第1部関ケ原激闘編53「人間孫六」
正英は、
「それは他人…ああ、そうか。他人は外様大名、身内は譜代。家康様
を助けた外様の方々を厚く遇するのは、自明でござるな。さすが梶様、
頭脳明晰」
と、答えるうちに、疑問が解消され、梶金平の頭の良さをほめた。
梶金平は、内心、
「正英、お前の頭がぬるいのだ」
と、思ったが、口には出さず、
「外様の方々は今からが大変なのだぞ」
と、正英にいう。
「家康様は、常に民の安寧を目安に、物事をお考えになる。今回の論
功行賞で大殿は、賞すべきものを賞された。しかし、賞された者が、任
せられた領地領民の幸福を考えず、公のために生きることを忘れれば、
また統治する器に欠けるならば、賞された者の所領は没収され、他の者
につかわされることになる」
正英は、梶金平の顔を直視し、
「さすれば、外様の取り潰しが、今から横行するのでしょうか」
と、問う。
「いや、あくまで器量のない者に対してだ。ただし外様の方々は、合戦
前の2倍から3倍の領地をもらっている。さすれば、これまでの器量だけで
は、器量不足になるわな。それに対し譜代は、家康様の家来じゃ。家来が
家康様やそのお子様たちと同格の所領は、そう頂けるわけがない。その分、
譜代には、家康様は甘くしてくれようぞ」
正英は、梶金平の話を素直に受け入れていくと同時に、梶金平が武術の
みならず、物事を考える力にも秀でていることに感心した。また己の器量
の未熟さも痛いほど自覚させられ、良い時間を過ごせていると思った。
その時、息も絶え絶えの孫六の声が聞こえた。
「まさひで…かたと…また…は元にもどせた…・・」
「…くび…くびが・・戻らぬ…ここを…ここを軽く突け」
と、耳の上の部分を指差した。
孫六が点欠(特定のツボを突いて体内の気の流れを停止させたり回復させ
たりする技のこと)を施せといっていると理解した正英は、孫六から指示さ
れた部分が、頭を回転させる径欠 (ツボのこと)と判断し、ためらうことなく、
己の右手人差し指に気を集中させ、点欠した。
すると即座に首が、もう180度回転し元に戻った。
孫六は、
「ウーン、肩こりが治っちゃった」
と、気持ちよさそうに起き上がった。
梶金平と正英は、孫六のその姿に、
「人間じゃないよね」
と、思うのであった。
以下54に続く