俺の視界は激しく動き出した。
脳髄を走り抜けるような痛みと、手足がなくなったかのようなフワフワした感触。頭頂部を激しく擦られ、意識より先に追いつかなくなった視界がブラックアウトし、ほんの一瞬の内にボギッという骨が折れる鈍い音がどこかから聞こえてくると、残っていた意識もどこかへと飛んでいった。
但し絡む方