prologue 2
俺達の通う学校、市立葛城高等学校は市街地から少し離れた丘の上にある
駅から繁華街までの街並みを一望出来るここはカップルに人気らしい
そんな賑やかな景色とは裏腹に、コの字型に建てられた校舎のすぐ後ろには鬱蒼とした山が迫っている
「九十九ー!」
教室に入ると騒々しく一人の男が駆け寄ってきた
俺はこれからこの男が何を言うか大体検討がついていた。そしてまたかと頭を抱える
「今日の現国当たるのに、ノート忘れてきちまったんだー!急いで写すから貸してくれっ!」
「何度目なんだよ…全く」
この男、五十嵐 隼人はどうしようもなく忘れっぽい男だ
弁当を忘れ、宿題を忘れ、はたまた人に貸した漫画を忘れ、逆に俺が貸した本を忘れ…
兎にも角にも何でも忘れる鳥頭だ。周りの友人からも『ハヤトリ』と呼ばれている
俺は渋々肩にかけた鞄から現国のノートを取り出して隼人に差し出した
「サンキュー!今度何か奢るわ!」
「はいはい。良いから早く写して返せ」
隼人は慌てて自分の机に戻っていった
「隼人くんはいつも元気だねー」
「元気っていうか…騒々しいだけだろう」
俺達も自分の席に着き、一限目の準備に取り掛かろうとしたその時俺の机の上に女が座ってきた
「おはよ。九十九」
また面倒なのが絡んできた。俺は深く溜息を吐いて俯いた
「小宮山…」
小宮山 玲奈。高校に入った当初に『一目ぼれをしたから私と付き合いなさい』等と意味の分からない事を言われてずっと言い寄られている
不運にも3年になった時のクラス替えで、小宮山と同じクラスになってしまった為言い寄り方は日に日にエスカレートし、今では何故だか彼女面をされている
「どいてくれ。邪魔だ」
「彼女に対してそんな言い方、酷いんじゃない?」
言いながら小宮山は顔を近付けてくる。俺がすっと顔を背けると小宮山は両手で俺の顔を挟んだ
小宮山の腕を掴んで払いのけると、不貞腐れた表情で「いけず」と呟き自分の席へと戻って行った
本当に小宮山には困っていた。毎朝毎朝顔を合わせる度に「おはようのキスは?」だとか言って絡んでくる
特に毎朝翠と一緒に登校してくるのがとにかく気に入らないらしく、翠はよく小宮山に睨まれ『小宮山さんは苦手』と漏らしている
小宮山は男子から人気があるらしく、クラスの男子からは『羨ましい』『贅沢な悩みだ』とか言われるが好意の無い人に無理やり迫られる身にもなってみろと言いたい
結局一限目の準備をする間もなく授業は始まってしまい、隼人が現国のノートを返しに来たのは現国が始まる3分前の事だった