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異世界リース物語  作者: ジーン
第二章
19/28

6ヶ月後

 リース暦3000年12月20日風の日


 妹ができました。


 5日前の12月15日の精霊の日に、母様の勤めている治癒院で妹は無事に産まれた。

 初めての姉妹(きょうだい)だ。母様譲りの濃いブラウンの髪に明るい茶色の瞳でなんか知らんがすごく可愛く見える。

 あと数日もすれば、治癒院に入院している母様は妹と一緒に家に帰れるようになる。この日私は久しぶりに(といっても2日ぶりだが)父様と一緒に母様と妹の様子を見たあと、2人で家に帰った。


 いや-無事に産まれて本当に良かった。母子ともに健康だし、これから賑やかになりそうだ。

 妹の名前はアリシアと名付けられた。私の名前も妹の名前も大昔にいた聖人の名にあやかっているらしい。

 どっちも欧米人のような名前だが、文字にするとエル/ナ・ヴァ/セット、アリ/シア・ヴァ/セットと分けられるのだ。つまり文字数は4文字しかなかったりする。文体は日本語とあまり変わらないが、文字はどっちかというと漢字っぽい成り立ちなのだ。だが見た目が漢字というよりはローマ字っぽい。

 例えば木という字は英語だとtreeだけどリリアス大陸共通語だと¢で木という意味になる。読み方はトゥリだ。ちなみにお金の単位であるpt(ポイント)はこちらでは文字ではなく記号だったりする。\や$のようなものなのだ。


 家に着くと父様が夕飯を作ってくれる。私も少しだが手伝っていた。

 卵のような木の実やらキャベツのような野菜があって、それを切ったり混ぜたりした。

 体が小さいので昔できていたことが思う通りにできなくて初めは苛ついたが、今では手早く手伝いをこなせる。


 元々簡単な料理は作れたのだ。前の父と母は仕事人間で帰りが遅く、よくお金だけリビングの机に置いてあった。仕事人間だけあって2人とも稼ぎがよかったようだが、一食分に2000円を小学生に渡すのはどうかと思う。まぁ小遣いもその中に含まれていたみたいだが。

 月の半分は外食ができたが、小学校の高学年ぐらいになると自分で作った方が安く済んでその分新しい本が買えると気付いて自炊するようになった。凝ったものは作れないが30分で作れる料理本とかを買ったりして高校生まで作り続けていたので、同い年の子よりは料理ができたと思う。

 まぁこれを今の母様と父様に言ったらまた誤解させそうなので言わないが。


 夕飯を食べ終えて食器を洗う。

 魔力で桶に出したお湯で、洗剤代わりになる植物の粉をスポンジにつけて洗う。

 水は使い終えたら生ゴミバケツに入れる。魔力でつくられた水は時間が経てばまた純粋な魔力に還元されるのでバケツの中には食べかすしか残らない。溜まれば肥料にもなったりするようだ。


 上下水道は完備されているが、少量の水だと魔力で出した方が早いのだ。というかそもそもキッチンに水道がない。飲み水は魔力で賄えるのだ。水道があるのは一度に大量の水を使う風呂場や、日に何度も使うトイレぐらいだろう。洗濯機の近くにもあるな。

 火にいたってはガスがないみたいだし。考えるとかなりエコロジーな生活をしている。

 

