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琵琶湖伝  作者: touyou
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第一部その4[失われし時を求めて」

 その4では井伊直政の紹介と雑賀孫六の悲しい過去を描きます


 井伊直政は遠江国井伊谷に名門の地方豪族の子として

生まれた。

 父が二歳で死に家が没落十五歳まで苦労辛酸をなめる。

 1575年すでに三河遠江の二国を領有し居城を浜松

に置いていた家康は、井伊家の没落を憂い、直政を家臣

に加える。

 以後の武功はすさまじく、その功で1582年には武

田家滅亡後不遇をかこっていた旧武田家家臣団を家康が

取り立て、直政に付け、さらに家康直属の武将であった

木俣守勝も与えた。

その際、直政は武田家の有力武将達が用いた赤備えを採

用し、兜、甲冑、具足に旗まで全てを赤色に統一し、井

伊の赤備えとか赤鬼と言われることになる。

 また何度も書いたが直政の娘は家康の四男松平忠吉に

嫁いでおり、徳川家との縁戚関係も強い。

 家康に出会うまでの直政が厳冬としたら、それ以後は

陽春である。

 ただし厳冬に戻らぬためにひたすら家康に功名を示し、

その存在意義を高らしめるのに努め、ために己にも家臣

にも厳しく怜悧な思量をする人間であった。


 その直政の陣に雑賀孫六は忠勝の口上を伝えに行った

のである。

 そこはまさに赤色の世界であった。

 会う兵士会う兵士全てが頭のテッペンから足の爪のさ

きまで赤で統一され、旗も陣に張る幕も赤。赤、赤、赤

の洪水の中、孫六の視神経は彼の脳にある刺激を与えた。

 その刺激は彼の脳内に眠り、数十年間動こうとしなかっ

たものを意識の世界に押し出す効果を生んだ。

 しかし彼の意識はその現出を阻んでいた。

 木俣守勝に誘導され、直政の前にでた瞬間、あまりの

赤の鮮やかさに孫六は眼を奪われた。

 全身を埋めるその赤は直政を炎の化身のように思わせ、

その衝撃から孫六は作法としてひざまずくとき、前のめ

りになった。

 その体勢を直そうとした刹那、意識のたががはずれ、

眠っていた失われし時が蘇ったのだ。


 それは兄の孫市が十四歳、孫六が四歳の40年前の

夏のことであった。

 海で遊んでいた二人は鬼ごっこをして断崖絶壁の縁

までいってしまう。

 「兄ちゃん、こわい」

 あと1メートルくらいで海に落ちそうなその位置は

幼い孫六の恐怖を誘うに充分であった。 

 「孫六、こんなとこまで来てごめんね」

 と孫市が弟の手を引き、帰ろうと振り向くと、なん

と二人の10メートルほど前で、牛がその大きな眼を

ぎらつかせ、こちらをみていたのだ。

 当然だが、夏の海辺、二人はふんどしのみである。

 孫市は白、孫六は……赤色であった。

 赤色が牛をどう猛にすることを知っていた孫市は孫

六から赤ふんどしをはずさせ、赤ふんを手にするや、

横に飛び崖を背にした。

 孫六を危険から離すためである。

 赤ふんの移動を確認した牛は猛然と赤ふんめがけて

突進した。

 「にいちゃーん」

 孫六は兄の危機に声を挙げた。

 孫市の胴を牛の角が貫いたと見えた瞬間、孫市は宙

に舞い上がり、クルクルと回転しながら、牛の背後に

降り立った。

 目標をなくし加速度もついている牛はそのまま崖を

越え海に、と思われたが牛もさるもの、前の両足は崖

の外にでたが後ろ足で踏ん張る。

 生死は天命とその場を去ろうとした孫市は孫六を探

した。

 何と孫六は

 「牛ちゃん、牛ちゃん」

 と牛に近づき、牛のお尻をなでたのだ。

 そのわずかな力の働きが、生死のバランスを崩した。

 牛は少しずつ死に向かい前進していく。

 君はなんという事をしてくれたんだと、牛の大きな

大きな瞳が孫六に訴え、その瞳が孫六の視界から、ゆ

っくりと消えたとき、牛は自然の摂理としての落下運

動を海に向かいしたのである。

 「ごめんなさい、ごめんなさい、牛ちゃん」

 幼き孫六は泣く以外の手段を持っていなかった。

 以下その5に続く

 ヨコ書きこの下のネット投票のクリックして一票入れてください。これを書いた努力賃です、情けをかけておくんなさい。

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