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琵琶湖伝  作者: touyou
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琵琶湖決戦編八六「彦根の弥助」

 琵琶湖決戦編八六「彦根の弥助」

 まだ陽の高い午後三時過ぎに彦根に着いた正英と

良之介が、目当ての弥助の家を探し当てるのは、難

しいことではなかった。

 孫六の地図と良之介が前に来たときの記憶を頼り

に着いた弥助の家は、小さな店が軒を並べる町並み

の一角にあった。

 弥助は竹細工の職人をしており、家の前にはさま

 ざまな竹で作られた品物が置かれている。

「弥助さん」

 良之介が家の外から声をかけた。

 「どちらさまで」

 と家の中から声がした。

 「良之介です。わかりますか」

 さらに続けると、家の中から一七〇センチくらい

でやや細身の、いかにも精悍そうな顔つきの男がで

てきた。

 「なんだ良之介か、どうした」

 弥助は意外な面持ちで良之介を見、それから正英

を見て、首をひねり悩むような格好になった。

 おそらく孫六から、何の連絡もなかったのだろう

と察した正英は、小声で、

 「本多家のものでござる。中でお話をしたいのだ

が」

 と弥助にいう。

 弥助は、何も言わずに、外に出していた細工物を

中に直し始める。

 正英と良之介はそのまま弥助の家に入った。


 正英が弥助に自分たちが彦根に来た理由、つまり

直政の死因の調査と三成存命の噂の確認、を告げる

と、案の定孫六からなんの話も弥助にはなかったこ

とがわかった。

 ただ幸運だったのは、お耳役としてもう七年、彦

根で情報収集に当たっている弥助だけに、新しくで

きた涼単寺が井伊家と関係が深いことに関心をもち、

すぐに調査、大まかな見取り図をつくっていたこと

である。

 「こんな絵図で、もうしわけないのですが」

 弥助はすまなさそうにいった。

 「いや、建物の配置や井伊家の墓の場所もわかる

んだから、充分ですよ」

 正英は、弥助に心配をかけさせないようにいった。

 「でも、建物の内部については、細かく調べられ

なかったんですか。弥助さんなら、そこまでできま

すよね」

 良之介は昔なじみの気安さで、若干の不満を弥助

にいう。

 良之介の不満に対しての弥助の答えは、非常にこ

の涼単寺は警備が厳しく、昼夜を分かたず、井伊家

の侍と井伊家に雇われている甲賀衆が監視していて、

何時間もじっくり調べるゆとりが、なかったというこ

とであった。

 「なぜ甲賀とお分かりか」

 正英が問うと弥助は、

 「三メートルほどの長槍をもっている十名の者が

いて、その中に甲賀伝兵衛 (こうがでんべい)の顔が

ありました」

 といった。

 甲賀伝兵衛とは、甲賀五十三家 (こうがごじゅうさ

んけ 甲賀忍者の中の代表的な家の総称)のなかでも

長槍使いの家として有名な信楽 (しがらき)衆の頭領

である。

 赤ら顔の大男で、そう見誤るものではない。

 石田三成の下で忍びとして働いており、三成支配

の彦根時代に弥助が調べ済みの顔であった。

 正英も三成と甲賀伝兵衛の関係くらいは知ってい

る。

 甲賀伝兵衛がなぜ井伊家の者たちといるのか。

 弥助の話は、正英の心の中で、三成存命の噂に、

俄然、信憑性 (しんぴょうせい)を帯びさせたのであ

る。

 「弥助さん、井伊家に甲賀伝兵衛の取り合わせは

不自然すぎますね」

 正英の感想に弥助もうなずき、

「実は忍びこんだとき、寺院の中で、墓地の入り口

に近い部屋から出てきたお坊様が、石田三成にそっ

くりで驚きました」

 と、話をつなげた。

 以下八七に続く


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