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琵琶湖伝  作者: touyou
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第1部関ケ原激闘編9「義弘悩む」

 今この島津本陣にいる兵達はすべて義士である。

 その思いが義弘の胸をしめつけるのは当然であっ

た。

 この老武将の身を案じ、遠く薩摩から来てくれた

強くて優しき男たち。その男たちもすでに多くが死

んだ。

 残る者たちを一人でも逃がすのが義士への自分の

務めでであり、そのためには、自分が犠牲になるし

かないではないか。

 だが豊久の言い分もわかる。

 家康は三成に加担した大名の領地を絶対に没収す

る。

 手加減はせぬ。

 するとしたら損得勘定で損をする時だ。

 家康に島津に手を出すことが損だと思わせるには、

手を出せば、どんな恐ろしいことが起こるかと思わ

せるには、わしが生き、さらに徳川に島津の怖さを、

この小人数で思い知らせることだ。

 たったこれくらいでもこの凄さは何だ。

 薩摩本国を攻めれば、どれくらいの、徳川の人間

が死ぬのだ。

天下の形勢が決まった今、そこまで島津に固執する

必要があるのか、

 そう家康に思わせるのだ。

 そしてそれは、今ここにいる、義士たちの力を持っ

てすれば、不可能では ない。

 しかしそれは、この義士たち全員に死ねというこ

とだ。

 そのような事が、わしに、できるはずがない。

 特に、わが子も来てくれぬ中で、

「死んだ父ちゃん(家久)が夢ん出てきて、義弘の叔

父さん、助けに行っちこいって、言いよった」

 と笑いながらやってきた、純朴で一途な豊久よ。

 お前は絶対死なされん。

 どげしたらいい、どげしたらいい、このわしの命

だけを考える荒武者を、己の死など厭 (いと)わぬ者

たちを救うには、どげしたらいいんじゃ。

 ひたすら懊悩 (おうのう)する義弘であった。


「義弘様、どうなされた」

 その声で義弘がうつむいていた顔を上げると、声

の主は家老の新納旅庵 (にいろりょあん)である。

 いつのまにか来ていたのだ。

 そして新納のまわりには、桂 忠詮 (かつらただ

のり)、山田有栄 (やまだありなが)の顔もあった。

 豊久と長寿院を含め、義弘の周りにいる五人は全

て秀吉の朝鮮出兵の最終戦といえる一五九八年の泗

川 (しせん)の戦いに従軍したものたちである。

 泗川の戦いは朝鮮半島南部の泗川で島津軍が単独

で明、朝鮮連合軍と戦い明、朝軍に壊滅的打撃を与

えた大会戦である。

 いわばこの五人は、義弘と朝鮮で死線を乗り越え

てきた義弘の同志ともいえる存在であった。

 殿、うっとうしい顔をしたらいけんぞ」

 言ったのは桂忠詮である。

 年は四三歳。

 この二十年以上を義弘の下で闘い、数々の武功を

挙げた猛者として知られている。

「一言、わしのために、みんな死んでくれ、と言え

ばいい」

 ズバリ指摘したのは、山田有栄である。

 父は亡き山田有信。

 有信の優秀さは島津四兄弟も認めた人物であり、父

の血は脈々と有栄に流れている。

 年は、弱冠二十二歳。

 有栄の言を受けた直後、豊久を生かす案が、義弘に

ひらめく。

 そうじゃ、わしのために、みんな死んでくれという

のは、わしを囲み守るもの共のことだ。

 わしは輿 (こし)にかつがれて動く。

 その姿は目立つに決まっている。

 当然、敵はわしに向かってくる。

 豊久を先鋒にして、道を切り開かせれば、ウン、あや

つの家臣どもの力量なら豊久を守り、猛烈に前進してい

くであろう。

 豊久の生きる可能性はある。

 豊久が先鋒じゃ。

 義弘は意を決し、家臣たちを見た。 

 以下十に続く

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