悪魔公女の童話 【 マ法幼女 モチプルン 】
これって童話カテゴリーにしたら怒られますよね
ドワーフ大国はとても平和で素敵な国。
男達は今日も畑仕事に精を出し、女達は器用な手先を生かして細やかな細工物を作っていました。
指先でミスリルインゴットを千切りながら潰して、美しい宝飾品を作っている乙女に農作業帰りの若い男が声を掛けています。
「うほ、うほほ」
「…うほっ? うほ!」
男の軽いセクハラ混じりの言葉に、顔を真っ赤にした乙女が恥ずかしそうにミスリル鉱石を男の顔面に投げつけました。
あんなことを言ったら自業自得でしょう。顔面に30キロの鉱石を受けた男は、10メートル以上吹き飛んで朝まで目覚めることはありませんでした。
そんな平和なドワーフ王国で、今日は何が起きるのでしょうか?
ドワーフ王国には美しい三人の姫が居りました。
第一王女、ミスリル姫・ジュリエッタ。
第二王女、貴岩姫・エミリー。
第三王女、鉄姫・フランソワ。
特に長女ジュリエッタは、平均身長2メートルを超えるドワーフ族の中でも、17歳で身長2.5メートルを超え、その鋼のような美しい髪で国中の男達の視線を独占していました。
でもそんなジュリエッタにも最近悩みがあるようです。
「うほーっ、うほうほーっ!!」
彼女のそんな物憂げな溜息に、侍女達が心配そうに2キロ先から見守っています。
そんな姉を心配して、妹のエミリーが部屋の扉を外して入ってきました。 「うぼっ」
14歳のエミリーは姉が大好きで、ジュリエッタも、身長2メートルで横幅2メートルの小柄な妹をとても可愛がっており、
「うほほーっ!」
「うぼっ!」
刹那の間に放った顔面パンチスキンシップで二人は姉妹愛を確かめます。
エミリーの、男性だったら一度は『埋もれてみたい』と思わせるその豊満なぼでーは『物理攻撃無効』であり、顔面を愛の拳で吹き飛ばされたエミリーは、即座に起き上がり、鼻から血を流しながら愛らしくニヤリと姉に笑みを返しました。
ジュリエッタはエミリーに自分の思いを語ります。
「うほほっ、うほ、うほっ!」
「うぼっ、うぼうぼ」
※意訳。
『ねぇエミリー…、最近のあの子、少し可愛いからって生意気だと思いませんこと?』
『お姉様の美しさには及びませんが……、確かに調子に乗っているように見えますわ』
三姉妹の末姫、鉄姫・フランソワは、まだ四歳にも関わらず身長は2メートルを超えて、その美しさはドワーフ王国で噂になりはじめていたのです。
鋳物で鋳造したような、艶やかな美しい黒髪。
幾多の戦場を駆け抜けたような、巌の如き可憐な風貌。
野生のゾウやサイですら道を譲る、慈悲に満ちた鋭い双眸。
繊細でたおやかな丸太のような指……。
まだ幼い蕾ですが、このまま成長すれば姉達の美しさを超えてしまうのではないかとジュリエッタは心配していたのでした。
その頃フランソワは森の中で小さな動物達と戯れていました。
「うほっ!!」
遊んで欲しそうに寄ってきた、4メートル程の小さな虎の首を、彼女は力一杯抱きしめて、その毛並みをモフモフさせて貰っています。
虎も嬉しそうにじゃれついて爪を振るいますが、フランソワの玉の肌にはかすり傷も付きません。
この森はフランソワの遊び場で、三歳までは虎や可愛らしい魔狼の群れが遊びに来てくれましたが、今ではその姿もめっきり減ってフランソワも寂しく思っていたのです。
「うほ…?」
すっかり大人しくなり、濁った瞳で泡を吹く虎をゴリゴリと撫でていたフランソワは森の中に小さな動物を見つけました。
虎さんはこの動物を追いかけてきたのでしょう。まだ生まれて数ヶ月しか経っていない小さな命に、フランソワは虎を遠くへ放り投げて、ゆっくりと近づいていきました。
「うほぉ」
まだ体重200キロ程度の小さな子象です。可哀想に……、親とはぐれてしまったのでしょうか?
フランソワは子象を連れ帰ることにしました。
ゾウは、ドワーフ王国ではカバと並ぶ人気の室内ペットです。大きくなれば騎獣としても使えることから、このまま放置すると悪い人に捕まってしまうかも知れません。
子象を抱っこして城に連れ帰りミルクを与えて世話をすると、怯えていた子象もやっと気を許してくれたみたいです。
幼い子供が動物の世話をすることは情操教育にも良い影響を与えます。そのおかげかフランソワの雰囲気も柔らかくなり、侍女達も武器も構えずに500メートル付近まで近づいてくれるようになりました。
そんなある日、フランソワの元に美しい姉姫達が会いに来てくれました。
「うほぉ!」
「うほっ、うほほ」
「うぼぉ」
「うほっ!?」
「うぼっ」
「うほぉ…」
フランソワは大好きなお姉様達に、言葉遣いを注意されてしまいました。
美しいお姉様達がドワーフの姫として素晴らしい言葉遣いをしているのを聞いて、まだ四歳のフランソワも。
(わたし…頑張る。…いえ、わたくし、頑張りますわっ!)
