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琵琶湖伝  作者: touyou
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第二部琵琶湖決戦編九十四「流れ雲」

 巡礼姿の女は、後方に飛んで着地した良之介の胸めが

け、両手を前に突き出し飛んでいく。

 まさに己の体を弓矢の如く、いや弾丸の如くして、宙を

飛んでいったのである。

 良之介は女のその体技に驚きあわてた。

 一直線に、良之介に向かって飛んでいく女の右手には、

いつのまにか短刀が握られていた。

「アッ」

 気づいた正英は言葉を発したが、女をとめるひまはなか

った。

 良之介は、まったく女が突き出す短刀に気づかず、その

まま短刀を胸に受けてしまう。

  ・・・・・・・。

 正確には、短刀の先端を受けてしまった。

 お香が、すばやく縄を投げて、女の両手首に巻きつかせ、

「グイッ」

 と引いたのだ。

 女は、失速し地面にたたきつけられかけるが、なんとか

ふんばり、片ひざ立ちで良之介にむかい、首をあげた。

「チクッ」

 かすかな胸の痛みに気づいた良之介は、己を殺そうとし、

今、己を見上げる女をみた。

 笠の上から垂らされた薄い布で女の顔は、はっきりと見

えない。

 お香が、女の背後に回り、縄を女の体全体にまわし、締

め上げた。

 女は痛みから短刀を落とすとそのまま両膝をつき、身動

きできなくなった。

「あんた正気なの。道を譲るかどうかで、人を殺すの」

 お香は女をなじり、縄をさらに締めた。

「ウッ」

 女のうめき声がする。

「お香、許してやれ」

 真横にきた正英がお香に声をかけた。

 お香が振り向くと、編み笠の男以外のあとの五人がすで

に抜刀し、こちらを見ている。

 お香の眼には、抜刀した者たちの遠くにある銀杏の樹が

映っていた。

 鮮やかな黄金色をしていた。

 空は、晴れている。

 ひとつふたつと、柔らかそうな雲が浮かんでいる。

 秋も終わろうとしている十一月の流れ雲であった。

 あと一時間も経てば、この空は赤くなり、そして薄墨色

となり、闇となる。

 そんな時間に、こののんびりとした風景の中で、正英と

お香と良之介は、争闘の場に立っていた。

 正英は、「揉め事」を起こしたくないのだ。

 今すべきは、桑名に戻ることである。

 その正英の結論が、

「許してやれ」

 であった。

「刀を納めろ」

 編み笠の男の声がした。

 抜刀した五人は、刀を鞘におさめる。

 男は笠をとった。

 浅黒い顔で、彫りが深く整っている。

 凍りついたように冷たい眼差しが、人を威圧する。

 四十をすぎて間もない年格好であった。

「拙者は、乗月源三 (のりづき げんぞう)という者。柳生

七子 (やぎゅうしちし)が頭領で、他の者は七子の面々。そ

の女は倫敏 (りんびん)と申す」

 以下九十五に続く

 ヨコ書きこの下のネット投票のクリックして一票入れてください。これを書いた努力賃です、情けをかけておくんなさい。

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