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24話 喧嘩するほどなんとやら

 今日は保育園へとやってきている。

 最近は暇さえあればここに来ている気がする。

 子供たちが育っていくのを見ると気分が上向くからな。

 ここに来ると魔王である自分が背負っているものの重さを自覚できるから、自分も頑張ろうという気になれるのだ。


 今日は雨が降っていることもあり、園児たちは部屋の中で遊んでいるようだ。

 俺とアリスは、ヴェルレアとフェイに目を付ける。


 先ほどまでメドゥーサを含めた三人で遊んでいたのだが、メドゥーサがトイレに行ったせいで今は二人きりなのだ。

 先日森で話した内容を思い出し、ヴェルレアが変なことをし出さないか不安だったのだが……今のところそんな予兆は無さそうだ。

 なんだかんだ言ってアイツも一万歳だからな。そういうところは(わきま)えているということか。

 そう安心し始めた矢先、フェイが口を開いた。


「ヴェルレアってさ、一万歳なんだろ?」

「そうじゃぞ」


 ヴェルレアは自慢げに無い胸を張る。

 おお、思っていたより普通に話しているじゃないか。

 ひょっとしたらもう仲良くなれたのかもしれないな。子供ってそういうところあるし。

 フェイからも、特にヴェルレアに対する悪感情は読み取れない。


「本当に一万歳なの?」

「? そうじゃぞ?」

「ならなんでそんな小さいの? 頭が悪いから?」

「はぁあ!?」


 純粋な暴言が飛び出したな。悪気がない分たちが悪い。

 絶句するヴェルレアを置いて、フェイは続ける。


「ぼくのお母さん、ぼくが悪いことするとよく『馬鹿なことしてると一生子供のままだよ』って言うんだ。だからヴェルレアはきっと馬鹿なんだろうなあって」

「なっ……。なっ……」


 口をパクパクさせることしかできないヴェルレア。


「ろ、ロード、妾をフォローしてくりゃれ!」


 言葉に困ったヴェルレアは俺に助けを求めてきた。

 俺はアリスと共に二人のいる場所に近づく。


「フェイ。……お前の言う通り、ヴェルレアは馬鹿だ」

「はぁああああ!? ロード、お主妾を裏切るのか!?」

「だってお前何もしないじゃん。俺のフォローが欲しいなら普段からもっと働いてくれ」


 俺がお前を庇うメリットがない。


「ぐぬぬ……アリス、妾をフォローしてくりゃれ!」


 アリスは俺からのフォローを諦めたのか、今度はアリスに助けを求めた。

 見境ないなコイツ。


「フェイくん。たしかにヴェルレアさんの頭はよくありませんが、それと見た目は何の関係もありませんよ」

「なんだ、そうなのかー」


 納得したように頷くフェイ。


「のうアリス、それはフォローになっておるのか?」

「なってますよ、良く考えてみてください」


 ヴェルレアは「むぅ……」と考え出す。


「なってたのかのぉ……よくわからん。考えるの面倒くさいのじゃ」


 やっぱヴェルレアって凄いわ。

 面倒くさいで全部片付けちまうんだもん。




 そんな話をしていると、メドゥーサがトイレから帰ってきた。

 しっかりハンカチで手を拭いているところがもう凄い。

 大多数の子はポンチョで手を拭いてしまうからな。


「二人は何してたの?」

「う、うむ。今丁度二人で遊んでいたところなのじゃ」

「そ、そうだよ。ぼくたちはとっても仲がいいんだから」


 メドゥーサが帰って来た途端、ヴェルレアとフェイは肩を組んで仲良く揺れ出した。


「そんなこと知ってるよぅ。わたしもいーれて」


 メドゥーサもその中に入り、輪になって揺れ出す三人。

 あまりの代わり様に俺とアリスは絶句する。

 お前らメドゥーサの前では仲が良い(てい)で通してるのか……。





 三人集まったところで、何か遊びを始めるらしい。

 と言っても外は雨、できることは限られている。

 一体何をするつもりだろうか。


「おままごとやろうよ!」


 手を上げながらそう告げたのはメドゥーサだった。


「おままごと?」

「うん、どうかな」

「子供っぽくないか?」


 フェイが異議を唱える。

 まあフェイは男子だしな。気持ちはわかる。


「じゃあフェイはやらなくてよいのじゃ。妾とメドゥーサでやるのじゃ」

「やる、やるよっ!」


 フェイは慌てて発言を撤回する。

 それほどメドゥーサと遊びたいのか。大人気だなメドゥーサ。


「役はどうしようかー」


 メドゥーサが目を瞑り、「うーん」と唸り始める。


「メドゥーサが母で、妾が父でどうじゃ?」

「それじゃあぼくはどうなるんだよ」

「お主は……そうじゃなあ、湯呑みで」

「湯呑み!?」


 ヴェルレアのやつ、子供相手に容赦ないな。さっきのことを根に持っているのだろうか。


「じゃあ、まおうさまとアリスさんにお父さんとお母さんやってもらおうよ」


 このままでは話が進まないと思ったのか、メドゥーサが俺たちの名を出した。


「俺たちか?」

「いいですよ、一緒にやりましょう」


 まあ、アリスが良いと言うなら良いが。


「俺が父親、アリスが母親だとして、他の役はどうするんだ?」


 まあ順当にいけばフェイが息子、メドゥーサが娘、ヴェルレアは……曾祖母とかか?


