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さすらう1

読み切り



 俺の部屋の天井は木目調なのに、目が覚めて視界に入った天井は白かった。


「知らない天井だ」


「天井なんてないけどね」


 誰にも聞かれてないと思ってお約束をかましたにも関わらず返ってきた返事に感じる黒歴史。再び目をつぶってしまえば無かったことになるんじゃなかろうか?


「うん。二度寝しないで貰える?」


「起きてる起きてるー」


「寝てる時の返事だね」


 一々ツッコミを入れてくるところに西の気風を見た。


「で? 誰だお前。関西人?」


「限定? それよりももっと気にすることがあるでしょ」


 取りあえずといった感じで体を起こすと、真っ白な空間に浮かぶ布団。オン・ザ俺。聞こえてきた声は確かな筈だが姿は見えず。


 誰もいない。


「……ふぅ」


「二度寝は止めてね?」


 再びかぶった布団に機先を制される。こんななんにも無いとこで他に何をしろって言うんだか。むしろ備わってる布団を有効に使うだけ正しい行いでは?


「そんな訳ないよね。都合のいい解釈だよね」


 心の声にも返ってくる返事にプライバシー皆無。ATとか呼ばれる壁は無いのだろうか。しかし便利なので採用しようと思う。テレパシーとか次世代的。やだ次世代終わってる。


「今から割りと重要なこと話すけど、いいかな?」


 はいはい。も、はいはい。


「うん。了承したと受け取って話すけど……君はその生を全うして死んでしまった」


 んな訳ないじゃないっすかー。やだー。


 じゃあここにいる俺はなんだというのか。スピリチュアル的な存在だとでも? 俺、神。知ってた。


 こちとら明日もバイトなのだ。妙な夢とか見てる場合じゃない。時給上げてくれ。


「うん。受け入れ難いのも無理はない。なんせ君の理解では一日の終わりに普通に寝たってだけだからね」


 そうだ。今日は疲れた。ああもう昨日か。


 高校在学中に就活に失敗して卒業後はフリーター。アルバイトの面接も三軒目でようやく受かりコンビニで働いている。昨日はシフト入ってた高校生がドタキャンで引き継ぎ無しだったから、足がもう棒。棒だよ棒。しかも今日は早番だから、風呂入って飯食ってダラダラして早めに寝たっけな? 歯を磨かなかったことを後悔しつつも反省しない感じで。でも寝る前の飲食ってズルくない? 幸福度二倍。


「そう。君はいつもの一日をいつものように終えた――――そしてその生さえも」


 その語り、いる?


「重要なことだから」


 そうかい。


「なんにしても君にもう明日は来ない。そう、通常なら」


「馬鹿言え。いや馬鹿は言うな。きっと明日はくるって信じてるから。なんかフリーターって嫌だったけど、この生活も半年。稼ぎ少ないながらも自宅暮らしだから安定した生活ができちゃってるからか職安行かなくなったけども、明日はくるって信じてるから! 信じないでか!」


「そういう意味じゃない」


 あ、そう。なんだよ焦らすなよ。


「うん。もっと別の事に焦りを覚えよう。君、もう死んでるから。アルバイトとか就職とか、そんな場合じゃないから」


 え、マジ?


「マジ」


 マジかよ。誕生日がまだ来てないから十八だよ? 寿命でくたばるなら数字が逆でない? むしろギャグなんじゃない?


「うん。君自身も知らない爆弾が体の中にあってね。容態が深夜に急変。そのまま死亡というのが君の運命なんだ」


 スルーですか。


 にしても辛口な運命だな。もっとどうにかなんなかったわけ?


「そこで僕が出てきた訳に繋がる」


 ふーん。


「このままだと死んでしまう君に、ビッグなチャンス!」


 通販なの? 信用が一気になくなる語り口だな。


「特別に異世界に行ってダンジョンマスターをする権利を与え「断る」よう!」


「……」


「……」


「特別に!」


「いいから」


 聞こえてたから。


「…………ちょっと理解できないなぁ。このままじゃ君って死んでしまうんだよ? 馬鹿なの? 死ぬの?」


 正しい意味だな。


「……えぇ、困るなぁ。正直、君みたいなパターンって初めてだよ。この誘いをする子って大抵ヲタクだから、断る子っていないんだよねぇ。元の世界がいいって言う子もいるけど、いや死んでるからって説得してさぁ。あ、信じてない口かな? だったら一回現世で幽霊体験してくる?」


 いやだよ! どんな説得の仕方だよ! むしろ脅迫に近いわっ!


「運命を受け入れて今生を諦めるわ。お疲れさん」


「いやいやいや、異世界だよ? 甘く切ないファンタジーとかしてきなって。チーレム好きでしょ?」


 現代日本知識すごいなお前。


「うわっ、本当に諦めてない? チートスキルを引き出す駆け引きとかじゃなく。えぇー……ちょっ、やる気出してよ」


 もう疲れたよ……パトララシュ。


「来ない。天使とか来ないから。ああもう、めんどくさくなってきたなぁ……」


「おいやめろ。めんどくさいとか実際に面と向かって言われた傷つき度ハンパないから」


「声だけだけど」


「どこの老人達なの?」


「老いてはないけどね」


 そういうのいいから。


「……うーん……まあ、君がどう思おうが送っちゃうけどね。こちらの事情で」


 否応なく上がる消費税みたいだな。


「うん。説明責任があるから承諾も欲しいんだけど。あ、これオフレコで」


 業界の人なの?


「神界の使徒です」


 その後も続く説明は、頭に直接響いてきたせいか眠れなかった。


 こうして死者の安眠を妨げる感じで、俺は異世界でダンジョンマスターをやることになった。



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