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幻想と現実5
「愛里!」
皆に聞こえない声が愛里には聞こえていた。
声の主を探すと、里穂が遠くから手を振っている。
その距離はかなり遠い。
愛里は本当は禁止である携帯を取り出すと、里穂にかけた。
「里穂、聞こえたよ!」
電話で話ながら里穂に向かって手を振る。
これはほぼ毎日の日課だった。
校舎に向かう前にちょっと寄り道をして手を振っていた。
「里穂、行ってらっしゃい」
「うん、行ってくるね」
二人は最後にもう一度手を振った。
それはもう慣例行事になり、区切りでもある。
「じゃあ、トラック始めるわよ!」
愛里の居る陸上部部長が言うとスタートラインに部員は群がる。
「雪村さん、合図お願い」
「はい!それでは始めます。用意!」
愛里が手をパンと叩くと部員が走り始める。
「先生、私も行ってきます!」
後の事は顧問に任せ、先頭の半周遅れで愛里も走り始めた。
ハンデ、先頭の半周はサービスだ。
だが、そんなものすぐ取り返す。
「お先に!」
沢山の汗をかく事も無く、余裕でゴールする。
「雪村さんの圧勝ね」
走り終えた部長はゼーゼー息をしながら言う。
愛里が普通に部員達にタオルを渡す中、他の皆は倒れたのだった。