「魔王様、お母様役をやらなくていいんですか?」

「俺は男だぞ」


 馬鹿なことを言いだすんじゃないアリス。

 しかし、それを支持する存在が現れた。メドゥーサだ。


「でもまおうさまはお母さんみたいだし、似合うと思うよ!」


 メドゥーサはにこにこしながらアリスの提案を後押しする。

 そうなればあとはとんとん拍子だ。


「じゃあ決まりじゃな。ロードは母じゃ」

「マジかよ……」


 結局俺は母親役になってしまった。

 なんで女の方が多いのに俺が母親なんだ……。

 だが大人の俺が子供の前でこれ以上駄々をこねるわけにもいかない。


「じゃあ、お姉さんは犬でもやりますよ」


 アリスが言った。

 おそらく母親役や娘役など、主役的な場所を残してあげようという配慮だろう。

 意外と気配りができるやつである。


「あ、じゃあわたしもお犬さんにする!」


 メドゥーサが元気よく言った。


「え?」


 アリスが呆けた顔をする。

 アリスにとってもこの展開は予想外だろう。

 だってこうなった以上必ず――


「ぼ、ぼくも犬がいい」

「妾も! 妾も犬がいいのじゃ!」


 ――こうなる。


 フェイ、ヴェルレア、お前らには主体性というものがないのか?

 きっとメドゥーサと同じ役をやりたいだけなんだろうが……というかメドゥーサの人気がすごいな。

 その人心掌握術を俺にも一つ教示願いたいものだ。


 結局おままごとの配役は俺が母親役、アリス、メドゥーサ、ヴェルレア、フェイの四人が犬役となった。

 ……どうしてこうなった。


 そしてそのまま、この狂った配役でおままごとが始まってしまう。


「餌だよー」

「わんっ」

「わんっ」

「わんっ」

「わんっ」


「皆、お手!」

「わんっ」

「わんっ」

「わんっ」

「わんっ」


「ボールを投げるよー。ぽーん」

「わんっ」

「わんっ」

「わんっ」

「わんっ」


 なんだこれ。なんだこれ。……なんだこれ。

 俺の思ってたおままごとと違う。


「やった、ぼくがボールとったぞ!」

「あっ、フェイくん、最後にちゃんと『わん』を付けなきゃわんっ」

「妾、もう疲れたわん……」

「お婆ちゃんはもう休んどけわんっ」

「フェイぅ……! わんわんわんなのじゃあっ!」

「ぎゃー、ケルベロスだぁあっ!」


 ……でもまあ、楽しそうだからいいか。

 ギャーギャー言いながら笑いあう三人を見ていると、アリスがこちらに歩いてきた。


「子供は元気ですねー」

「そうだな」


 もはやおままごとはどこへやら、三人で走り回っている。

 それを眺めていると、傍らのアリスが何かを思いついたようにハッと顔を上げた。


「……くぅ~ん」


 そして犬の真似をして俺に甘い声を出し始める。

 また犬の真似を始めて、一体何を企んでいるんだろうか。


「わんっ、わんっ」

「どうした?」

「魔王様、今から一年休暇にしろわんっ」

「野生に帰すぞ犬ころ」

「くぅ~ん」

「甘えても無理だぞ?」

「えー。魔王様って冷たい人ですね」


 要求が通らないことがわかったアリスは途端に口をとがらせる。

 コイツを秘書にしたの失敗だったかな……。






 そしてあっという間に俺たちが城へと帰る時間になってしまった。


「まおうさま、アリスさん、今日はありがとうございましたっ。とーっても楽しかったぁ!」


 メドゥーサが俺たちに別れの挨拶をする。

 そしてフェイがそれに続いた。


「じゃーね、まおうさま、おかあ……あ、アリス姉ちゃん」


 しかしフェイ、そこでアリスをお母さんと言い間違えるという痛恨のミスを犯してしまう。

 子供の時はよくあることだが、やはり本人からすると恥ずかしいのだろう。フェイは顔を真っ赤にしてしまった。


「おぅおぅ? 気のせいかのう、妾には今おかあさんという言葉が聞こえたように思えたのじゃが?」

「う、うるさい年寄り!」

「と、年寄り扱いするでない!」

「もう、二人とも仲良くしてよぉ。喧嘩は『めっ』だよ?」


 喧嘩を始めた二人を、メドゥーサが宥める。

 次の瞬間、フェイとヴェルレアは互いに眼だけで意思疎通をし、互いに手を差し出した。


「仲直りするぞヴェルレア」

「もちろんじゃフェイ」

「あ、わたしも手繋ぐー!」


 そして三人で輪になり、グルグルと回りながら踊り始める。


「なんだかんだ仲良いよな、アイツラ」

「喧嘩するほど仲が良いと言いますしね。精神年齢が合っている分、波長も合うんでしょう」


 そうアリスが呟いた瞬間、ヴェルレアがグルンと首をこちらに回す。


「聞こえているからのアリス。後で吸血の刑じゃからな」

「ヴェルレアさんって本当に大人びてますよね。憧れます。嘘です」


 あーあ、嘘ついたらばれるのに。

 アリスもアリスで全然学習しないやつである。


「あー……、い、今のは冗談と言いますか、そのですねー」

「吸血決定じゃな」

「そ、そんなぁ! 魔王様、助けてください!」

「自業自得だ、諦めろ」


 俺は縋り付いてくるアリスを手で払いのけるのだった。

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