 私は食器を棚に片付けて、お腹が一杯で幸せな気持ちになりながら自分の部屋に戻った。

 ベッドに仰向けに寝転び、一息ついた。


 3ヶ月前はルイスの事ですごくピリピリしていたのだが、今はあまりそんな事はなかった。

 あれから特に何も無かったのだ。私は一人で空回っていただけだったのかもしれない。日々は何事もなく平穏無事に過ぎていき、何時までも緊張している事もできなかった。

 というかこれから何か起こるなら、はっきり言って遅すぎるだろう。まだ少し不安は残っているが、日々の小さな幸せに少しずつ気持ちが緩んでいた。


 唯一攻撃魔術の練習の時だけは流石に真剣に取り組んでいる。

 私は攻撃魔術の基礎をこの3ヶ月で全てできるようになっていた。今では水属性以外の属性、火弾や風弾、土弾も完璧に操れる。


 防御魔術の基礎も習ったが、こちらは最初からすぐにできた。

 防御魔術は基本的には土属性だけだ。土を増幅して造りだし、指定した場所により速くより固い防壁を作るのが防御魔術だ。

 攻撃魔術に比べたら随分簡単だった。まぁ攻撃魔術を習ったあとだからそう言えるのかもしれないが。


 基礎を全部できるようになったのが今から約1ヶ月半前だ。

 基礎を覚えると当然のようにその先もしたくなり、アンヌにそれとなく頼んでみたがやはり駄目だった。

 これ以上は危険なのでこのまま基礎の練習を続けなさいと言われたのだ。その時は少し不安になって焦っていたのもあったのだが、危機感が薄くなった今は無理に先に進まなくてもいいのではないかと思えていた。


 基礎魔術はけっこう奥が深くてこの1ヶ月半、実は習った事以外にも色々試してみたりしていた。

 まず攻撃魔術の基礎1-1の水弾だが、普通これに込める魔力は数値にすると30~50くらいだ。これぐらいの量の魔力でつくる水弾が最もうまく発動するからだ。それ以上の魔力だと圧縮が難しくて水弾自体が大きくなってしまい、速さも精度も落ちると本に書かれていた。

 だけど私は基礎しかできないならもっと威力のある水弾が撃ちたかったのと、少し自棄になっていたのもあって100ぐらいの魔力で水弾を作ってみたのだが、普通に圧縮できてしまった。

 できるとは思っていなかったので驚いて最初は消してしまったが、同じように発動した水弾を木の的に当ててみた。そしたら水弾では壊れないと言われていた分厚い木の的が木っ端微塵になったのだ。


 これは使えると思った私は、もっと威力を上げてみたくなった。威力があってもあくまでも基礎だから大丈夫と自分に言い聞かせて、その日から基礎魔術の威力を如何に高めるかを考えてきた。


 魔術にとって一番重要なものはイメ-ジだ。魔力は術師の意思によって形を変える。どうやったって出来ない事はあるだろうが、どこまでできるのか自分で試してみたのだ。

 その為に私が参考にしたのが漫画やアニメのイメージだ。ゲームとかは生憎ほとんどしたことがなかったが、まぁ何とかなった。


 というか今更だが、一般的に魔法なんて無いと思われている世界(ちきゅう)で何であんなに魔法の種類が多くあるんだろう。

 この世界の魔術用語のほとんどを日本語にあっさり変換できてしまえるし、どんなものかある程度予測できるなんておかし過ぎるだろ。ものすごく助かっているので文句なんてないのだけれど。


 漫画やアニメでは魔法とか超能力が、想像と妄想と多少の現実を織り交ぜてかなり幅広く作られている。つまりはそのおおよそが空想で、その能力の限界は作者の匙加減一つということだ。


 という訳で頭の中で映像として流しやすいアニメや漫画をイメ-ジしながら、『人に限界なんてないんだ、能力の限界を突破してみようぜ!』みたいな軽いノリで、できない事をできるだろうと仮定して無茶な事をしてみたのだ。

 あの時はストレスで多少テンションが変な方向に振り切れていたので、今思うと少しぐらいは反省しないでもないのだが……。

 

 しかし大層な事は思っていたが、具体的には水弾に1度に込める魔力の量を段々と上げていっただけだ。

 感覚で100ぐらいの水弾から初めて、毎日100ずつ上乗せしていった。

 魔力はそれ自体は知覚できるものではないが、出現させる水の量で大体の魔力値を把握する事はできるのだ。

 ちなみに的はすでに破壊してしまっていたため、防御魔術で作った土壁を新しい的にした。


 防御魔術は込めた魔力の大きさで固さや面積を変えられる。大体これぐらいの面積にこれぐらいの魔力が最適と決まっているが、同じ量の魔力を込めても固さを優先するか面積を優先するかで色々と応用できるのだ。

 私は手始めに魔力を100ほど使って小さめの固い的を作って面白魔術実験……じゃなくて魔術練習をしてみた。



 結果からいうと、この試みは大成功だった。


 1日目に50の水弾から初めて100の水弾に成功。そのまま魔力がある程度減るまで100の水弾を撃ち続ける。1日ずつ焦らないように、前の日の復習から初めて1段階ずつ魔力を上げていった。

