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異世界リース物語  作者: ジーン
第一章 
2/28

ある神官の日常

 西暦2018年2月某日


 私の名前は矢萩ルイス。母が日系欧州人で髪がプラチナブロンドですが、顔立ちは日本人なのであまり外国人(ハーフ)だとは思われません。

 現在公立高校に通う私には、産んでくれた親にも言っていないある秘密があります。

 私は異世界(リースと呼ばれる世界)から勇者を探す為にこの世界にやってきたしがない神官の1人です。この世界の日本という国で勇者を探しているんです。


 ………はい。私は中二病ではないです。中二でもありません。

 この世界でできた、ライトノベルが好きな所謂オタクな友人にもしこの事を言えば「中二乙ww」と笑われて冗談だと思われるか、真面目な顔をして病院を紹介してくるかの二択しか思い浮かびませんが、本当に勇者を探しに来た神官なんです。

 

 私が地界(ちきゅう)のまだ魂の宿っていなかった胎児に憑依したのはもう16年も前のことです。が、勇者はまだ見つけられないでいます。


 私は学校へ登校する途中で、何度考えたかわからない事を思い浮かべました。

 そもそも勇者の条件が難しすぎるんです。

 神の加護と精霊の加護がMAXで受けられて、尚且つ今の生活を捨ててまで異世界へ渡ってくれる人を探さなければなりません。


 といっても、前提条件の神の加護と精霊の加護がMAXで受けられる人が未だに一人たりとも見つかってないんですけどね……。

 自分で言っておいてなんですけど、この世界にそんな化物…ごほんごほんっ人間離れした人が本当に存在するのか正直なところ半信半疑です。


 リースには魔力と呼ばれる力があります。魔力は2種類あります。

 体内に作用する生命神力と、体外に作用する自然精霊力をまとめて魔力と言っています。

 どちらも同じ力なのですが、作用の違いで一応分類しているんです。


 神の加護と精霊の加護とはこの二つの力の事です。

 二つの力は人間に当て嵌めると、一定の限界が存在しています。

 普通の人の魔力を1とすると、どんなに魔力の適正があっても人の限界値は10程度です。これは世界(リース)の理であり、覆る事の無いものです。


 ですが、それはあくまでもリースの人間の話です。


 リースとは異なる世界、この地球の人間ならば話は大きく変わってきます。リースの理が当てはまるのは、リースの魂を持つ人だけなのです。

 リースの人間の限界値が10だったとしても、この世界の人間ならば100にもなれる可能性があるということなのです。


 具体的にどんな人物が当て嵌まるのかというと、魔力が一定以上に高くて体力もある人です。


 …………今、え?って思いましたよね。あなたの疑問はごもっともです。

 地球(こっち)に来てから知ったのですが、この世界の人ってそもそもリースでいうところの魔力に当て嵌まるものをほとんど持って無かったんですよね……。

 少なからず魔力(のようなもの)は皆もっているんですけど、リースの生き物と比べると無いと言っても差し支えないぐらい微々たるものなんですよ。


 ちなみに神官(わたし)達の求めている魔力の水準を満たす人が仮にこの世界にいたら、個人で1つの国を頑張れば征服できるぐらいの強さがある、とだけ言っておきましょう。

 地界に行く前は、どんな強い生き物が闊歩している世界なのかと戦々恐々としていただけに、この事実には良い意味でも悪い意味でも予想を裏切られました。

 この世界で勇者を探すには、どれだけ無茶な条件を課されているのか、現在身をもって実感しています。


 ……というか既に詰んでないですか?これ。


 

 冷や汗しか流れない事実に泣きそうになったのは、1度や2度どころではありません。それでも今まで何とか頑張って探してきたんですよ。

 

 私はある精霊に気に入られていて、その精霊と魂を半分一体化している状態にあります。だから精霊の力を自在に行使して、この世界で言うところの魔力を強く感じる場所を探したりする事も出来るんです。


 私は自由に動ける年になると、まず情報収集をして勇者のいそうな場所を特定する事から始めました。この時はまだ使命感に燃えていました。

 こちらの世界のインターネットには随分とお世話になりましたよ。

 書籍関連なども調べて、動ける範囲であちこち探しまわったりもしました。でも空振りに次ぐ空振りで意識をシャットアウトしたくなりました。


 あと、この世界に来て2つ目に予想外だった事なんですが……人が多すぎます!!

 私の他にあと二人は日本に神官はいる筈だけれど、勇者を闇雲に探した所で見つかるとは到底思えません。

 私以外の神官は私みたいに精霊と魂の半分を一体化している訳でもないので、勇者を一人ひとり探すしかないんです。

 なのに、この国だけで人口が一億人オーバーって何なんですか!?

