街の「学校」
改稿しました。撰述学校の説明の追加と世界の成り立ちなども話に加えました。
3人の少年少女(ピス以外人間の血が入っていないが、これ以降人型のものは竜人だろうとワーウルフだろうと、はたまたスライムであろうと人と呼ばせていただく。なお、人間はちゃんと「人間」と称するのでそこはご安心を)はおしゃべりしながらタビの学校まで戻ってきた。
この世界でも子供は学校に通う。私たちの世界と仕組みが似ているかもしれないがここで少々説明させていただこう。
まず、子供たちは5歳になると「基礎学校」というところに通う。どんなに小さな村でも必ず1つ存在するが、我々の言う小学校とだいたい同じところであると思って構わない。ここでは算数や言語、文字、国の歴史などを習う。小学校と違うのは体育の時間が多いことと、「魔術」という科目があることぐらいだろうか。給食は残念ながらなく、各家庭で用意した弁当を食べる。だいたい1つの村に学校は1つ、学級といった概念はなく5歳から12歳までの子供が1つの教室に一緒くたになって勉強をする。なので、学校と行っても大きなものではなく木造の平屋に教室が一つ、理科や調理といった多目的の実験室が1つ、先生が授業を準備するための部屋が1つと大変こじんまりしている。体育館といった大規模な施設なんかはなく、村全体が1つの校庭となっている。
子供が各々勉強し7年間、「基礎学校」に在籍すると先生から推薦という形で、進学先である「術練学校」に行く。これはほとんど中学校だ。村には「術練学校」はないので近くにある街まで通うか、街に下宿して働きながら勉強することになる。「術練学校」では3年間籍を置くことになるので15歳であるピス、ソド、ウィザも現在最上級生としてタビの街で下宿しながら生活していた。この学校では近隣の村から子供が多く集まり、3年間という短い在籍期間なので、1学年、2学年と1年ごとに科目を区切っていく。
「術練学校」は「基礎学校」で習ってきた科目をさらに発展させたものを勉強するが、ここでは現実世界とは全く異なる科目が2つ登場する。それが「剣術」と「魔術」である。なぜこの2つが学校で習われ、さらに重要視されるのかはこの世界の成り立ちに関係する。
1000年よりも以前はどの種族も文字を持っていなかった。現在とは異なりどの
種族も各自の言葉を持っていたが、文字は誰も持っていなかった。バラバラの言葉で意思疎通ができず、しばしば種族間でいさかいを起こしていた。世界は混沌に包まれ、力のある種族が暴力で無理やり支配する殺伐とした世界だったそうだ。なぜ、文字がないのにそれが後世に伝わっているのか、それは言葉を統一した1000年前からは現在の言葉で今までの口承だった歴史を書き留めているからだ。当時世界を1番広く支配していたのはルシファーを長とする堕天種であり、気に入らない種族を見つけると好き勝手に殺し楽しんでいた。その他にも覇龍種、竜人種といった強大な魔族がのさばり、他の種族は抗いたくても力の差がありすぎて抗うことができず、魔王を輩出する強大な種族の目に留まらないようおびえながら暮らす絶望的な時代だったという。
そんな時代に立ち上がったのは他のどの種族よりも力の弱い人間種だった。彼らは唯一の特徴である「勇気」を振り絞り世界を平和にするために動き出した。人間は自らの言語を捨ててどの種族も話すことができるような新しい言葉を手に入れた。それを背景に周りの種族と意思疎通をはかり、同盟を結ぶことに成功した。最初期に同盟を果たした種族は人間をふくめ「ドワーフ種」、「マーメイド種」、「エルフ種」、「ケットシ―種」で、現在はこれらの種族をまとめて5大種族と言われ平和を築いた象徴として他種族から尊敬されている。彼らと同盟したことにより人間は爆発的に力を増す。エルフからは「叡智」の結晶である魔術を、ドワーフからは「鍛冶」の現れである「剣」を、マーメイドからは「食べ物」を増やすすべを教えられ遠くに行けるようになり、ケットシ―からは「音」の技術を応用して他種族の情報を得られるようになった。こうして、瞬く間に人間と、同盟を結んだ種族の領域は拡大し地上である「表の世界」は1つの広大な国となった。
