第1部関ケ原激闘編59「暗器師」
家康は、あの関ケ原が終わって3日目に来て、今回も来た朝廷の使者、
烏丸中将成幹 (なりみき)に興味がわいていた。
勧修寺晴豊を通じてかなりの公家衆と交流のある家康が、まったく知ら
ぬ者であった。
「あれは、暗器師 (あんきし)でおじゃる」
と、晴豊が前に並べられた酒肴の膳の品を、口にしたのち言った。
「暗器師とは何か」
板倉勝重が問うた。
晴豊ではなく、金地院崇伝が口を開いた。
「暗器とは手に隠し持った武器のこと。たとえば手裏剣。そこから派生
し、暗器師といえば、敵対するものを毒物などで自然死にみせかけ殺す人
間を指すはず」
晴豊は、大きく頷き、
「さすがは、博識の崇伝はん、その通りでおます。そやが、公家衆が使
う暗器師は、暗殺を仕事とする役職ですわ。そやから、隠さなあかん。表
立った役職には絶対にでまへんな。朝廷が、持ってはいるんやが、隠して
るちゅ意味もこめて、暗器師なんや」
と、いう。
「朝廷の役職に暗器師というのがあること、初めて知り申した」
金地院崇伝が素直にいうと、晴豊がより説明した。
「いや、公家さんの中にもしらん人のほうがおおいわ。ほとんどの公家
さんに隠さな暗器師の意味がないわ。でも起源は古いんやで。政敵の暗殺
は、いつでもあったんやからね。大化の改新をはじめ、ありとあらゆる朝
廷内の政変で、暗器師は帝のために活躍してるんや。ただ、暗器師の家は
古来より、烏丸中将成幹の家しかないんやけどな」
「暗殺が烏丸の御家芸ですか」
板倉勝重が眼を丸くしていった。
「ほんと驚くわ。そやけど事実や」
「御家芸といっても暗殺の仕方には様々あるはず。何か得意技があった
りするのか」
家康が、問うた。
以下60に続く