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2話 リザヴト【種族:リザードマン】

 魔王室の中。

 俺は傍らに控えるアリスに話しかける。


「今日の予定は?」

「ありません。自由行動です」


 そう答えるアリスの服装は、白いシャツに紺のベスト、それに黒のタイトスカートだ。

 どこからどう見ても秘書まっしぐらである。

 金髪金目の彼女は見目もいいので、外見は相当優秀そうな秘書に見える。そして実際実務面ではかなり優秀である。

 ミスらしいミスなどこの前の寝坊くらいで、それ以外には見たことがない。

 アリスをじっと見つめていると、その整った顔がこちらへと向けられた。


「どうかしましたか? 私に欲情でもしました?」


 これで毒舌がなければ、一生職場には困らないタイプの人材だろうになぁ。


「秘書に欲情するなんて最低ですね、見損ないました。尊敬してます……あっ」


 アリスは慌てて口を押さえる。

 コイツ自分の特徴にいつまでたっても順応しないな。


「尊敬してくれてありがとう。じゃあリザヴトのところでも行くか」


 俯きながら赤面するアリスにそう言い、席を立つ。

 リザヴトは厨二病だが、仕事はきちんとこなすやつだ。

 だから心配はないのだが、最近アイツのところに行ってなかったし行ってみるのもいいだろう。






 というわけで、リザヴトの営む保育園へとやってきた。

 魔王軍の次世代育成を担当するリザヴトは、働く親の為に保育園をつくり、精力的に活動しているのだ。


 保育園に入ると三歳から六歳ほどの少年少女がグラウンドで遊んでいる。

 先生が点在して子供たちに危険がないかを見張っており、安全面は万全なようだ。

 魔族は人間よりも力が強い分、気を付けなければならないことは多いからな。


 そしてグラウンドの中で、一際園児たちが集まっている場所を発見する。

 そこはリザヴトのところだった。


「漆黒の饗宴」


 リザヴトは緑の肌をした腕を天高く掲げて言う。

 すると、園児たちから喝さいが上がった。


「わぁ、リザヴト先生のしっこくのきょうえんだぁー!」


 それに気をよくしたのか、リザヴトは顔の前に手を広げたポーズをとって再び言う。


「漆黒の饗宴」

「でたぁー!」


 そして今度は刺々しい歯の間から細長い舌をチラリと見せ、邪悪な笑みを浮かべて言う。


「漆黒の饗宴」

「またでたぁー!」


 さっきから漆黒の饗宴しか言ってねえぞアイツ。それであれだけ盛り上げるとは、ある意味凄いな。







 あのままではさすがにリザヴトと話が出来ないので、リザヴトには一旦俺たちと一緒に保育園の建物の中に入ってもらっている。


「わざわざ時間をとってもらって悪いな。あとで俺とアリスも軽く子供たちと遊ばせてもらうから、それで許してくれ」

「来園に感謝。魔王様とアリス様の子供たちからの人気、山の如し」


 リザヴトは真面目な顔で言う。

 コイツはどこまでも子供たちのことを考えている。コイツが魔王軍にいてくれてよかった。

 リザヴトがいる限り、魔王軍の将来はある程度計算できるからな。


「いや、俺はお前の人気ぶりに驚いたよ。凄い人気だな。何かコツとかあったりするのか?」


 リザヴトは考え込むように尖った顎に手を置き、細長い三本の指で顎の先を撫でる。

 リザードマンであるリザヴトは指が三本しかない代わりに関節が一つ多いのだ。

 その手を見ているうちに、リザヴトは「むぅ」と唸って俯いてしまった。

 そこまで考え込んでくれると質問した方のハードルも自然と上がってしまうのだが、大丈夫だろうか。


 しばらくした後、リザヴトはパッと顔を上げる。その瞳は琥珀色に輝いていた。


「本能の声に身を任せ、どこまでも行こうという思考!」

「……お、おう、そうか」


 どうしよう、意味が分からない。

 良くわからないが、自然体でいる……的なことだろうか。

 コイツと会話してると疲れるんだよなぁ。良いやつなのは確かなんだけど。