 2日目には200の水弾が成功。3日目は300成功。4日目400成功。5日目500成功。

 威力は魔力に比例してどんどん上がっていき、400の水弾で土壁が壊れてしまった。


 防御魔術にも応用できるのではと気付き、魔力量の設定を無視して500ぐらいの魔力を込めて、前よりも固いが面積は同じ土壁に作り直した。もう鉄と言っても大差のない固さに仕上がった。


 そして9日目、水弾に900の魔力を込めるところまでいくとある異変が起きた。使って減ったはずの魔力が戻っている気がしたのだ。その時残っていた魔力値は2000も無いはずだったが、100から初めて900ぐらいの水弾を撃ち始めてから何故か魔力が減った感じがしなくなった。

 正確に言うなら、一瞬減ったはずなのに次の瞬間には減った以上に増えているような気がしたのだ。気のせいかと思ったがやはり違った。本当に増えていたのだ。


 魔術を使うと、身体の周りにある圧力みたいなものがほんの少し小さくなる。これがたぶん魔力なのだが、50くらいの水弾の時はそんなに大幅な変化は感じない。だが900の水弾では分かりやすく圧力が減ったと感じたあとに、次の瞬間には減った以上の魔力が戻っていたのだ。

 試しに900の水弾を何発か撃ってみたのだが、魔力はむしろ溜まっていく一方だった。そのあとに900以下の水弾を撃ってみたが、魔力はただ減るだけだった。


 私の魔力値が8000というのは間違いないだろう。だけど魔力が元の魔力値まで戻る時間が、900の水弾の時からものすごく短縮されていたのだ。


 原因は少し考えるとすぐに思い至った。


 魔力というのは時間に比例して溜まっていくのが普通だが、それは威力の低い魔術を使った時の話だ。

 魔術の上位術である精霊魔術を使う時は少し違ってくる。

 精霊魔術で使って減った魔力は減るには減るのだが、契約した精霊がなんと幾らか補充してくれるのだ。


 もちろんこの時私は精霊魔術なんて使ってはいない。

 では私の傍にいる風の精霊が何らかの理由で補充しているのではないかというと、それも違うように思う。使っていた魔術の属性だって違うし。

 だけど精霊が魔力を補充してくれているというのは間違いないだろう。理由は契約をしていなくても、魔力が補充される可能性が1つだけあったからだ。


 精霊は属性ありきではない。むしろ精霊の好みが高じて属性が付加されているといわれている。

 つまり風の精霊だったら風が好きだったからいつの間にか風属性になってた、みたいな感じなのだそうだ。


 そこを踏まえて精霊魔術は習うのだが、精霊は自分では作れないような派手な魔術が好きらしい。

 そのため攻撃魔術の応用になると、水の竜やら火の矢とか見た目が派手で難易度の高い魔術が多くなる。

 先に派手で完成度の高い魔術を組み上げて精霊の気を引いておいて、魔術発動時に精霊語や精霊魔術式陣を使って、精霊と魔術一回分の簡易契約を結ぶ。

 精霊魔術というのは、発動する魔術が精霊に気に入られて初めて発動するという術なのだ。


 簡易契約を結んだ精霊は、術師の魔力を少し貰う事でどんな魔術かを理解するらしい。そして発動する魔術にさらに周囲の魔力を足して術師の意思通りに発動するように、魔力の細かい操作を担当してくれているらしい。


 精霊がその時使った魔力を補充してくれるのも親切心とかではなくて、さっきの魔術もう一回やってよという精霊からのアンコールみたいなものらしいのだ。

 精霊魔術を使う人はその威力の大きさを重要視しているが、簡易契約を結んだ精霊が魔力を補充してくれる事も同じくらい重要に思っている。

 簡易契約とは、魔力の受け渡しを円滑にする役割を担っているのだ。だが別に簡易契約をしなければ魔力の受け渡しができない訳ではない。


 大体100~500の魔力で発動する攻撃の応用魔術に精霊は反応を示す。

 簡易契約を結んだ精霊の魔力を足して、合計で1000以上の魔力値の魔術を発動するのが精霊魔術だ。

 私の魔術に精霊が反応したのが、水弾だと900からだった。本を読んだ限り、900の水弾というのは400~500の攻撃の応用魔術、水竜(ウォータードラゴン)とかに匹敵していたのだろうと推測される。

