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異世界リース物語  作者: ジーン
第二章
18/28

3ヶ月後

 リース暦3000年9月20日風の日


 朝起きて着替える。

 ご飯の時間まではまだ時間があったので、私はベッドに腰掛けたまま動かなかった。

 力を抜くためにふぅと息を吐く。

 ここ最近はずっと憂鬱な気分だった。原因は勿論あのヤロウ、ルイスのせいだ。


 今から1週間前に母様に神官からの連絡があった。私は遂に見付かったのかと思い、緊張した面持ちで帰って来た母様から話を聞いた。

 だが実際はそんな人物はいなかったという報告だったのだ。私は一瞬目の前の物が見えなくなり茫然とした。期待していた分、衝撃を受けて言葉も無かった。

 母様に声を掛けられて正気に戻り、3人で話し合う事にした。

 まず見落としは無かったのかと尋ねたが、その可能性は低いという。


 神官には独自のネットワークが存在している。情報の保管や通信を精霊が担っているので俗に精霊ネットと呼ばれていて、この大陸にいる神官は全てこれに登録されているらしい。

 これはある程度の権限を持っている神官ならば閲覧することが可能だ。名前も容姿も分かっていてかなり具体的な情報も手元にある。ルイスは姿形を変えられるようだが、そういうのは幻惑の精霊と呼ばれる珍しい精霊の力を借りなければならないので、逆に探す手掛かりになり見落としは万に一つもないと言われたのだ。

 神官の情報はこの世界の秩序を守るために重要な生命線でもあるので、個人情報がかなり細かく設定されて記録されている。大精霊と契約している人物は、その希少性から例外的に名前も具体的な所属も秘匿されているらしいが、今回は元から名前も外見も分かっていたので探していて見落とすというのはあまり考えられないらしかった。


 調べてくれた神官は精霊ネットで過去50年程まで見落としがないか何度も調べてくれた以外にも、青い神官服に当てはまる国の神官に直接問い合わせてくれたりしたらしい。

 だが該当する人物は一人もいなかったそうだ。故意に隠されている可能性は無いのかと聞いたが、その可能性も低いらしい。


 この世界の神官は悪意のある嘘を吐く事ができない。精霊は嘘を見抜くからだ。嘘を吐けば精霊に嫌われて力を借りれなくなるらしい。なので故意に隠されているとしても精霊が近くにいれば、嘘を吐かれていれば分かるというのだ。情報の隠蔽をするのもそんな訳で不可能らしい。

 

 だが、精霊に言う事を聞かせて口止めできるような奴が相手なのだ。

 精霊というのは自由なものなのだ。エルファ族のクロッドさんが言っていたように、風の精霊はとくにそうだ。何の理由も無く1箇所に数年も留まることはありえないはずなのだ。

 私の監視か、あるいは見守らせているだけなのか意図は分からない。しかし、精霊のことはよく分からないが、そんな事ができる人間が神官以外にいるのだろうか。ルイスが隠されている、又は隠れている可能性は無視できないだろう。


 こうなると神官をどこまで信じていいのかも分からないものだ。ルイスの目的が分からない以上、神官全体がグルだったとしてもそれを確かめる術が無いのだ。

 しかしそうだとすれば、私に会いに来ない理由も分からない。もし故意に隠されているなら、今回のことで私がルイスを探しているのは本人にもきっと伝わっているはずだろう。だがそれに関しては幾ら理由を考えても分からなかった。


 ……もしかしたらルイスは別に神官ではないのかもしれない。

 なにせルイスはリース条約を破っているかもしれないのだ。

 神官はむしろそれを取り締まる方ではないのか。神官はルイスの敵という可能性もあるかもしれない。


 私は早まった事をしてしまったのではないだろうか。そうだとしたら、この事がこれからどんな影響を及ぼすのか想像が付かない。

 悪い事が起こるのではないかと、頭の中がぐちゃぐちゃになり身体が小刻みに震えた。


 夜も遅くなったので、次の日にまた話し合う事にしてこの日はそのまま就寝した。

 眠っても不安は拭えなかった。




 次の日、ルイスが見付からなかった原因を3人でまとめた。

 もう何度考えたか分からないが、私はつくづく今生(?)は両親に恵まれていると思う。


 可能性は前の日に考えられたものを含めて幾つか挙げられた。


一、探してくれた神官に何か見落としがあった。もしくは私の情報に何か欠陥があった。

二、誰かが故意に隠している。

三、そもそも神官じゃなかった。

 

