第1部関ケ原激闘編38「忠勝の義侠」
その答えは家康の本音であったが、真田父子の件とは別のこと
である。
真田父子を殺すのは、日本の平和のためである。
「では殿、わしらに免じて、許してくだされ」
「それとこれとは別のことではないか。真田父子を生かすは天下
のためにならぬこと、わかっておろう」
「わかっていても、お許しくだされ」
「許さぬ」
家康も自身、これほどの大声がでるのかと思うほどの声で、叫ん
だ。
忠勝は、
「そうでござるか」
と、意外と弱気な声をだして、信幸を見た。
信幸も仕方ないというように、頷いた。
忠勝は家康に
「家康様の考え分かり申した」
といった。
杓子定規な言い方に
「水くさい言い方をするな」
と家康がいう。
忠勝は穏やかな顔で、
「殿、今まで楽しゅうござった。これにて失礼…」
「忠勝、何をいっておるのだ。楽しくなるのはこれからであろう」
「家康様。わしを敵にしても、真田の首がほしいこと、よく分か
りもうした」
「敵」という言葉に家康は内心、どきりとした。
忠勝はさらに続けて
「これから我が本多家の者どもを率い、この信幸とともに沼田城
に立て籠もる所存。徳川と一戦つかまつる」
といった。
これは忠勝の本心である。
我が愛する小松姫を娶ってくれ、そのために、信幸は真田本家を
離れ、さらに徳川に同調してくれた。
その信幸に忠勝は義理を感じていた。
信幸の願い聞き入れられぬ時は、その義理に殉じようと忠勝は考
えていたのだ。
信幸は泣いた。
岳父の思いに泣いた。
家康はとまどった。
忠勝の本気さにとまどった。
以下39に続く