第1部関ケ原激闘編41「懐かしき者」
第1部関ケ原激闘編41「懐かしき者」
大阪は豊臣である。
父も弟も豊臣の力を信じ、徳川と豊臣の戦いがこれ
からも何度もあると考えているのか、と信幸は思った。
家康様の考えの根本は、日本から争いを消滅させる
ことだ。
父と弟を家康が、
「殺すしかない」
といったことを、信幸は思い出していた。
そして、
「父上、戦のことは二の次にして、紀州での
んびりお過ごしください。幸村は学問や武芸に励んで
くれ」
と昌幸には子として、幸村には兄としての言葉をか
けた。
昌幸と幸村は同時に、
「偉そうにいうな」
と言葉を返した。
信幸は己の忍耐の限界を感じ、
「とにかく、あさってまでに、城を出てくだされ。後
の始末は、私がすべてやりますから」
というと、小松姫に帰ろうと眼で合図をした。
「わかったわかった、この犬畜生」
と昌幸が言い、
「了解、豚野郎」
と幸村が言った。
二人の悪口雑言を背に、信幸たちは部屋を出、上田
城を去っていった。
城外数歩のところで、
「信幸さま」
と背後から声をかけ、近づいてくる赤ら顔の男がい
た。
猿飛佐助である。
小松姫が、
「佐助さん、久しぶり」
といい、信幸は軽く
「ヨオッ」
て感じで手を挙げる。
正英は会釈したあと、孫六に佐助を紹介する。
小松姫と信幸の文通の手助けを正英としたことをい
えば、
「あれから、もう11年か。我らが沼田に去って十年、
おぬしにもそれ以来かな」
と信幸が懐かしがる。
佐助も、
「十年ぶりでござる。お変わりなく」
と応えた。
以下四十二に続く