葬送
黒を基調としたスーツが列を成す葬式。
少し離れた場所でアイツの両親が対応するのをぼんやりと眺めていた。
既に焼香を済ませ、後は帰るばかりなりといったところなのだが……なかなか離れ難い気持ちだ。
突然。本当に突然だ。
大学にも慣れてきて、高校よりも長い夏休みも終わりを迎えようとしていた昨今。飲み会を約束していた高校の頃からの連れに、アイツが死んだと告げられた。
就職を希望していた奴らと違って進学希望だったので、いつか袖を通す時は学業の終わりを意味するんだろうなと思っていた吊しのスーツを購入。慌ただしくもどこか嘘のように、葬式のマナー本を読んで一連の流れを頭に入れてから、県外就職で来れない奴らを除いてワラワラと集まった。
高校の卒業から半年。場違いにも再会を笑い合うなど、まだどこかで冗談のような空気が流れていた。
しかしそれもアイツの死体を見るまで。
眠っているみたいだった。
漫画なんかでよく見る感想は、まさに正しいのだと実感した。
詳しい死因は理解できなかった。説明は右から左に抜けていき、ふわふわした足取りで流れるままに葬式が終わってしまった。
先程まで近況を報告しあっていた連れも黙りこくってしまった。
死ぬ筈がない。
そんな想いがあった。そういう奴に思えなかった。考えたこともなかった。
火葬場に送られアイツはもうここにはいない。
しかし金縛りにあったように祭場を見続けていた。
涙が出るわけじゃない。
生活に支障が出るわけじゃない。
凄く半端な気持ち。
「……ノマノマに十九時だってよ」
「うん……」
缶コーヒーを飲みながら、アイツと一緒に飲む約束をしていた同じ大学の連れが告げてくる。この後集まるそうだ。
未消化のような、完全に燃焼してしまったような気持ちのままポツポツと会話を交わす。
「なんかさあ……」
「うん……」
「……フラっといなくなるよな、アイツ」
「……うん」
ほんとそうだ。
自由時間をフリーダムと取り違えるようなヤツだった。奇抜な行動に抜けた考え。いつも振り回されていたように感じる。それも終わってみると、ああ、らしいなと苦笑が浮かぶ日常だった。
思い返すと、自然と笑ってしまう。
悲しいわけじゃない。
涙は出ない。
凄く半端な気持ち。
ふと連れを見ると、同じ様な事を考えていたのか口元を抑えているところで目が合った。
「いや、だってよ?」
「あー、ねー」
「自習時間に校外に行くしさ」
「課外自習(実習)」
「マラソン大会じゃトップでトイレに駆け込むし」
「脱水症状」
「球技大会じゃクラス先導してボイコットしたし」
「雨天結構(決行)」
「そんで、……ふはっ」
「……ふっ」
思い出し笑いで爆笑しそうになり思わず手で口を抑える。
馬鹿だなぁ……ほんと、バカ。
深呼吸して笑いの発作を抑えている連れが、流石に場を考えたのか話題を変えてくる。
「……なんか見慣れねえな」
「スーツ? お互い様じゃあ……」
「いや、ずっとセーラーだったからさ。スカートばっかだったろ? 大学でも私服はスカートだし」
そういえばそうだ。いつもスカートだからパンツスーツは違和感がある。意外と動揺していたのかも。
「似合わない?」
「い、いや! いいと思う! うん、パンツスーツ、全然いい!」
「ありがと。…………アイツだったらなんて言ったかな?」
「……あー、『パンツとか入ってるから期待したわ』とか?」
「あはっ、いいそう」
しばらく笑いあっていたが、会話が途切れたのをキッカケに連れは先に行くと伝えてきた。
それを後で行くと見送ってから再び祭場を見続けた。
悲しいわけじゃない。
落ち込んでなんかない。
明日からも日々は続く。
でもそこにアイツはいない。
「………………あ…………」
溢れ出した感情を表すように止めどなく涙が溢れてきて、
あたしは泣いた。