歩み寄りの一歩ですね。
「そちらのボルドーはいかがでしょう?それとも青?あ、あなたその生地とって頂戴。」
「マダム、こちら?」
「あら、このチェリーピンクなんて、奥様に似合うのじゃない?」
とっかえひっかえドレスの生地を見せられ、型紙を当てられる。さながら、着せ替え人形にでもなったかのようだ。
ーー二週間後、スチュアンティック家で開かれる夜会に招待されました。それで、仕立屋を呼ぼうと思うのですが・・・
昨日言い忘れました、と朝食の席でヴィクターに言われ、クリスティーナはもちろん侍女たちも慌てふためいた。
二週間はドレスを仕立てるにはぎりぎりの期間。急いで仕立屋を呼び、今こんな状況である。
「ああでも奥様にはやっぱり赤が似合うわ。」
王都で有名なスティーブン・テーラーのマダムが、光沢がありつつ落ち着いた深い赤の生地をクリスティーナに当てた。お針子たちがうんうんと頷く。
「じゃあ、金糸で刺繍をしましょう。胸元は広く開けて、ボディスは吸いつくようなすっきりしたデザインで・・・」
マダムはもう自分の世界に入ってしまったようだ。
「次はジュエリーを決めましょう!」
エリカがクリスティーナの持ち物のなかからこれでもないあれでもない、とジュエリーを引っ張り出す。
今日は退屈しなさそうだ、とクリスティーナは肩をすくめた。
・・・・・・・
夜会当日、正装をしたヴィクターに思わず見とれてしまった。
黒のコートとスラックス。コートには金糸で刺繍が入っていてきらきらと輝いている。コートの内側はクリスティーナのドレスとお揃いの赤。黒の長髪は緩くまとめられ、金の飾りが付いていた。
馬車で向かい合わせに座りながら、クリスティーナは落ち着かずにヴィクターから目をそらしていたのだが。
「あの、何か機嫌を損ねるようなことをしてしまいましたか?」
公爵邸につき、馬車を降りたところで尋ねられた。
「いえ、あの・・・」
「あぁ、そうだった。・・・ドレスとってもお似合いですよ。すごく綺麗です。」
かぁっ、とクリスティーナの頬が赤く染まった。
「あ、ありがとうございます。」
そうっとヴィクターを見上げる。青の瞳と目があった。
「旦那様も、とっても素敵ですわ。」
素直にそう言ってふわっと微笑むと、なぜかヴィクターは口元に手をあて目を泳がせた。
「どうかいたしまして?」
「い、いや・・・」
会場にファドリック侯爵夫妻の来場を伝える声が響く。ゆっくりと扉が開いた。
「では、行きますか?」
「はい。」
ヴィクターの腕に手を添えて、クリスティーナは微笑んだ。