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さすらう5



 ハンスキンとかいう親父の愚痴を聞き流しながらやってきた最初の街、スタット。


 街の周りを円形に外壁で囲っているので、上から見ると丸い形をしているらしい。細長い川が街の東から西に流れこんでいる。


 外と中とを繋ぐ門には門番が立っているが、ぶっちゃけ国の端に位置する上に商業的にも栄えている訳じゃないから暇らしい。簡単な質疑応答で通して貰えた。


「でな? 最近なんか俺がちょろっと出掛けて帰ってくるだけで『出る時は言っていくもんでしょ!』って怒ってよ。別に夜中に出てるわけじゃねえんだぜ? そのくせ早く帰っても予定と違うってよお……」


「浮気ですね」


「う、うわ……浮気? そ、そんな……」


「ハンスキンさん! そいつ適当言ってるだけっすよ! てめえもハンスキンさん家に波風立ててんじゃねえよ!」


 余りにしつこかったので、ハンスキンの肩に手をポンと置いて真実を告げてやった。


 一瞬で顔色を青に変えた信号機ハンスキンにアインとかいう金髪がしゃしゃってくる。


「関係ない奴は引っ込んでろ」


「てめえだよ!」


 フラフラと足取りがやばくなったハンスキンをバンが支える。


 酔っ払いだな。間違いない。


 ハンスキンと入れ替わるようにアインが文句を言ってくるが、異世界語は難しいな。よく分からないや。


「そんなことより」


「おいぃぃぃ!?」


 倦怠期の家庭事情とかどうでもいいんだよ。それよりあるだろ? ん? こういう異世界物ならテンプレのさ。


「冒険者ギルドってどこだ?」


「ちっ。なんだお前。……まあ、ギルドは俺達もいくから、ついてくるなら勝手にしろよ。ちょっ、ハンスキンさん、大丈夫ですって。今回の報酬で食事にでも連れて出してですね」


 苛立ちを含んだ視線でこちらを一睨みしたアインが、ハンスキンの下に駆け寄り肩を貸しながら激励している。


 了承を頂いたので後ろからついていくことに。


 街並みは、意外と普通。


 足下はコンクリートや石畳じゃないけど、キレイに均されているし、家の造りも石造りでボロ屋の雰囲気はない。川に掛かっている橋も土台を埋め込んでいるのか基盤工事もしっかりしているように見える。


 ……あれ、中世どうした? これで田舎?


 路地裏の飲んだくれは? スラム的な場所でボロを着た不吉な人物は? 打ち捨てられた死体とか、頬がこけた子供は?


 キョロキョロと辺りを見回してみたが、井戸端会議をするおばさん連中に、楽しそうに笑いながら追いかけっこをする子供達、威勢のいい呼び掛けを発する売り子と、治安の良さが透けて見える。


 もっとこう……魔王的な奴とかに攻められているとか、悪徳領主による悪政とかないの?


「おい金髪」


「……てめえマジで気をつけろ? 俺は別にボコボコにして路地裏に打ち捨ててもいいんだからな?」


 なんてデンジャーな奴なんだ。ちょっと話し掛けただけなのに。反抗期か。


「おい浮気相手」


「アイン、てめえ……」


「ち、ちがっ!? デタラメっすよ!? んなわけないじゃないですか! おっまえマジか!?」


 ユラリと体を起こすハンスキンに、肩を貸していたはずのアインがいつの間にか肩をロックされている。危機を察知したバンは距離を取った。ハンスキンは食いしばった歯の間からフシューと蒸気を吐き出し、アインは青い顔になりながら俺にがなりたてている。


 そんなアインに指を突きつける。


「今後発言には気をつけろよ……。俺は別にお前がボコボコにされて路地裏に転がろうが気にしないからな?」


「わ、わかった! わかったから誤解を解いてくれ! 殺されちまうよ!」


 胸ぐらを掴まれミンチ秒読みなアインに頷くと、誤解を解くべくハンスキンの肩にポンと手を置く。


 振り返ったハンスキンは夜叉のようだった。


「……ああ?」


「そいつが犯人です」


「おいぃぃぃ!?」


 いや、想像以上に怖かってん。勘弁な。


 騒ぎを聞きつけて駆け寄ってきた衛兵には内輪揉めですのでと説明しておいた。しばらくアインがいい声で鳴いていたのだが、声がしなくなった辺りでバンが止めていた。止めろよと怒られたがパーティー内の問題に部外者が口を出すべきじゃないと思う。そんな常識人な俺は木切れに『見せられないよ!』と日本語で書いて子供達の視線を塞いでいたので、表彰されこそすれ怒鳴られるのは横暴だと思う。ハンスキンけしかけるぞ?

















「うわっ!? どうしたんですかアインさん! ボロボロですよ? モンスターに遅れをとっちゃいましたか?」


 受付嬢がボロ雑巾を相手に驚きの声を上げている。


 適度にガス抜きが出来たところで、バンがボロ雑巾を背負いながらサッサと冒険者ギルドに行くと言いだした。俺は狂化ハンスキンに誤解だったようだと説明して魔法を解いてやった。


 素直にハンスキン達の後ろをついていき、街の中心にある冒険者ギルドにやってきた。


 街の中心部は噴水が備え付けられ、ちょっとした広場になっている。


 門から真っ直ぐ、ちょうど噴水を挟んだ正面にある三階建ての建物が冒険者ギルドだ。


 ここがアウトロー共の巣窟……!?


 と、雰囲気を出してみたが、中は病院の外来受付並みに大人しかった。お決まりのごとく酒場併設だったが、特に新人を品定めするような視線や絡みもなく、トラブルの因はなかった。ガッデム。


 しかし例に漏れず受付嬢が可愛かったので許そうと思う。


 金髪をショートボブにした十代半ばぐらいに見える美少女受付嬢だ。紺色の瞳に小動物的な雰囲気がグッドだ。分かってるな。スレンダーなボディだがそれはそれで需要がある。よく分かってるな。


 そんな受付嬢に依頼の報告をするついで俺の冒険者登録する宗を伝えてくれるらしい。バンとかいうスキンヘッドは疲れた感じで「……それでもう俺達には関わるな」とか言っていた。


 多分クールぶりたいのだろう。十四才か。


 まあこちらとしては願ったり叶ったりなので大人しく待機。バンが何でも無いと手を振り、ハンスキンが何やら報告を終わらせると、こちらを親指で差して二言三言言葉を交わすと、手招きされた。


 きたね。ついにきた。異世界に来たらやっておくことベスト四ぐらい入るイベントが。


 受付の前まで近寄るとハンスキンに頑張れよとばかりに肩を叩かれ、バンはそそくさと離れていく。


 受付嬢が眩しいぐらいの笑顔で話し掛けてくる。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。担当は私、リアスと申します。今日は登録とのことで、お名前からよろしいですか?」


「はい」


 ついに俺の冒険が始まる。



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