しかし同時期に魔王たちも人間の動きをまねて「裏の世界」である魔界において自ら言語を作り出し魔界に住む魔物たちに浸透させた。5大種族の増長を快く思わなかった魔物も、急速に拡大する「表の世界」の勢力をおそれ対抗する者たちとともに魔界に移り住み魔王に従った。魔王のなかでも特に強大な力をもつ種族、堕天種の長であるルシファーはその間もずっと魔界に君臨をし続け力と狡猾さで魔界を治めていた。
こうして世界は二分され、争い自体は減ったもののいがみ合う2つの勢力は刃を交えることを止めず、血は流れ続けるままだった。
そんな時代に現れたのが、勇者だった。彼は生まれた時から他の種族の長所をすべて持っていた。成長するにつれて周りにその力を示すと彼は讃えられいつしか「表の世界」の長になっていた。ちょうどその時期に起こったのが魔界からの大侵攻であった。魔王ルシファーは自分に比する存在を感知しそれを排除するために魔界軍を地上に送り込んだ。
地上の種族はなんとかこれを防ぎきる。そこで改めて魔界の危険性を知った
「表の世界」の民たちは癒えぬ体に鞭を打ち、逆に魔界に攻め入った。ここでルシファーは知る。勇者こそが自分に比する存在であり、表と裏の均衡が崩れていたと。
こうして勇者たちは1000年前のこの大戦に勝ち、魔王とその周りの力を削いだ。勇者たちは「裏の世界」を治め2度と争いが起こらないように言葉を1つにし、すべての民が互いの気持ちをわかるようになった。
また「剣術」と「魔術」を磨いて勇者たちが死んだ後も力の均衡が取れてしまわないように「表の世界」の民にそれらを教えさせ発展させた。こうしてできあがった教育システムが「学校」であり、1000年の間、「魔術」と「剣術」は力の強い種族にも平等に教えられ、強大な種族に対抗できるようになった。
時は流れ「魔剣術」は研鑽されいつしか人間の力が魔物の力を凌駕しあらそいはなくなっていったのである。
さて、3人は「術練学校」の最上級生だと説明したが、来年は「撰術学校」という種類の学校に進学する予定である。この学校は現実世界でいう高校と同じ、と言いたいところだが、形態は大学に近い。15歳から18歳までの子供がさらに大きな街にある「撰術学校」に通い、そこでは自分の得意とする分野の科目を専攻として履修する。3人のいるタビの街から近い撰述学校があるのは1つ山を越えたダバイの街や、大河の向こうのフェルの街などが該当する。それらの街の大きさはタビとは比べ物にならず、こちらの物差しで測ると50倍から100倍くらい大きい。
学校科目としては「剣術」や「魔術」といったほかに、農家の後を継ぐための「農学」や職人になるための「工学」、さらには「音学」というものすらある(音楽ではなく、「音学」)。ここで自分の最も得意とする術義、将来なりたい職業の技術を研鑽していく。料理人なら包丁さばきや調理魔法の習得、踊り子ならば祭事における儀式用の踊りやそれを演出するための魔法、もちろん兵隊になるためならば戦闘に応用できる剣術や攻撃魔法を習得していくのだ。
ここで、基本的には、3年間在籍し三年間磨き上げた自分の特技を披露するために卒業演目を行う。これを認められると卒業すると同時に晴れて成人したとみなされるのである。ただ、ピス、ソド、ウィザの3人はこの撰述学校に行くという選択肢がはたして本当に最善の道なのか悩んでいたのだった。
そのためにもタビの街に戻り、担任のフィロス先生に相談してみようと思っていたのだった。