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さすらう4



「おら、それで大分マシんなったろ」


 茶髪マッチョの荷物から出てきた枯れ草で編んだ草履。それを俺は装備した。防御力1。どうにかしてくれた。


 ヤレヤレと疲れた表情を見せる茶髪マッチョ、もといハンスキンは肩を落としている。


「履き心地悪いな」


「お前いいかげんブッ飛ばすぞ」


 暴力だと? これだから文明の進んでいない未開の猿は困る。ガンジー知らないのガンジー? 生まれなかったのガンジー?


 ともあれ、こちらは礼節で知られる日本人だ。いまやツイートや動画のコメントで暴言を吐く種族だが、お辞儀の国生まれとしてはお礼の一つも言っておこう。あれ、日本未開?


「ありがとうございますハンスキンさん」


「おう。まあ、なんだ? 大したことねぇよ」


 マジか。


「ついでと言ってはなんですが、温かい食事と街までの護衛と当座の資金なんかも工面してください」


「おおい!?」


「……こいつ、新手の盗賊とかなんじゃ」


 訝しげに睨んでくるスキンヘッド。


 強制的に変な場所に放り込まれた俺が犯罪者な訳がない。長文タイトル。


 しかし誤解されたままでは世間体が悪い。警戒しているスキンヘッドに事情を話す。


「実は、気がついたらこの近くを歩いていて……帰りたくても帰れない状況にあるわけで……日本ってどっちにあるのか分かります?」


 まるまるうまうま。


「ニホン? 聞いたことねえ国だな。いや、村の名か?」


「適当こいてんじゃないっすか?」


 スキンヘッドに話し掛けているのに、ハンスキンと金髪が答える。スキンヘッドは注意深く俺を観察しているだけで、質問には答えてこない。


 スキンヘッドの警戒心に呆れたのか、この状況が面倒臭くなったのか、金髪が溜め息を吐き出しながら言う。


「乞食っすよ乞食。多分、モンスターか戦争かで焼け出された奴がウロウロしてたってだけっす。格好見りゃ分かりますって。命からがら逃げ出して来たってだけっす。ハンスさん、バンさん、もう帰りましょう?」


 金髪が自然にディスってくる。


 おいおい、運が良かったな? 俺の足の裏が負傷してなかったら、今頃は円還的な理に放り込んでるところだぜ?


「いや、でもよ? ここまで関わったんなら、街に連れてくぐれえなら構わんだろう。どうせ俺らも帰るとこだったしな」


 ポリポリと頬を掻きながら提案するハンスキン。人が良い。


 よくあることなのかどうなのか、バンと呼ばれたスキンヘッドと金髪は揃って『またか』と言わんばかりの溜め息を吐く。


「……ハンスキン」


「ハンスキンさん……」


「茶ゴリ……」


「おい!? なにシレっと加わってやがる! なんだよチャゴリって! お前にそんな残念そうな目で見られる覚えはねえぞ!?」


 良い人過ぎて心配。宗教の勧誘も新聞の勧誘も子供がしてたら断れなそう。大丈夫だろうか。


 そこで思いついた。光る電球。ナイスなアイデア。


 パチンと指を鳴らしたつもりが掠れた音しか出てこなかったが、一応は注目を集めれた。


「そっちの二人は俺をタダ(・・)で送るのに反対な訳だな。見たところ冒険者。護衛は仕事の内。代価を要求すると?」


「まあ、そうっすねー。金貰えりゃ文句ねえっす」


「……そうだが」


「おいアイン、バン!」


 バンは後ろめたいのか微妙に言葉を濁していたが、アインとかいう金髪は代価と聞いたら途端に態度を変えてきた。


 気にくわなかったのか、ハンスキンが窘めるように名前を呼ぶ。


「しかし俺は金を持ってない。そこでどうだろう? 同等の価値の情報と交換しよう」


 やるぜ知識チート。高卒なめんなよ。


 人差し指を上げてアルカイックスマイルを決め込む俺にビビるバンとアイン。そうだろうそうだろう。自信はあるよ。なんせ現代知識よ! 時代背景を考えるに巨額の富を得ると同意。


「前払いということで先にお教えしましょう」


「いや、なんか知らんがお前の飯のタネなんだろう? そんなん教えなくても送ってやるって」


「いやいや、そんな大した物じゃありませんよ。しかしハンスキンさんには重要なことかと」


「お、俺に?」


 興味なさげだったハンスキンが自分に関わることだと知ってやや動揺する。


 どうやら意見の一致をみたな。ここが勝負所。


 ジリジリと焦らすように十分な間をとって告げる。


「扉に足を強引にねじ込んでくる勧誘の断り方をお教えしましょう!」


 途端に青筋を浮かべるバンとアイン。バンは眉間を掴み、アインは口の端をヒクヒクさせている。


 その顔が見たかった。


 人を盗賊やら乞食やらとディスってくる金の亡者どもめっ! なんでもかんでも金金金金。かかってこい! 慰謝料むしり取ってやる!


 ファイテイングポーズでシャドーを始めた俺に対し、武器を握り出すバンとアイン。落ち着きたまえ。話し合おう。


 しかし青筋二人を遮るようにハンスキンが間に入る。その顔は真剣そのもの。ゴクリと唾を飲み込み告げてくる。


「……ほ、本当に……断れるのか?」


「「ハンスキン(さん)!」」


 お、おう。


 なんでも強引な契約を三件、寄付を六回と断りきれなかったと落ち込みながら話すハンスキン。おかげで「家にいるから断れないのよね? じゃあ家にいなきゃいいのよね?」と怒り心頭の奥さんに叩き出されたそうだ。


 初耳だったのか話を聞いていたバンとアインも微妙な表情を浮かべ「……だからツバメ亭に泊まってんすね」「……俺もおかしいとは思ってたが……」と喧嘩する空気を霧散させた。


 こうして、既婚者ハンスキンに強引な勧誘の断り方を教えるという条件で、街に連れて行って貰えた。


 すげーぜ知識チート。



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