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花より団子

作者: 伊豆海




四時間目終了後隣に座っている女子がこちらを向いた。

スポーティーな茶髪の、夏服を着た女子。

背はそこそこ高い。目の前にいるからわかるけど、頭が視線の辺りにある。決して俺の背が低いわけじゃない。目の前のやつが少し高いだけ。

そして胸は……、ま、まあ制服の上から普通にわかる程度。

そんな女子が俺の真ん前に現れた。

何をしたいんだか。


「ねえ。あなた付き合ってくれない?」


突然の彼女の一言で、時間が止まったと思うほど、周りが静かになる。


「昼飯を買うのにか?だったらお前の友達と行けばいい」


俺は、無視をして自分のかばんを漁る。飯こそ今の俺の正義なのだ。弁当、昼飯、万歳。


「何言ってるの?」


しつこいな、腹が減ったんだ。後にしてくれ。


「お前こそ何言ってる、早く行けば。俺は弁当があるから」


べーんとう、べーんとう。あっそれ、べーんとう、べーんとう。


「ああ、あなたは理解して無かったの?男女交際って意味で何だけど、理解できる?」


『えーーーーぇぇぇぇェぇぇぇぇ』


「あの子があいつに?」


「あいつってそんなに冴えてたっけ?」


「あの子は俺のDガッ、グハッ…………ッッッッ!!」


クラス全体がざわめいた。

あれ?一人なんか変なやつが居た?つーか途中で悶絶してなかったか?そいつ。しかもD、D…d…ダ…だ……大福なんかいいかもな。


「そうだな……」


近くの和菓子屋で安いの無いかな?


「……!!」


女の子は当然のように目を細める。


「ところで何で俺だ?お前のことが好きそうなやつなんてこの学校に沢山居るだろ。首輪とリードを付けてそういうのをペットにすればいい」


そんなやつ、ホントに学校に出たら見てみたい。

軽く笑って終わりだろうけど。


「なにそれ?」


冷めた口調で聞き返される。やばい、へましたか?


「悪い、お前がそういう趣味を持っているものという偏見を持ってみていだ」


何と清々しい程に他人に対する偏見を口にするのもなんだが。それにしても、飲み物は見つかったのに弁当が見つからない。

べんとー。べんとーやーい。どこだー。


「まあ、どちらにしろ、お前を好いているやつはいるはずさ。だから、これだけ言っておく。」


「な、なに」


「一昨日来やがれ」


かばんから弁当を探し出して、手に持つ。ヒャッホー!! めーし、めーし。らんらんらーん。今日のおかずはなんじゃらほい。


「そう言うことだ」


そう言って静かに昼飯を食べれるような場所を探すために吐き捨てるように言った。

女子は、目を丸くしてその場から動けなくなっていた。



その後、俺を待ち受けていたのは、ご理解いただけるようにクラスでのバッシングの嵐だった。

言うまでもないことか。

隣にいるあいつは何かを考えてるようにいつも以上に難しい顔して黙っていたことがその時の印象だった。

その時は気がつかなかった。ああ言ったがためにあんなことが起きるなんて。





こんなに唐突な開始は、結構暴力的気がするからもっと解りやすいように順序立てて話を進めるべきなのだろうが、何にしろこれが俺にとってすべての始まりなのだろうと思えてならない。

順番が悪いけど、これから簡単にやつと初めて会ったときのことを思い出そうか。

俺が彼女に会ったのは、この年の春のことだ。

高校二年の春。中弛みの二年生と言われるに恥じないくらいに、学校にも慣れ。

後輩もでき。

静かな学校生活と、食い物にも恵まれる日々。

そんな高校生活の二周目が始まった。

そう思っていたし、疑わなかった。

そして、初日の自己紹介なんて俺は聞いていなかった。この時点で名前を知っているのは、中学からの知り合いと、一年のときの知り合いだ。

ちなみにその女子は今回がお初である、故に見たことも、聞いたことも……いや、聞いたことはあるか。

何でもその体型とルックスから男子に人気なのだそうだ。

花より団子な俺でさえ、その評判は聞いていた。

しかし当時の記憶の中にはそういうやつが居る程度の認識だった。

なにせ当時は、お菓子ファンタジーとなっていたからな。Hahaha。

それから今の席になったのは、半月前の席替えでだ。

席替えは、担任の指向により最初の一月以後、男女別々にくじを引き交互に並べられた列に座ることになっている。

そのせいで、俺は一月ごと窓側の席の権利を失う悲劇が繰り返される。

そんな、あるときのくじ引きで引いた席がそいつの隣だった。


「初めまして。幡野雅翔はたのまさとくん」


これがそいつの第一声。


「初めまして。ゴメン、君の名前知らないんだ、なんて名前?」


なんて最悪な切り返し。


「百合子、東郷百合子」


「東郷さんか、よろしくね」


この、端から見ればあまり好感を得られない出会いから半月後 。あの冒頭の事件となる。

何を間違えたのか今だに自分ではわからない。

半月の間、授業でも話したし、普通に休み時間もそれなりに話していた。

そして、冒頭の事件から三日後。

さらに不可解なことが起きた。





「なンッジャこレィゃーーぁ!!!!!!」




ホームルームすら始まっていない教室にこだます絶叫。

クラスにいるやつの一部がクスクスと笑っている。

ホームルームが始まる前に少し寝るかっと寝て起きたときに、何か少し息苦しいなっと首を触ると、首輪がしてあった。

朝来てホームルームが始まるまでの十五分ほどの間に誰かにされたのだろう。

取ろうともがくもなぜか南京錠付きで、取ることが出来なかった。

だ、誰じゃあ、こんなことするやつは。


「大丈夫?」


聞き覚えのある声。

隣の女子だ。


「な、なあ。俺にこれ付けたやつ知らない?」


「あー、それ。私だよ。あなたに似合うかなって買ったの。どうかな」


悪びれた様子の無い声が帰ってくる。


「は?」


理解できない。確か三日前に振ったよな?

