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さすらう2



 なわきゃない。


 送るという言葉の頭に魔法的にがつく感じで瞬間移動された先は、岩壁際の森だった。布団はない。


 気がつくとターミネーターポーズで森。誘拐だな。


「おぉふ……」


 未だ世界が俺にドッキリを仕掛けている可能性が微レ存。


 森とかいいよ森とか。森とか草原とか山とか河原とか荒野とかお腹いっぱいだっつーの。


 たまにはインフラ完備の都市のド真ん中に落とせ。もしくはうっかり女湯に転送でラッキースケベを演出しろよ。そんぐらいのご褒美ならいいでしょう? 思春期天元突破してるんだから。年齢的に。


 とりあえずお約束をやっておこう。


「ふぅ、やれやれ」


 肩なんか竦めちゃったりして。


 …………。


 ……マジかー。この過酷な環境にどう対処すんべかなー、とか。今週末は高校の友達と飲み会の予定あったなー、とか。今日俺がシフト入らなきゃ店長キレそうだよなー、とか。そもそも全然親孝行してねぇなー、とか。


 考えること沢山あるけどね。それでも口から出るあれそれといったら一つだけでしょ。


「マジかー」


 答える声は無かった。










 とりあえず現状の把握って大事。


 流しててあんま説明聞いてなかったってのは置いといて。


「さてと」


 Tシャツに短パンという部屋着感全開の俺を森に放置するという所行。神は俺に何を求めているのか?


 ポツリと置かれた荷物袋が良心的。


 わかってるジャマイカ。そうそう、ファンタジーと言えば装備が大事。現代的三種の神器は財布鍵携帯だが、ファンタジー的三種の神器と言えば、剣と魔法とハーレムが定期。


 伝説的なチートを俺に……!


 希望を胸に、袋を開く。


 干し肉、黒パン、水袋、薬草? って使えねえ! 全然生き残らせる気がない!? なんだこの安定の初期装備。サバイバルやらせたいのか異世界転生やらせたいのかハッキリしろよ! どうせなら木の棒でも入れとけ!


 判明。俺氏、異世界でピンチ。


 ……しいてファンタジー感を出してるとしたら、この黒いビー玉ぐらいか。


 あのボイスオンリーな幻聴によると、これがダンジョンコアだそうで。洞窟やら壁やらどこかに固定することでダンジョンの作成が可能になるってさ。これで今日から君も世界の敵だ!


 ふざけろ。


 それ最終的にやられちゃうから。敵の敵にサクッとパティーンだから。


「どっこらしょ」


 摘んでいたコアを荷物袋に入れて肩に、俺は立ち上がり、森を抜けることにした。わざわざ岩壁際とかのダンジョンポイントに送って貰ったのに悪ぃけどさ。


 ワタシ、ダンマス、ヤラナイ。


 速攻で無双される未来を夢想したわ。あきらかに低学歴を踏み台にしようとする異世界事情に絶望だわ。


 とりあえず冒険者目指すわ。お約束だし。


 意外に穏やかな森を適当に進む。夜明けぐらいの時刻。人道を目指す。踏み外してる感あるけど。


 道無き道をガサガサと進んでいると、正面の茂みもガサガサ。


「なにやつっ!?」


 声出さないと少し怖いからね。


 出てきたのはフォレストウルフ的な少しデカい犬。


 RPG的な雑魚。最初の敵にエンカウント。


「ふっふっふっ」


 低く唸り声を上げるウルフに余裕の笑みなんか浮かべちゃうぜ。


 なるほどな。ここで早速レベルを上げちゃおうって展開ね。わかります。


 特技の指鳴らしを披露する俺に何か感じたのかビビるウルフ。バキバキってね。うへへ。


 しかしもう遅い!


 いい感じの角度でウルフに飛びかかる。


「ちねぇえええ!」


 ウルフは牙を剥き出しに吠えた。










「超いてぇ」


 パッチリ目を覚ますと夢じゃなかった。


 異世界だった。


「いちちち……いや痛くねぇな。って血だらけじゃねぇか!?」


 首からほとばしった血がベットリとTシャツを濡らしている。一撃で首を噛み砕かれた所までは覚えてる。そこまでが悪かった。いや全部悪かった。


「しかしほんとに死なないんだな」


 ボイスオンリーの人が言うにはダンマスはコアを砕かれない限り死なないらしいので、荷物袋に入っているコアが無事なのだろう。


 いや噛まれた瞬間とか超いてぇよ! 痛覚とか遮断しろよ!?


 首をさすりさすり。跡も残ってない様子。


 こんだけ血が出たのに貧血にならないとか、あのウルフどこいった? とか、死んだ後の死体って食い荒らされても戻んの? とか、疑問は色々あるけれど、それより大事なことがあるよね。


 目が覚めない、とか……。


「マジか。マジで異世界か。マジで異世界だ。夢にしては痛かったもんなー……。これで夢なら睡眠恐怖症になるわ」


 ケツについた砂を払い落としながら立ち上がる。


 どうやら俺はウルフより弱いらしい。これでダンマスやれとか、どう考えても初期の勇者の踏み台ですどうもありがとうございますファクっ!


「全然、全然悔しくなんかないっ!」


 そうだよ。あくまで初期だから。初期ステとか基本は雑魚といい勝負だから! 普通だから! むしろこっからが伝説がテンプレだからぁ!?


「くっそー……レベル上げたらこの森のウルフを刈り尽くしてやるからな! バリカンで!」


 再び荷物袋を背負い、やや荒い足取りでザッザッと森を歩く。


 とりあえず道だ! そんで街に行って冒険者で魔法がエゴイズム。奴隷で複数とハーレムがエロイズム。後者で。


「道道道ミチミチ、なんの効果音? あっ、あったぜあ!」


 ふと森の向こうに道を見つけた。


 そして再びガサり出す茂み。


「なにやつっ!?」


 誰何の声も二度目。しかし出てきたのは新種。庇護欲を誘うつぶらな瞳と雄々しくそそり立つ角がアンバランス。


 ホーンラビット。


 なんだよ。こっちか。こっちが本命か。


 今思えばウルフとか初期雑魚じゃねーよな。ちょっとレベル上げてから挑む系じゃん。もしくはパーティー組んでフルボッコハラスメント。


 小動物虐待もなんのその。再び指を鳴らしながら近づく。


「ふっふっふっ」


 プルプルと震える兎には悪いが、弱肉強食とはそんなものなので。


 しかし脳裏にふと過ぎるお約束の文字。何故か湧き起こる二の舞シーン。


 わかってるって。俺だって無駄に死んだ訳じゃない。


 きっと台詞が悪かったのだ。


 だからこう。


「俺の経験値になれぇええええ!」


 いい感じの角度で飛びかかった。



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