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9話 メドゥーサ【種族:ゴーゴン】

「今日は何か……うん? これは何だ?」


魔王室で今日の予定について尋ねた俺に、アリスは何やら紙を差し出してくる。


「ヴェルレアさんが魔王様に向けて書いた手紙らしいです。リザヴトさんが朝持ってらっしゃいました」

「ヴェルレアが俺に? 一体何のようだろうな」


 心当たりはまるでないんだが……。


 二つに折られた紙を開いてみる。

 そこには大きい字で『話があるから会いに来るのじゃ。妾が動くのは面倒くさい』と書いてあった。


「ヴェルレアのやつ……」

「何が書かれていたのか見ても?」


 尋ねてくるアリスに俺はぺらりと手紙を手渡す。


「これは……」

「ここまで堂々と面倒くさいと書かれると、怒る気も失う」


 アイツにはもう少しやる気というものを知ってほしい。

 ったく……。

 俺はため息を吐きながら椅子から立ち上がった。


「今日は用事もなかったよな。……仕方ない」

「行かれるんですか? 魔王様はなんだかんだ言って結局優しいですよね。詐欺とかに引っかかる性格してますよ。とてもいいと思います」


 褒めてるのか貶してるのかよくわからんやつだ。


「まあ、俺は魔王だからな。困っているやつがいるなら可能な限り助けてやりたい」

「魔王様っ……! ……もしかして、カッコつけてます?」

「つけてないぞ。断じてつけてない」


 人聞きの悪いことを言うなアリス。

 俺はただ魔王にふさわしい言葉を言っただけだ。

 それが結果的にカッコよくなってしまっただけなのだ。まったく、これだから魔王というものは辛い。


「よし、行くか」

「はい、魔王様」


 俺たちはヴェルレアのいる保育園へと向かった。






 保育園ではお昼の後の休憩時間のようで、園児たちの多くが外に出て楽しそうに遊んでいた。

 皆仲良さそうにボール遊びをしたりかけっこをしたりしているが、その中にヴェルレアの姿はない。

 まあアイツはあんな見た目でも一万歳だからな。今更園児と遊ぶような年でもないか。


「漆黒の饗宴」


 子供に囲まれているリザヴトが、俺たちに挨拶……挨拶?をしてくる。


「悪いな、邪魔するぞリザヴト。来て早々で悪いがヴェルレアはどこだ?」

禁忌(パンドラ)の箱」


 リザヴトは三本の指で保育園の中を指差した。

 俺はそちらに向かった。すると室内から大きな声が聞こえてくる。


「だ~か~ら~、妾は一万歳なのじゃ! その凄さがわからぬのか!?」

「わたしの方が凄いもん!」


 扉を開けてみると、ポンチョを着た二人の園児が喧嘩をしているようだった。

 一人は銀髪と真紅の目、もう一人はうねうねと動く灰白色の髪と黒い目をしている。

 うんうん、子供の時はそうやって喧嘩をして育っていくもんだ。


「メドゥーサ、お主の何が凄いんじゃ? 言うてみんか」

「わたしは髪の毛が蛇さんだから、夜に一人でおトイレも行けるんだよ!」


 メドゥーサと呼ばれた少女は誇らしげに胸を張った。

 なるほど、子供の時は一人だと中々心細くてトイレに行けないからな。

 おそらくゴーゴンであるメドゥーサは、髪の毛が蛇な種族だから寂しくないおかげで夜でもトイレに行けると。

 すごく微笑ましい風景だな。

 もう忘れているが、きっと俺にもこんなころがあったのだろう。

 そう思うと自然と口元が緩む。


 しかし喧嘩相手はそれを笑って一蹴する。

 というか喧嘩相手がどこからどうみてもヴェルレアなんだが……。


「クックックッ。(かわや)にいけたくらいで一人前ぶるなど千年はやいのぅ」


 そう言ってメドゥーサを煽るが、傍から見ていた俺はドン引きだ。

 あの野郎、一万歳にもなって園児と喧嘩してやがる……。


「でもヴェルレアちゃんは一人でおトイレ行けないじゃん。いっつもリザヴト先生に連れて行ってもらってるの、わたし知ってるもん」

「ぬ、ぬぅ……。そ、それは妾が面倒くさがりだからであって、決して怖いとかじゃないのじゃ。じゃから妾の方が偉いのじゃ」

「じゃあヴェルレアちゃんは何ができるの?」


 メドゥーサはヴェルレアに尋ねる。


「だから言っておろうに。いいかもう一度しか言わぬ、良く聞くのじゃぞ? こほん、妾は一万歳なのじゃ! こんなに長生きしている者は魔族でもそうはいぬぞ? どうじゃ、妾の凄さがわかったかの? うん?」


