1束 終わりの時
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「主が…鳥居…元忠で、あるか」
燃え落ちる伏見城の最奥の評定の間に、その男はいた。下座に座すその男は、孫一の想像していた人物とは、遠くかけ離れていた。
包囲する宇喜多、小早川らの兵はその数四万、それに対し、伏見城を守る兵は僅か千八百。
どう見ても結果は目に見えていた。
包囲軍は毛利輝元の名で降伏を勧告。抵抗するはずなどないと決めつけていた。
だが、元忠はこれを断固拒否。城門を閉じ、篝火を焚き、徹底抗戦の構えを見せた。
これを見た包囲軍は伏見城への力攻めを決行。『いくら堅城として名高い伏見城と言えども、さすが兵力に開きがありすぎる。三日と持たずに楽城するであろう。』誰もがそう思っていた。
だが、予想に反し、元忠率いる、徳川軍は三河武士自慢の精強さと統率力を武器に、十日に及ぶ激しい抵抗を繰り広げた。
しかし、一計を案じた包囲軍側の長束正家による、甲賀衆調略により、伏見城に火が放たれた。
それにより城内方は混乱。抵抗虚しく、こうして鈴木孫一にとうとう本丸まで辿り着かれてしまった。
孫一は正直、元忠という武将に興味と畏敬の念を抱いていた。
孫一はこの伏見城攻略の先鋒を任されており、その抵抗の激しさを身を以て実感している。
足を、手を斬られても這ってでも敵を討とうとするその姿、まさしく
–––死兵–––。
その忠義の兵を統べる者とは如何なる人物か。
剛の者かはたまた智の者か。
しかしそこにいたのは、髭も髪も伸び放題の骸骨のように痩せ細った老将であった。
正直言って、甲冑を身につけていなければとてもではないが、武人には見えない。
その男が眠っているかのように、目を閉じ、正座をし崩れ落ちる城の最奥で悠々と構えている。
天井は絶え間なく崩れていく。
しかし、元忠の周り畳三畳分ほどだけ、火は燃え移っていない。孫一は何とも言えないような、元忠と元忠の周りだけ時の止まったような光景に呆気に取られていた。
いや、足がすくんでいた、と言う方が正しいだろう。
孫一は重秀の息子であり、雑賀党をまとめるだけあって、人並み以上の武勇は持ち合わせている。それ故に、幾多の死線を掻い潜ってきた。
元忠の発する。その気迫。その鬼気迫るものに、孫一の経験と直感が彼にに告げる。
はっきりと。“危険”だ、と。
少しずつ、じりじりと距離を詰めてくる孫一を前に、元忠は昔を回想していた。