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さすらう6



「ないんかい!」


「な、なんだ? どうした?」


 ギルド併設の酒場。


 その一角にあるテーブルに、俺は握っていたコップを叩きつけた。隣りに座るは先輩冒険者ハンスキン。あれから一週間が経ち、偶々ギルドの依頼板で会ったので近況を聞きたいとのこと。


 だから、不満をぶちまけることにした。


 その第一声である。


「落ち着けや、もう酔っ払ったのか?」


「水ですが?」


 ハンスキンの問い掛けに首をクリンと傾ける。こちとら金欠で食事は日に二回。宿には泊まれない日が多いのに、昼間っから酒が飲めるわけがない。


 ハンスキンが気まずそうに、たった今運ばれてきたツマミの入った皿をこっちに押しやってくる。


「……やるよ」


「え、神? あざまっす!」


 良い人ハンスキンに貰ったツマミにがっつく。何らかの唐揚げだ。鳥っぽい。


「そんで? 何がねえんだ?」


「ほごのせあみは、あにもはひ!」


「……食ってからでいいぞ」


 そう。無い。


 この世界は色々足りない。


 まずギルドにランク付け的なのがない。よくあるAやらSやらのランクがなく、代わりに下級、中級、上級で区分けされている。


 ランクあるじゃんと思わせるかも知れないが、実際には無い。依頼板にある依頼は冒険者なら誰でも受けられる。それこそルーキーがドラゴン退治でも貴重品の採掘でもなんでも受けられる。危険度とかも書かれていないので、己の力量にあってるかどうかは自己判断。


 じゃあどうやって下級やらのランク分けをするのかというと、依頼達成毎に昇格点のような物があり、一定水準まで達したら上の級に上がれるとのこと。依頼にランクがないのに上の級に上がって意味があるのかと聞いたところ、ギルドで受けられるサービスや信用度に差が出来るらしい。依頼を失敗した時には昇格点が引かれ、余りに溜まり過ぎると降格するとのこと。要は自動車免許に近い感覚。


 それでも実力のある新人冒険者は高難易度の依頼をささっとこなして、あっさり上級になるとか。ゴールド免許ですね。


 受付嬢の説明にいまいち納得がいかなかったが、他にも聞きたいことがあったので流した。


 冒険者カードは、ほんとに免許証に似ていて、写真のような物まで貼られている。無駄に技術力高いな。


 冒険者カードを弄りながら、受付嬢と交わした会話が以下の事。


「……どうやってステータス見るの」


「……すてえたす、ですか?」


 ステータスとか無いらしい。


「レベルとか表示されてないぞ」


「れべる、ですか?」


 レベルとか無いらしい。


「……スキル、とか……」


「ああ、スキルですか! スキルは本人様しか見れないようになってまして、え? よろしいんですか? えーでは失礼して、ここに親指をつけて貰ってですね……」


 スキルあるってよ!


「……えーと、私が見る限りは、スキル欄には何も書かれていませんね……」


 俺にスキルは無いらしい。


 チートもスキルもステータスもレベルも装備もジョブも力も速さもない! そしてなにより俺には愛がなああああああああああああああああい!


 ハーレムはどうした!? 奴隷制度はどこだ!? あんの声の奴めぇええええええええ!


 気が狂わんばかりの状況だったが、順応するんだから人間って偉大。つまり俺様はえろい。


 兎にも角にも金が必要だったので、冒険者登録して直ぐに売り子のバイトをやった。戦闘力皆無な人でもできます。


 日給三千九百円。


 宿屋に泊まるには五千円ばかり必要らしく、仕方ないから野宿。公園っぽいところで寝た。


 ちなみに貨幣は紙幣ありだった。日本円じゃないけど千円札っぽいのを貰った。銅貨が百円、賤貨が十円らしい。あまり日本と変わらない。


 科学技術の代わりに魔法技術というのが発展しているらしく、街頭やコンロなんかも見かける。電力の代わりに魔力で動くそうです。


 そんなこんなで日銭を稼ぐ日々が続いた。ラノベ知識で馬小屋を借りれるのではと思ったが、普通に拒否された。イタズラされたら困るとかなんとか。


 ベビーシッターに子守、配管の掃除から庭の草むしりまで手広くやった。


 なかなか安定して定期的に出来る依頼がなかったので仕事は多岐に渡ったが、なーに、俺だってただアルバイターをやっていたわけじゃないよフフフフ。


 そう! こうやって安全で確実に依頼をこなして昇格点を稼いなああああああああああああああい! ないよ! 自分誤魔化すのも限界です! ほんとサーセン生きるのに精一杯ぱいでした! カッコワルいバガボンドだよ! バカボンドだよ!


 この世界……と断定するには早いが、この街の生活水準はやや高い。


 現代並みとまではいかないが、中世はとっくにブッチぎっている。仕事もあぶれた奴はギルドで登録して日銭を稼げるシステム。便利な魔法技術。安全な街中。


 しかしファンタジー感は――


「まるでないよぉおおおおおお!」


「お、落ち着けや! なんだ、なにがないんだ!?」


 はっ!? 勢い余ってハンスキンの胸ぐらをガクガクやってしまった。どちらかというと揺れていたのは俺だが。


 気を取り直してハンスキンから手を離す。再びタンパク質を取ろうとしたところで、気づいた。


「唐揚げが、ない!」


「食ってただろうが!」


 食べただけで無くなるなんて、なんて理不尽な世界なんだ! 俺から唐揚げまで奪おうというのか!?


「おのれ異世界……このままでは終わらん、終わらんよ!」


「落ち着けつってるだろうが! ギルドで暴れたら昇格点引かれんだぞ? おら、唐揚げならもう一皿奢ってやっから」


 え、神? やだデジャヴ。


 神人ハンスキンに頭を叩かれてようやく落ち着きを取り戻した。クール。


 唐揚げがくるまで今やっている依頼で昇格までどれぐらいか聞いたところ、雑用系の依頼では昇格ギリギリのポイントまでしか貯めれず、結局討伐系の依頼を受けなきゃいけないらしい。


「一生下級かあ……」


「いや討伐受けろよ……。中級は下級モンスター討伐十回ぐらいクリアしたらストレートに成れるぞ。雑用でギリギリまでポイント稼いだら一回で成れんじゃねーか?」


 嫌だよ。討伐って、あの鬼強い兎やら狼やらを相手にするんだよ? 遠回しなイジメかね?


「……これが新人潰し……!」


「なんでだよ! そりゃあ無手じゃ面倒かもしれんが、ナイフ一本でもあればラビは食肉にもなるし、ウルフは毛皮が別に売れるぞ」


「いや、ナイフ一本も持ってないんだが?」


「……お、おう。そうか」


 結局そこに行き着くよね。


 生来の状態で獣共に勝てないわたくしは、武器に頼るしかない。なにせレベルアップなどない世界なので、ステータス頼りのごり押しとかできない仕様。クソゲー。


 ちなみに、ドラゴンいるってよ。どうやって倒すんだよ……ミサイルとかあんのかよ……。


 ああ装備。装備がいるよ。つまり金がいる。あちらもこちらも資本主義。おい闇落ちしそうだよ。ダンジョンマスターやりたくなってきた罠。


 その後、ハンスキンに冒険者のいろはを説かれながら、どうやったら楽に稼げるかを聞いていると、ギルドの扉が開いて立派な装備を身に着けたパーティーが入ってきた。



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