第1部関ケ原激闘編45「孫六の自慢」
「本当に一日のうちで何人も切られて、怪我をした
り、死んだりで、守勝は家康様から補佐役として直
政様に付けられた身、注意や指導をするのだが、そ
のたびに守勝にも切りかかり、守勝は毎日、家族と
水杯をして出仕するそうだ」
梶金平が木俣守勝の苦労をかたる。
「普通だと大げさに聞こえますが、直政様を見たあ
とだと、さもありなん、と思いますな。ところで、
木俣様と梶様は、昔からのお知り合いだったのです
か」
正英が梶金平の話を受け、疑問を問う。
梶金平は、自分でついだ酒をグイと飲み、
「ハハハッ、守勝もわしも今年で51歳。三河の幼馴
染よ。あいつは子供の頃から、正直、誠実、思い込
んだら命がけの人間でな、18くらいの時、自分の実
力をもっと高めたいと、国をでてな。わしも忠勝様
も止めたのだが、思い込みの激しいやつだから、三
河の夕陽だけじゃない、いろんな国の夕陽にむかっ
て走りたいんだ…などと意味不明のことを口走って、
隣国の尾張の方に走っていったよ…」
今度は正英が、梶金平に酒を注いだ。
梶金平は一息で飲み、話を続ける。
「そのあと、十数年経って、信長様が信濃より攻め
入り、甲州(甲斐 今山梨県)まであっというまに侵
略してな、攻められた武田勝頼様は甲斐の天目山で
自害、武田家が滅亡した(1582年)…それで大勝利の
信長様は、帰りは東海道を通られた」
「信長様を実際に見たことがあるのですか」
正英が興味津々といった顔で聞いてくる。
「やせて色の白い方だったよ。神経質そうでな…織
田家の方々は、みんなピリピリして信長様の顔色を
伺っていたな」
梶金平がなつかしそうにいうと、
「わいは信長様に鉄砲を撃ちかけたことがあるんや」
と孫六が突然信じられないことをいいだした。
「あの大阪の石山合戦、天王寺砦の戦いか」
梶金平が真剣なまなざしになっていう。。
「そうどすがな。わいは二十歳や。兄貴(雑賀孫市)
の率いる雑賀の鉄砲衆の一員として、本願寺の坊さ
ま達を信長様から守るために、一向門徒として参加
したんや」
孫六は自慢げに梶金平と正英を見まわした。
以下四十六に続く