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歩み寄る気はあるのですか?!

 「暇だわ・・・」


 パタンと本を閉じて、クリスティーナはつぶやいた。

 やることがない。

 刺繍・・・は、あんまり得意じゃないし。

 絵・・・落書きですか?みたいな。

 

 「お庭で散歩でもなさいますか?」

 「そうするわ。エリカ、案内を頼める?」

 「もちろんですわ。」


 エリカはクリスティーナ付きの侍女である。

 19歳のクリスティーナより3つ下で、亜麻色の髪と瞳の可愛らしい感じの子だ。


 ちなみに、あれからヴィクターの姿をみていない。かれこれ1週間、仕事が忙しいらしく朝早くに出て行き、夜遅くに帰ってくる。と、執事のジェームズさんが言っていた。・・・寝室を分けているので、クリスティーナにはわからないのである。


 「奥様、こちらでございます。」


 ファドリック侯爵家の庭は、とても丁寧に手入れされている。どこもかしこもお決まりどおりで、ちょっと息苦しい。しかも、花が少ない。王宮の庭を見馴れているクリスティーナにとって、ここの庭は物足りないのだ。


 「もっとお花を植えたりしないのかしら・・・」

 「奥様?」

 「・・・ねぇ、庭師はどなた?」

 「庭師・・・でございますか?それでしたら、ジャスパーでございますが。」


 ジャスパーか。そういえば、最初に使用人を紹介されたときにいたような・・・。


 「じゃあ、ジャスパーに頼んでお花を増やしてもらいましょう!・・・あぁ、でも、勝手なことをしてはいけないかしら?」

 「とんでもない!奥様がおっしゃるのであれば。・・・それに、私もちょっとさみしい庭だと思っていたのですわ。」


 エリカがいたずらっ子のように、かた目をつぶってみせる。仲間を捕まえた。


 「じゃあ、旦那様にもお願いしましょう。」


 近寄るのは少し怖いが、いつまでも逃げてはいられないだろう。歩み寄る努力をしなくては。



  ・・・・・・・



 「旦那様がお帰りになりましたよ。」


 もう晩餐はいただいてしまっていた。それでも、今日は帰りが早い。


 「もう?お早いのね。」


 仕方あるまい。重たい腰を上げ、クリスティーナはエントランスに降りた。

 ヴィクターは執事のジェームズさんと話している。


 「お帰りなさいませ、旦那様。」


 勇気を出して声をかけてみると、ヴィクターはクリスティーナを見てにこっと笑った。

 甘い。どうした、旦那様。


 「ただいま帰りました、姫。」

 「今日はお早いお帰りなのね。」

 

 少し皮肉っぽくなった。


 「えぇ。・・・すみません、貴女をほうっておいてしまって。」

 「別に構わないのですよ、貴方がレオンお兄さまのために働いていらっしゃるのはわかっておりますから。」


 というより、それ以外の理由で遅くなるのは困る。

 例えば・・・浮気とか。これでも王族である。そんなことをされたらいい笑いもの。クリスティーナのプライドが許さない!

 

 「はい・・・あの、庭のこと聞いたのですが、好きにしていただいて構いません。」

 「そう、ありがとうございます。」


 素っ気ないな、と自分でも思うが。

 

 (何を話せばよいでしょう?)


 「姫?」


 黙り込んでしまったことを不思議に思ったのか、ヴィクターは少しかがんでクリスティーナの顔を覗き込んだ。


 「・・・っ!」


 近い!

 反射的にのけぞると、不安定になった体が傾いた。


 「わっ、と。危ないですよ。」


 こちらも紳士の反射か、ヴィクターがさっとクリスティーナの背に手をまわして支える。余裕な顔で注意までしてきたヴィクターにイラッ、とした。いつもはそうやって女性たちを惑わしているのだろうが、自分にはその手は効かない!


 「さっわらないでくださいませ!必要のないときは、手の届く範囲に入るのは禁止します!!」


 この完璧男に助けられるとは、屈辱の極み!

 パチンッ、とヴィクターの手を叩き落とす。

 

 「結婚したばかりだというのに毎日毎日遅く帰ってきて、貴方歩み寄る気はないのでしょう?!なら、どうしてわたしとの結婚を承諾したのです!言っておきますが、これは完全なる政略結婚ですわよ。今まで貴方に酔ってきたそこらの令嬢と一緒にしないでくださいませ!!」


 驚きか、目を見開いてこちらを見るヴィクターをにらみつけて、クリスティーナは私室への階段を荒々しく駆け上がった。もちろん、足音を立てるなんてみっともないことはしていない。


 そんなクリスティーナの背中を、ヴィクターは呆然と見つめていた。

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