 そう言って勝ち誇ったヴェルレアに、メドゥーサはやれやれと首を横に振った。


「なぁんだ。ただ年を重ねるだけで、何もできないんじゃん」

「な、なんじゃとっ!?」

「だってリザヴト先生の方が色々できるし、頼りにもなるよ?」

「む、むぅ……」

「ヴェルレアちゃんは一万年も生きてるくせに、一人でおトイレにだって行けないじゃん!」


 最後の止めとでも言うように、めどうーさはビシリとヴェルレアを指差す。

 ヴェルレアも何かを言い返そうとしていたが、言葉は出てこない。


「……うぇ……ぐすっ……」


 やがて、ヴェルレアの目には雫が溜まりだした。

 マジかよヴェルレア……。

 お前、園児に泣かされるのか……。


 ポンチョの裾で目元をぬぐい始めたヴェルレアを見て、慌てたのはメドゥーサだ。

 微笑ましいながらも刺々しかった先ほどまでの雰囲気を捨て去り、メドゥーサはヴェルレアを慰める。


「ご、ごめんヴェルレアちゃん! わたし泣かせるつもりはなかったの! ただ、何にもしないヴェルレアちゃんがなんでそんなに偉そうに上から目線なのかが気になっただけで……」

「ぐずっ……うぅ……妾、泣いてないもん……!」


 なんかもう、見てられないな……。


「ヴェルレア、今いいか?」


 口論に夢中になっていたヴェルレアは、俺の声掛けで初めて俺たちに気づいたようだ。


「ろ、ロード!? それにアリスまで! ぐすっ……ど、どうしたのじゃ。こんな場所に何か用かえ? あー、花粉症は辛いのぅ」


 泣いていたのを隠そうと、雑な言い訳を披露する。


「いや、全部見てたから言い訳しなくていいぞ」

「ぐっ!? わ、妾はもう寝るっ!」


 ふてくされたヴェルレアは布団の敷かれた部屋へと移ろうとする。

 だが、そうはいかせない。

 俺はトテトテと駆けるポンチョのヴェルレアの手を取り、逃がさないよう捕まえる。


「寝るのは無しだ。お前が手紙を出したから会いに来たんだろうが」

「タイミングというものがあるじゃろうが! なんで今来たのじゃ! 間が悪いにもほどがあるじゃろ!」

「知るか。ならお前が魔王室に来ればよかっただろ」

「正論を言うでない!」


 無茶苦茶言ってるぞコイツ。


 数分後、ヴェルレアはやっと観念して大人しくなる。

 すると、先ほどまでヴェルレアと喧嘩していたメドゥーサが話しかけてきた。


「まおうさまとおねーさん、ヴェルレアちゃんのこと知ってるの?」

「ああ、まあな」

「顔見知りではありますね」

「そっか。ヴェルレアちゃんと仲良くしてあげてね!」


 そう言って保育園の外へと駆けだしていく。

 そしてすぐに園児たちの輪の中へと溶け込んでいった。


「なんだあの子は。すごく良い子だな」


 今の今まで喧嘩していたヴェルレアを心配するとは、なんて出来た子だ。

 こういう子がいてくれるというだけで、魔王軍の将来が明るく思える。

 それにはアリスも同意のようで、うんうんと頷いた。


「私にそっくりの良い子ですね~」

「アリスとは真逆の凄い良い子だ」


 冗談もほどほどにしてくれ。


「それで、なんで俺を呼んだんだ?」

「話というのはあの子の……メドゥーサのことじゃ」


 ヴェルレアは一瞬ためらった後、意を決したようにごくりと唾を呑みこむ。

 そしてその小さい口を開いた。


「妾はあの子と仲良くなりたいのじゃ!」


 ……はぁ?

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