と、心の中で決意しました。
でも、二人の姉姫達は、フランソワとたわいないお喋りをしに来てくれたのではありませんでした。
「うぼっ、うぼぉ」
「うほうほ、うほっ」
「うほ…?」
森の動物が不自然に少なくなっている。
フランソワが森に行くようになってからそれが起こっているので、きっとフランソワのせいに違いない。
最近拾ってきたゾウも、フランソワが無理矢理連れ帰ったのだろう。
「うほっ!? うほっ!」
フランソワは姉達に訴えます。森では小さな動物達と遊んでいただけだと。
なんと言うことでしょう……。突然の謂われのない中傷にフランソワは無実を唱えましたが、姉達はそれが事実であると決めつけ話を聞いてくれません。
「うほ、うほうほっ!」
そしてフランソワにジュリエッタはこう言いました。
フランソワを国外追放にします。あなたには魔王領がお似合いですわ。…と。
「うほぉ…」
人気が出てきたと言ってもフランソワはまだ四歳。ドワーフ王国では姉姫達のほうが主流派で人気があり、このままではフランソワは魔王領に捨てられてしまうことになるでしょう。
ですがそんな時、不意に事件が起きたのです。
「うほっ!」
2キロ先から駆けつけてきた侍女の一人が報告しました。
街に『悪魔』が現れたと……。
それは聖王国の『第二次悪魔召喚事件』が発端でした。
貴族の数名が事件を企て、王子と公爵令嬢を誘拐し、いち早く駆けつけた聖騎士達によって鎮圧されましたが、その時に逃げ出した数体の【上級悪魔】が依り代を得て、このドワーフ王国まで流れてきたのです。
上級悪魔に魔力のこもっていない攻撃や弱い魔法は通じません。
街はたった数体の上級悪魔により混乱し、沢山のドワーフたちが打ち身や捻挫で怪我をして泣いていました。
「うほぉっ」
幼いドワーフの男の子が、上級悪魔に氷の矢を何十本も打ち込まれて、寒さで泣いていました。
大変です。これ以上氷の魔法を受けたら、風邪を引いてしまうかも知れません。
その時です。
「うほぉおおおおっ!」
上級悪魔の顔面を殴り飛ばし、美しい黒髪の幼女が現れたのです。
鉄姫・フランソワ。城から数キロ離れた街まで1分も掛けずに駆け抜け悪魔を殴り飛ばした彼女は、泣いている男の子の頭を撫でて不敵に笑い、男の子はその可憐さに思わず頬を赤く染めました。
『ぐごぉおおおおおお……』
倒れたように見えた上級悪魔は、何事もなかったように起き上がってきました。
悪魔に普通の攻撃は通じません。
魔力武器でもあれば違ったのでしょうが、まだ幼女であるフランソワには己の拳しか武器はなかったのです。
「……うほ」
フランソワは悩みました。どうすれば悪魔を倒せるのでしょう?
ドワーフは魔力を持っていますが、呪文を発音することが出来ないので魔法を使えません。でもその時フランソワは絵本で読んだドワーフのお伽話を思い出しました。
遙かな昔、ドワーフの金剛姫がドワーフ語に『想い』を込めて、それを独自の魔法として使い、金剛姫は沢山の美しい『花』を咲かせたと書いてありました。。
想いを込めた言葉はきっと『力』になる。そう思い、フランソワはバスケットボールのような拳を握りしめたのです。
「うほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
『ぐぉあっ!?』
想いを込めたフランソワの『拳』は、一撃で上級悪魔を壁に叩きつけ、飛び散った血肉が壁一面に綺麗な『花』を咲かせました。
悪魔達はフランソワのドワーフ魔法によって全て倒されました。
それによりドワーフ王国の英雄となったフランソワは追放されることはなくなり、姉達の企みは潰えたのです。
けれども姉達は時間が経てば、また何か企むかも知れません。
そこでフランソワは、聖王国から謝罪と共に入学を許された魔術学院で、七歳になったらそこで魔法の勉強をして、ドワーフ魔法を完璧に扱えるようにしようと思ったのです。
そして……七歳になり魔術学院に入学したフランソワは、そこで生涯の親友となる金髪の公爵令嬢と知り合い、二人で世界の悪に立ち向かうことになるのでした。
本気で反省している。酷く後悔もしている。
でも止めません。