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少年の名はピス

いろいろなファンタジー要素を詰め込んでいる作品にしようと思います。指輪物語あり、ギリシャ神話あり、ドラゴンあり、英語あり、かなりごっちゃになると思いますがよろしくお願いします。※改稿しました。細かいところを書き直しました。

街からほんの少し離れた大樹の根元、少年が一人気持ちよさそうに寝ていた。腕を後ろに組み枕代わりにしている。胸は規則正しく上下運動を繰り返し、木陰の隙間から見える表情も涼しげである。大樹から右手の方、東の方角に街があるのが見えるが人通りはそう多くない。例え道を歩く生き物が水色の不定型なスライムでも、田を耕す牛車を引いているのが豚の顔をしたオークであっても平和な田園風景そのものだった。ただし、いくつかこんな風景の中にも問題はある。その1つは大樹の元でいかにも気持ちよさそうに眠っている少年ピスだった。今は昼下がり、モンスターがとぼとぼ歩く異世界だったとしても少年少女が通う学校は存在している。当然この日も学校は朝から昼過ぎまで行われている。今この瞬間も街の中の学校では授業が行われていた。ちなみに科目は「剣術」で耳のいい種族なら街から微かな剣戟の音を聞き分けることができるだろう。剣の握り方や剣の種類、また「型」の習得、はては剣舞の仕方など剣にまつわるものを幅広く扱う科目である。この世界では殊更重要な科目であるにもかかわらず、少年は授業をさぼって1人郊外で寝ているのだった。

 

 どのくらい時間が経っただろうか、30分? 1時間? 寝ていた少年はこのように分からないかもしれないが、この少年をずっと見ていた我々からは1つの授業の初めから終わりまで、つまり50分ほど経過していた。(この世界にはタルという時間の概念が存在するが、読者の方々がいちいち頭の中で変換するのは面倒だと思うので以降は私が勝手にタルからそちらの分や時間といったものに変換させてもらおう)よほど、気持ちがいいのか未だに少年はスヤスヤと寝息をたてて眠っている。


 


太陽の位置が西に傾き始めると、東にあるタビの街から1組の少年少女が歩いてきた。大樹の根元で寝ている少年と見た目はそう違わず15歳くらい。少年の方は金髪でエルフの子供なのか、尖った耳をしている。いかにも活発そうで元気な子であるが身長が妙に低かった。少女の方は美少女と言っても差支えのないくらい顔や体の形が整っていて碧髪・碧眼ではあるがこれまたエルフの子供の特徴として尖った耳をしている。しかしエルフ種特有のつつましい胸などではなく体つきは齢15の少女にしては大人の色香を漂わせていた。


 大樹の根元にたどり着いた2人は寝ている少年の頭のそばに腰かけ、少年の頭を叩いたり、耳を引っ張ったりして容赦なく起こした。授業をさぼった少年がこんなところで気持ちよさそうに寝ているのだから当然と言えば当然だ。


「おーい、ピス! いい加減起きろ!」


少年のソドは耳元でやかましくいう。少女のウィザも耳を引っ張りながら


「起きないと頭に水をかけちゃうよー」


と、さりげなく脅し文句を吐いていた。


頭をたたく動作を数度繰り返したが少年が起きる気配がない。夢の果てへと飛んでしまっているようだ。仕方ないと少年ソドはため息をついて少女ウィザの方に顔を向けた。


「しょうがねぇ、ウィザ、思いっきりやってくれ」


そういうと、ウィザは待ってましたとばかりに笑顔でうなずく。いつも微笑んでいることが多い少女ウィザだったがこの時のはいつものソレとは異なり目が笑っていない。ただ、それは周りから見れば茶目っ気のある笑い方であり、彼女の魅力を最大限に引き出していた。少女が笑顔なのに対し、少年の方はいかにも申し訳なさそうな顔をしては、両手を顔の前で合わせこうつぶやいた。口調もいつになく演技をしているようなわざとらしさがある。


「先に謝っておく。すまん、でもこうするしかないんだ」


すると、少女は両手を前に突き出し、手のひらをいっぱいに広げ、力を込めた。すると手の周りが青色に光り出す。十分に魔法の力が溜まった後、少女の口から呪文が唱えられる。普段なら呪文を唱えなくても魔法を使えるのだが、こうすることでより強力な力を引き出すことができた。それだけ寝ている少年に容赦のない鉄槌を食らわそうとしているのだ。直後、眠っている少年の頭上に氷水が現れて重力に逆らわず、まっさかさまに少年の頭へ落ちていった。


「痛、冷たい! なんだこれ!」


顔がびしょ濡れになり、氷の礫が遠慮なく頭に打ちつけられた少年は上半身をがばっと起こした。

「おはよう、ピス」


少女ウィザがにっこりピスと呼ばれた少年に笑いかける。傍らにいる少年ソドは相変わらず両手を合わせてお地蔵のように動かない。ただ、微妙に体全体が震えている。どうやら謝っているようで本当は笑いをかみ殺しているようだった。


「ひどいじゃないか、ウィザ!」


「しょうがないじゃない、あなたが全然起きないんだもの」


ウィザは当然のように反論する。この場合はもちろん学校をさぼり、その上全然起きなかったピスの方が悪い


「そうだぞ、ピス。お前が起きてさえいれば……、ってもうだめだ。笑いが収まらない、ひっでぇ顔だ!」


そう指摘したソドは腹を抱えて爆笑し始めた。彼が笑うのも無理はない。ウィザの水(とついでに氷)の魔法をぶっかけられ飛び起きたはいいものの、右目はまだ半分しか開いていない。おまけに髪はぐっしょりとしていていつも立っているのに水のせいで七三分けのようになっていた。おまけにその髪の上には氷が挟まっている。


「これに懲りたら、いくら剣術の授業に出たくなくてもさぼらずにせめて見学ぐらいはしてね」


ウィザとソドはピスが剣術の授業にも魔術の授業にも出たがらない理由を知っている。その理由を考えればさぼらせてやってもいいかとつい情をかけたくなるが、授業中一人気持ちよく寝ていたことを考えると許してはやらなかった。


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