 何となく人の多い国だとは、文字も読めなかった幼いころから思っていた事ですけど、それを知った時の衝撃は今でも忘れられません。


 私の所属している国、ロウ・リース神聖国の総人口は約200万人ですが、リリアス大陸では大国の一つに数えられています。

 大陸で一番大きな国でさえ約5000万人です。

 わたしは当時、この受け入れ難い事実に乾いた笑いしか出て来ませんでした。


 もう唯一の頼みの綱は、リースに伝わっている光の勇者伝説だけです。

 光の勇者とは、遥か昔に魔物を滅ぼすためにこの世界からリースに召喚されたという人間のことです。

 光の勇者はリースのどんな人間より強く、混乱していた世界を仲間と共に救ったと言われています。


 その伝説を頼りに私たちはここまでやって来たのですが、年月が経つほどにこの世界には居ないのではないかという思いが強くなっていき、伝説自体が眉唾だったのではと思ってしまいそうになります。

 




 足取り重く、私は通い始めてもうすぐ1年経つ高校の敷地に足を踏み入れました。

 本当なら学校に通わず勇者を探したいところですけど、もし私以外の神官が勇者を見つけてリースに連れ帰ったら、私はこのままこの世界で一生を過ごす事になるんです。そういう条件で私たちはこの世界にやって来れたんです。


 この世界で生きる為にもこの世界の常識や法を知っておかなければならないし、親の庇護を得ている身なので最低限の望まれている事はしておきたいのです。友人もできましたし。


 リースでは親も親しい友人もいなかったので(頼れる同僚や部下はいましたが)、初めてできた関係をこちらでぐらいは出来る限り大切にしたいと思ってるんです。

 そういう訳で今のところ学業以外の時間、放課後や休日のほとんど全てを精霊の力を行使して勇者探しをしている……のだけれど、全然見つかる素振りもありません。

 

 私は自分のクラスにたどり着き、席に座り思わずため息を吐きました。


「おはよ、ルイス」

「おはようございます」

 同じクラスの友人が話しかけてきました。髪をポニーテールに結っていて明るい性格で、オタク或いは腐女子と呼ばれている私の数少ない友人の一人です。


「ため息なんて吐いてどうしたの?美人が台無しだよ~」

「ちょっと考え事してただけですよ」

「ふ~ん」

 私は机の上に頭を乗せて見上げてくる友人に曖昧に答えました。誰にも相談の出来ない事を考えていたので少し焦ります。

「そういえば今日は何からだっけ」

 そんなに気にならなかったのか現在差し迫った話題に変わりました。少しほっとしながら答えを返します。

「数学からですよ」

「そうだったそうだった~」

 友人がのんきそうに笑います。今はテスト期間で今日はその三日目です。

 というか黒板に今日の予定は書かれていますが、そんな些細な事は指摘しないで会話は続行です。


「フッフッフ。今回はちゃんと勉強したぜ」

「皆さんで勉強会してたんですよね」

 私も誘われましたけど諸事情(勇者探し)で参加していません……。

「おうとも!めざせ!打倒‘つ-’!!」

「えっ?」

「今回私達、打倒‘つ-’を目指してんのよ~」


 ‘つ-’というのは私達の共通の友人の事です。名前の頭文字をとってそう呼ばれています。

 本人曰く名前は気に入ってるけど他人から呼ばれるのはあんまり好きじゃない、だそうなので勝手にあだ名を付けられたみたいです。

 ちなみに私は付き合いが長いので、といっても小学校の五年生からですが、そのまま名前で呼んでいます。と、話が逸れました。


「何かあったんですか?」

「うん。聞いてよ~。私達がつ-を勉強会に誘ったら、お前らと勉強なんてしても捗るわけねぇだろボケが。みたいな事を蔑んだ目で言われたんだよ~!あのヤロ-絶対負かす。」

「そ、そうですか」

 多分そこまでは言ってないだろうと思いながらも肯定も否定も出来ず、適当に相槌を打つしかできませんでした。


「そういえばさ~もうすぐ全橙夜湖(ゼントウヤコ)の新刊が出るよね」

 いつの間にか持っていた数学のノートを見ながらさっきの話しは終わったとばかりに話題は変わりました。


 全橙夜湖とは[精霊と異世界珍道中]というファンタジー小説の作者です。なぜそんな事を私が知っているのかというと、[勇者][異世界]という単語が付くのは片っ端から調べたからです。

 今のところ勇者への手掛かりはまったくありませんが、個人的に気になる小説は何冊かありました。

 私の世界、リースによく似た世界が舞台になっている小説です。

 その小説のなかでもさらにリースに酷似しているのが、全橙夜湖(ゼントウヤコ)の[精霊と異世界珍道中]なのです。


「新刊ですか。楽しみですね」

「ね~今度はどんな国に行ってたんだろ」

 はい。実は全橙夜湖さんはファンタジー小説は最初の一冊の[精霊と異世界珍道中]しか書いていません。

 それ以降に出した本は全て、旅日記という感じのブログを元にしたエッセイです。私が勇者関連以外の本で趣味で読んでいるのは、この作者の本だけだったりします。



 そうこうして色々喋っている内にチャイムがなりました。

 今日もテストが終わった後の予定は、勇者探しです。

次が主人公回です!

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