 一はその神官がルイスとグルでないのだとすれば、可能性としては低い。私にも何か見落としている事があるかもしれないが、現時点では思いつかなかった。

 神官には引き続き母様が探してくれるように頼んでくれるそうだが、あまり期待はできないだろう。


 二だとするとかなりややこしい事になってくる。

 ルイスが神官だとしてそれを隠しているとすると、自力で探し出すのは難しいのだ。

 神官同士の情報のやり取りは難しくないみたいなのだが、神官以外の者が神官を調べるというのは非常に困難なことみたいなのだ。

 神官はその絶対数が少ないためにロウ・リース神聖国というリリアス大陸の北西にある国によって、国々に均等に配置されるようになっている。神官を奪い合っていらぬ争いを起こさせないようにという事情もあり、神官の情報というのは最低限しか出回る事がないのだそうだ。


 自分の足で直接探すというのも難しいみたいだ。

 この世界では結界の張れる神官を伴わずに結界の外に出ることは、どんなに強い人でも自殺行為だと言われている。なのでリリアス大陸のほとんどの国では、人の往来は厳しく制限されているのだ。

 国同士の公的なやり取りはあるが、個人で観光というような事は基本的には不可能なのだ。そのため蒼い神官服を着ている神官の国に直接行くことすら簡単ではない。

 強くなって軍人になれば、公務で国の外にも行く事もあるらしいが人探しどころではないだろう。

 自分が神官になるの以外では、これ以上の事を調べるのは難しいという結論に至った。

 しかし感度1の私が神官になれるはずもない。

 ……もういろいろ詰んでるだろ、これ。


 三で神官じゃなかったので見つけられなかっただけなら、これから切り替えて地道に探すしか無い。

 だがルイスが神官に敵対している立場である可能性もある。その場合は何が起きるかなんてもはや分からない。

 私がリース条約に触れるかもしれない異世界からの転生者だと神官にバレて、隠蔽するために誰かが殺しに来るのではないかとも思った。

 今すぐ安全な場所に逃げた方がいいのではないかと考えたが、神官無しでは成り立たないこの世界のどこに逃げ場があるのか分からない。母様と父様はここでは重要な役割を持った仕事をしているし、知り合いも多い。それに母様は身重だ。あと3ヶ月もしたら子どもが産まれるのだ。移動するよりも、このままの方が安全だろう。

 私は自分にそう言い聞かせて、不安な気持ちをやり過ごそうとした。

 どちらにしても、これから私にできる事なんて無かった。


 まぁ随分後から冷静に考えたら、この歴とした精霊法治国家でそんな犯罪者が早々にでてくるはずは無かったのだが。

 



 何はともあれ母様と父様はここ数日引き続き情報を集めてくれていたが、とくに目ぼしいものは無かった。

 私は2、3日は体に力が入らなくて、攻撃魔術の練習の時以外はふて寝したりもしていた。

 やっとどうにか動き出していつも通り過ごそうとしたが、何をしていても悪い事が起こるのではないかとずっと落ち着かなかった。

 唯一攻撃魔術の練習の時だけは、不安を糧にして並々ならぬ集中力が発揮できた。見えない敵に対して怯えるよりも、返り討ちにする力が一刻も早く欲しかったのだ。


 攻撃魔術の基礎1-1の水弾はこの1週間でかなり上達した。それまではまったく出来ていなかったのに、空中に10秒間ほど浮かせられるようになり圧縮も少しずつできるようになっていた。

 今まで何故できなかったのか分からないぐらい、日に日に上達していた。

 だが、まだまだ全然足りない。もっともっと強くならなければ。

 母様や父様やアンヌを守れるぐらい強くなりたかった。


 

 そうして今日も不安を抱えながら、何も起こらずに平穏な1日は過ぎていった。

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