 理由は魔力が100%以上補充されるのがそのあたりからだからだ。


 込めた魔力が高いと精霊は反応しやすいと何かの本で読んだし、何故いきなり900からなのかは謎だが、その辺にいる下位精霊とか中位精霊が勝手に反応したのだと思う。

 


 とある本にもこんな描写があった。

 強力な魔術を使って戦う英雄が出てくる物語なのだが、その英雄は私みたいに精霊が見えなかった。しかもまだ精霊魔術が普及していなかった時代の話で、英雄はただの魔術しか使えないのだ。

 だが美しくて強力な魔術が使えたので、英雄の周りにいた精霊達が次から次へと魔力を分け与えていったというのだ。この英雄はたぶん私と同じような状況だったのだと思う。


 というか本といってもただの子ども向けの絵本だ。

 ある国の伝承らしかったが、私はてっきりフィクションだと思っていた。だけど案外実話だったのかもしれない。


 900以上の水弾がそもそもなぜできたのか自体は分からないが、それほど変な事でもないだろう。

 [攻撃魔術・防御魔術一覧]という本には、500以上の魔力で発動する魔術はほとんど載っていない。だが、魔術は術師のイメージで形成されているのだ。

 できたのは私が持っている中途半端な知識や、記憶が関係しているような気もしなくはないが、むしろ何でこの世界でできない事になっているんだという感じだ。




 高い魔力を込めることで、攻撃の基礎魔術でも精霊が魔力を補充してくれると分かったあとも色々と実験をしてみた。


 水弾は900以上の魔力を込めると、使った魔力が100%以上補充される。

 水弾の限界値に挑戦してみたが4500が限界だった。それ以上はそもそも圧縮までいかなかった。


 火弾は1500以上の魔力を込めると、魔力が100%以上補充された。火弾の限界値は5500だ。

 どうやら属性によって随分ムラがあるみたいだった。


 土弾は2000以上の魔力で、100%以上補充された。限界値は4000だ。防御魔術の土壁も同じく。


 風弾は1000以上の魔力で、100%以上補充された。だが限界値はよく分からなかった。

 6000以上はできたのだけど、威力が大き過ぎたためにびびってそれ以上を試せなかったのである。

 4000の魔力で作った土壁が木っ端微塵になったところで実験は断念した。しかし気のせいか、風属性の魔術は他の属性よりも魔力の補充率が多いように感じる。

 もしかしたら傍にいる風の精霊のせいかもしれないが、それを確かめる術は無かった。



 魔力が減らないなら永遠に魔術を使い続けられるかというと、そうでもなかった。

 普通は魔力を使っても、魔力切れは起こすが体力は十分に残っているはずなのだ。

 だが私の場合、魔力は常に満タンだが体力が先になくなってしまい魔術が使えなくなる、という事が判明した。


 2秒間に1000の魔力の風弾を1発撃てるとして、撃ち続けたら体感5分も保てないのだ。

 いや、頑張ればもっと撃てるかもしれないのだが、多分死ぬ。そんな気がしたので試そうとは思えなかった。それにしたって15万以上の魔力を消費したことになっているのだ。無理は禁物だろう。

 というか正確な記録をとるために腕時計が欲しかった。屋外なので時間が分からなくて正確な数値とかが記録しにくいのだ。



 私は攻撃魔術の実験、じゃなくて練習をのめり込んでいたせいでこの時あることに気付けていなかった。

 まぁその、なんというか、アンヌにおもいっきり見られていたのだ。


 土壁の破壊音が家の外から何度何度も聞こえていたら、秘密にしてようが気付かれないはずが無かったのだ。

 私は部屋からは見えないし、魔術を使っているところを直接見られなければ大丈夫かな~とか安易に思っていたのだが、そんなに甘い訳がなかった。

 当然ですよね-。


 バレて怒られるかと思いきや、驚かして呆れられはしたが怒られはしなかった。

 母様と父様にも一応報告されて危険がないようにとは注意はされたが、2人にはむしろすごいと褒められた。

 外見幼児が危険な魔術を使っていたら心配されるだろうが、私の精神年齢は16なのでそんな心配もされなかったようだ。魔物のいる世界なのだ。子どもが強いというのは怒られるような事ではなかったのだ。

 みんなの許可ももらって、今では堂々と家の庭先で練習できるようになっていた。


 そんな訳で私はこれからも、攻撃魔術の実験をしていきたいと思います。

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