綺麗さっぱりに。


「こっちに振り向いて貰えないなら、自分のものにすればいいんだね。三日前にあなたが教えてくれたことだよ」


「何言ってるの?」


「だって言ってたよね。あなた『首輪とリードを繋げてペットにすればいい』って、ついでに耳も付けといたから」


その時の彼女の顔を俺ははっきり見れなかった。

一瞬見たけれど。

少しいつもより瞳孔が開いたような目をして、顔を赤めらせて、手綱リードを両手で握り締めているクラスメイトなんか、誰が直視できるのだろうか。

変なことをカッコつけて言わずに、ただ単純に、簡単に、残酷に断ればよかったと後悔しか出来なかった。

あ、あれ? なんか変なこと言ってたよね。ミミ?

急いで首にあった手を頭に持ってくる。


モフ、モフ。クイッ。


「み、ミミがー!!!」


「『ミミガー』? 美味しいよねミミガー。沖縄の食材で、確か豚のミミだったっけ?」


「そんなことを言いたいんじゃ無い。何でこんな徹底してるんだ。」


ミミガーか、おきなーに食べに行きたいなぁ。

山羊汁もいいな。いや、ソーキそばも外せない。でもやっぱりお菓子は欠かせないよな。南国のフルーツも最高。


「あなたはもう私のもの。彼氏彼女が出来ないなら。飼い主とペットでいいの」


目を反らせる俺の顔をそちらに向け、


「もうあなたは私のもの誰にも渡さない。首輪であなたが私のものってわかるんだから。後は手綱を付けるだけ。ウフッ」


き、キメー。この尼……。もういっそのことお前、豚さんと一緒に泥まみれになって遊んでろよ。あいつら意外と綺麗好きだから案外仲良く……。じ、じゃなかった。

顔の状態は変わっておらず、さっき見た事実を、見間違えてなかったと、絶望し諦めた。

さらに呆れながら尋ねる。


「何でそんなことまで何でやるの?」


「私を断っておいて他の女に行ったら気に食わないから、ならあなたを縛り付けるしかないって思ったの」


「は?…………何、言ってるの?」


そんな相手、俺には居ない。要るのは、十時と十五時の二回のオヤツが付いた五食昼寝付きの仕事だ。他人から文句が付かない自宅警備員でも可。もう一回飯がついてるんなら、一日六食でも可。


「いろいろと友達から聞いたんだ。あなたには思ってる人がいるって」


「はぇ、誰のことだ?」


はて、誰のことだろうこの学校には居ないはずだけど。

お隣りの犬にペロペロされるが。


「いい加減なこと言わないで!!!!」


視界に入っていない女子は、声を荒げる。


メスの臭いがする。私が告白して断られたことは一度も無いの。当然告白されることもある。そんな私を断ったあなたが近寄ることを許した女なんて私は認めない」


自分の服を嗅ぐ。臭いなんかついてるか?

うーんと、ああ、


「それ、多分姉さんだよ。全くもういい歳だっても、全然離してくれないんだ。それか、パピーかな。あいつ嘗めるの、なかなかやめないから」


「血が繋がってたって関係ない。本気で襲おうと思えはそんなの役に立たないの。それにあなた赤の他人の先輩と仲良くしてるらしいね。それも許せない。何で?私じゃ何がいけないの?あとパピーて、誰? な、嘗めるのをやめないなんて、破廉恥にも程がある。私にも嘗めさせろー!!」


急に飛びかかってくる、発情した女子をかわす。


「少し落ち着け。パピーは、メス犬だ。隣の家が飼ってる犬だよ。なんだがいろいろと物事が歪んできてるぞ。落ち着いて話せばなんでも解決するはずだからやめろ」


「なんだ、犬なんだ。女はみんなあなたには犬にしか見えまいんだ。仕方ないよね。だから異性に興味が無いんだね。それならそうと言ってくれれば良いのに、そうしたら私だけは違うって所、あなたにいっぱい見せてあげるのに」


「理解してくれよ。パピーは、マジで犬なんだってミニチュアダックスなんだって」


なんとまあ、何も理解しないまま、相も代わらず、少し開いた瞳孔、少し桜色を帯びた頬をした災厄がそこには居た。


「けどね、これだけは決定事項」


「な、なに?」


「今あなたにどんな人が居ても。どんな犬が居ても。あなたは私のペットなの、わかるよね」


もう見飽きてきた酷い顔。よだれが出てない分まだいいか。


「そんなの俺は認めない。俺は逃げ切る」


女子は耳元でこう呟いた。


「逃げ切れるものならやってみればいいよ。でもこれだけは覚えておいて」



「『私はあなたを逃がしはしない』」



その時肩によだれがかかったのを覚えている。

よだれを出すのは飯を目の前にしたときだけにしやがれ。

…………いや、もしかしたら飯があったのかも。いや、お菓子でもあったのかも、なんとまあ、惜しいことをした。

周りを見ると、男女仲良く引いていた。

その時に見えてしまった彼女の顔は、トラウマになること間違えなかった。



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