「単に知能レベルが同程度なので面白がられているのではないでしょうか。子供の気持ちがわかるリザヴトさんは心の優しい素敵な方だと思います」


 そう言ったのはアリスだ。相変わらず前半と後半の温度差が凄い。

 リザヴトも怒りかけたが、後半を聞いてニッコリと笑顔を浮かべる。


「憤怒のマリオネッ……微笑みの下僕!」


 微笑みの下僕ってなんだ。

 ……いや、良く考えたら憤怒のマリオネットも訳わからんな。

 というかぶっちゃけコイツの言ってることほとんどわからない。


「感激の握手」

「え、あ、どうも……?」


 ニコニコしながら手を握るリザヴトと、それに戸惑うアリス。

 俺はそれをウンウンと頷きながら見ていた。仲良くなってくれるのはいいことだ。

 魔王軍はある意味家族と同じだからな。





 外で遊ぶ時間が終わったようで、子供たちが次々に建物の中へと入ってくる。


「次は何をなさるんですか?」

「神の芝居」


 そう言ってリザヴトは両手に何枚もの分厚い紙を持つ。


「ああ、紙芝居な」

「……! 神の芝居!」


 リザヴトは顔に怒気を滲ませて俺を見る。


「……いや、だから紙芝居だろ?」

「神の芝居っ! 神の芝居っ!」

「わ、わかったよ、もう神の芝居で良いよ……」


 なんでそこにそんなに拘るんだよ……。


 俺が折れたからだろう、リザヴトは満足げだ。


「究極の神の芝居」

「……た、たしかにそうだな。究極の神の芝居だ」


 自分で言ってて訳が分からないんだが。究極の神の芝居って何?


「魔王様って押しに弱いですよね。魔王なのに」

「自覚してるからあんまり言わないでくれ……」


 アリス、今の一言は俺の胸の中心に突き刺さったぞ。




 リザヴトが紙を持ち、紙芝居を……究極の神の芝居を始める。


「古代の英雄伝説(サーガ)


 いきなり飛ばしてんな。

 サーガとか言われても、子供たちわかんないんじゃないか?

 そんな心配をする俺を余所に、リザヴトは表紙を園児たちに見せた。


「桃の化身」


 どうやら桃太郎のようだ。

 子供たちも「桃の化身だぁ!」とテンションが上がっている。


 リザヴトが紙をめくると、お爺さんとお婆さんが描かれた絵が出てきた。


「二人の老人」


 ……まあ、間違ってはいないな。

 そしてすぐに次の絵に行くリザヴト。

 次はお爺さんが山で芝刈りをし、お婆さんが川で洗濯をしている絵だ。


「分担の作業」


 分担作業な。

 というか説明パートが明らかに少なくないか?

 これで子供たちは楽しめているのか?

 俺は周りの子供たちを見渡す。


「やべぇー! 分担の作業だぁー!」


 子供たちは皆笑顔で食い入るように紙芝居を見ていた。

 どうやら楽しめているようだ。

 やはり子供の感性というのは大人には理解しがたいところがあるのだろう。


 リザヴトは次の絵に移る。


「川上の桃。困惑の糞婆」


 クソババアはまずいだろクソババアは。


「それからなんやかんやあり」


 ……なんやかんやあり?


「鬼討伐の桃太郎、宝をその手に生還せし」


 リザヴトは一気に飛ばして最後の絵を園児たちに見せた。

 大事なところ全部すっ飛ばしたな。


「めでたしめでたしと相成る。英雄伝説(サーガ)の終焉」


 さすがに無茶苦茶すぎだリザヴト。

 これじゃ子供たちもポカンとしてるに決まって――


「おもしろかったー!」

「またみたーい!」

「リザヴト先生、もう一回読んでよ!」


 マジか。

 ……まあ、子供たちがそう思っているなら問題はないのかもしれない。


 集まってきた子供たちに、リザヴトは目を瞑って首を横に振る。


「漆黒の饗宴」

「えー、もう今日は終わりなの? もうお母さんたちが迎えに来るから? ちぇー、じゃあ明日ね」

「燦然と輝く太陽」

「本当? 約束だよ!?」


 ……待て、リザヴトの言葉が普通に通じてないか?

 少年、俺にも解読方法を教えてくれ!

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