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30話 魔王軍は今日も平和です

 花火大会、そしてその翌日の天使たちの襲来からもう一週間がたった。

 最初は浮き足立っていた幹部たちも、もうすっかりいつも通りだ。

 いつもと変わらぬ日常、いつもと変わらぬ魔王室である。


「なにニヤニヤしてるんですか魔王様。欲情でもしてるんですか?」

「アリスもすっかり元通りだよな」


 あの可愛らしかったアリスはどこへ行ってしまったのか……。


「何をおっしゃっているのやら。私はいつも私ですよ」

「そりゃそうだ。アリスはいつもアリスだよな」

「はい、私はいつも完全無欠な私です」

「それには異議しかないが……スーツ、似合うようになったな」


 スーツを着こなすアリスを見る。

 いつの間にかスーツもタイトスカートも着こなす様になっていた。

 最初はスーツに着られてたのに、随分と成長したものだ。

 目を細める俺に、アリスは皮肉気に笑顔をこぼす。


「最初から似合ってますよ、やーっと気づいたんですか? 褒められてとても嬉しいです」

「そうか、嬉しいか。よかったよかった」


 顔を真っ赤にするアリスを見て俺は笑う。

 やっぱりアリスは相変わらずだ。

 仕事はきちんとこなすのに、そのくせどこか抜けている。

 憎まれ口を叩くのに、そのくせどこか憎めない。

 俺の自慢の秘書である。


 そんなことをを思っていると、魔王室の扉がドンドンとノックされた。

 その乱暴なノックの音だけで誰かわかってしまう。

 扉がこんなミリミリと破裂しそうな音を出すのは、タウロスがノックした時だけだ。


「魔王様、今いいですだか?」

「タウロスか? いいぞ」


 扉を開けると、タウロスと四角い箱を持ったリナが入ってきた。


「リナも一緒なのか。どうした、何かあったのか?」

「これをあの若いヴァルキリーが届けにきただ。お詫びの品だって」


 そう言ってタウロスはリナが持つ四角い箱を指差す。


「なんでも中身は食品って話らしいから、あたしも一緒に来たってわけだ」

「なるほどな」


 それでこんな珍しい組み合わせの二人が来たのか。

 にしても、ヴァルキリーたちがまさかお詫びの品なんてものを贈って来るとは予想外だったな。


「誠意のしるし、か。……わかった、俺が開けよう」

「気を付けてな、魔王様」


 俺はリナから四角い箱を受け取る。

 一辺が二十センチ四方の白い箱だ。


「念のため、三人は少し離れていてくれ」


 何もないとは思うが、可能性はゼロではないからな。

 俺はそう指示を出し、ゆっくりと箱を開けていく。

 部屋の端では、三人が会話していた。


「にしてもあのヴァルキリーたち許せないよな。あたしたちのアリスさんをとろうとするなんて」

「その通りだだ。今回だって食べ物で釣ろうって魂胆が見え隠れするだ。オラたちの絆をちょっと軽く見すぎだだ」

「お二人とも……ありがとうございます。素直に嬉しいです」


 なんだかいいな。

 仲間たちの絆を再確認できて、俺としてもとても嬉しい。


「おい、開いたぞ」


 俺は三人の会話がひと段落してから声をかける。


「中身は何でした?」

「ケーキだ。それと手紙だな」


 俺はアリスに手紙を手渡す。

 それはフォークラインからアリスへと宛てられた手紙だった。

 折りたたまれてもおらずそのうえ表になっていたので、俺にはその内容が見えてしまった。


『アリスへ。本当にすまなかった。恥を忍んで言えば、偶には帰ってきてくれると父さん嬉しい』


 手紙の下には人工の翼も封入されていた。

 アリスは直接言っていなかったと思うのだが、翼が無くなったことにも気が付いていたのか。なんだかんだ言ってさすがは親だな。


「お父さん……」

「お前が帰りたくなったらいつでも言えよ。すぐに帰らせてやるから」

「……はい」


 アリスは複雑な感情の混ざった笑みを見せた。

 その正確な気持ちは俺には推し量ることはできないが、悪い笑みではないことはたしかだ。

 アリスはこれから一歩ずつ進んでいくのだろう。それはとても喜ぶべきことである。




「なあ、見てくれ皆!」


 と、ケーキを見ていたリナが驚きの声を上げた。


「このケーキ、天界でしか採れないと言われてる『雲のホイップ』が使われてる! ……よし、ヴァルキリーたちのしたことは全て許そう!」

「許すだ!」

「食い物で懐柔されてやがる……」


 まったくコイツラは……。


「リナさん、タウロスさん!? 私とケーキ、どっちが大切なんですか!」


 アリスが憤慨した様子で二人に詰め寄る。


「決まってるじゃん。ケー……アリスさんだよ?」

「言いかけた! 魔王様、今リナさんがケーキって言いかけました!」

「ケーキだ! ……アリスさんだだ!」

「タウロスさんに至っては言い切ってましたよね!? 完全にゴールテープ切っちゃってましたけど!?」


 というかリナは味わからないのにケーキなんて……と思ったが、そこは料理長の血が騒ぐんだろうな。

 さすがリナだ。


 そしてケーキを見る。

 雲のホイップとやらがなにかは知らんが、たしかにこのケーキは他に見たことがないほど白い。

 しかもふわっふわのふわっふわだ。

 これはなんというか……とてつもなく美味そうだな。


「どう思います魔王様! 二人とも酷いと思いませんか!?」


 二人は駄目だと思ったのか、今度は俺に詰め寄ってきた。

 たしかに、これではアリスがさすがに可愛そう過ぎる。


「安心しろ。俺はアリスの方が大事だぞ」


 俺は詰め寄ってきたアリスの頭に手をポンと乗せた。

 いくらケーキが美味そうだといっても、アリスには敵わない。

 頭を撫でられたアリスは恥ずかしそうに頬を染めた。


「あ、ありがとうございます」

「六対四でな」

「接戦過ぎません!?」


 だって美味しそうなんだもん、仕方ない。


 俺たちの言葉を聞いたアリスはむぅ、と頬を膨らませ、俺たちを睨む。


「皆さん反省してください。こうなったら私のことを好きって言うまでケーキ禁止ですからねっ」

「アリスさん好きだぜ」

「アリスさん好きだだ」

「アリス好きだぞ」


 仲間を嫌いなやつがあるか。

 当然好きに決まっている。アリスもリナもタウロスも、他のやつらも全員な。


「ふ、ふんっ! そんな言葉だけで私が喜ぶと思ったら大間違いなんですからね。最高に嬉しいです!」

「アリスさんって基本チョロいよな」

「どうしてそんなに単純なんだだ?」


 二人の手の平返しが酷いな。

 アリスはもはや言葉もでてこないようで、わなわなと震えた。


「二人とも、酷いです! ちょっと魔王様! 言ってやってくださいよ!」


 ギャーギャーと喚くアリスを余所に、俺は窓から空を見る。

 空には鳥たちが群れを成しながら自由に飛んでいた。

 それを見て、俺は思わず呟くのだ。


「ああ、今日も平和だなぁ」と。



これにて本作『魔王軍は今日も平和です』は完結となります!

最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました!

もし読む作品がなくなって暇になったようでしたら、他作品もご一読いただければ嬉しいです!

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